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第2章 19.巫女は聖なる杯を掲げ


【 豆のスープは定番メニュー? 】



おばさんが怖い顔をして立ち上がった。


「あんた、そんな物をそんなふうに見せるもんじゃないよ」

「あの」

「ちょっと、家に入んなさい」


おばさんは辺りを見回して、私の背中を押した。


「さぁ、そこに座って。今、お茶でもいれるから。お腹はすいてないかい?」

「ああ、そうですね……」


空いてないこともなかった。

朝、お爺ちゃんにご馳走になったスープはもう完全にどこかへ消えている。


「すぐに用意するよ。安心しな、うちには誰もいないから、ゆっくりしなさい」

「あの、それではお言葉に甘えてお願いしたいことが……」

「なんだい?遠慮しないで言ってごらん」

「お部屋をお借りしてもいいですか?着替えをしたくて」

「なんだ、そんなことかい。隣の部屋を使いな。夫は畑に行ってるから昼まで戻らない」

「ありがとうございます」


文化祭の衣装に着替えることにする。また夜を外で過ごすことになるかもしれない。


家具らしいものはひとつもない、部屋の隅に布団らしきものが畳んで積んであるだけのガランとした部屋だった。


着替え終わったアイシャさんの服とアクセサリーを巾着の中にしまった。

部屋を出ると、絨毯の上に広げられた布の上に薄いナンと、スープの入ったお椀が用意されていた。


「おや?変わった服だね」

「ええと……友達が作ってくれたんです」

「そうかい、イルファンじゃ、そんな服が流行ってんのかい」

「友達のセンスは独特なんで……ハハハ」


スープの具は豆と野菜だった。

お爺ちゃんに教えて貰ったように、ナンを割ってお椀の中に入れた。

さっぱりとした塩味で少し酸味があった。


「キャラバンはこの辺りを通らないんだよ」


お茶を入れた小さなお椀を差し出しながら、おばさんがすまなさそうな顔をした。


「そうなんですね」

「明日、街まで連れていってあげるよ。街ならキャラバンが滞在してるかもしれないからね」

「あぁ、でもご迷惑でしょう」

「大丈夫、ちょうど用事があるんだ」

「あの、でも先を急いでいるので、道を教えて頂ければ大丈夫です」


ラシトまでどれくらいかかるのかわからない。

だから無駄に立ち止まりたくはなかった。


「ひとりで行くってのかい?山をひとつ越えなきゃならないんだよ?山賊にでもあったらどうするんだい」

「山賊?そんなのが普通にいるんですか?」

「そりゃ、いるだろう。悪いヤツはどこにだっているじゃないか」


すぐにシミズ(悪人)の顔が浮かんだ。


「でも、早く行きたいんです」




【 誰かの幸運は誰かの不運 】



「でも、すぐに行きたいんです」


おばさんは少し難しい顔をしてから微笑んだ。


「……そうかい。じゃあ夫が戻ったら近所から荷車を借りてもらうから、そしたらすぐに出発しようか」

「はい、ありがとうございます」

「さぁ、おかわりはどうだい?」

「もう、大丈夫です」

「だったら、お茶でも飲んでゆっくりしてなさい」

「はい、ご馳走様でした」


ハーブティーの香りがするお茶はあまり美味しくなかったけれど、出された手前我慢して全部飲み干した。


お腹がいっぱいになって眠くなってきた。


「隣の部屋で休んでるといいよ。可哀想にひとりで不安だったろう」


私はおばさんの言葉に甘えて、隣の部屋で横になることにした。


遠くで人の声が聞こえる。


「本当か?」

「本当だよ、金貨だ。それも1枚や2枚じゃないんだから」

「あんな子供がどうしてそんな大金を?」

「だろう?聞けば連れとはぐれたって、だからひとりでラシトに行くって言うんだ」

「なら、ちょうどいいな」

「そうなんだよ、こんな幸運はないよ」

「とうとう俺達にも運が回ってきたか」

「ああ、そうさ」


頭の上の方に人の気配がする。

凄く眠くて起きられない。


「どこにある?」

「黒い服のポケットだよ」

「大丈夫か?」

「平気さ眠り茸のお茶を飲ませたからね、当分起きない」


ポケットの中に誰かの手が入った。


「本当だ、凄いな」

「飾り物も、豪華だった」

「それは、どこだ?」

「その袋の中じゃないか?」


何してるんだろう……起きた方が良さそうなんだけど、とにかく瞼が重くて開けられない。


さっきから地面が揺れている気がする、気のせいかな。とにかく本当に眠い。


「この辺でいいか?」

「良いだろう、この辺りなら誰も来やしないさ」


遊園地のグルグル回る乗り物に乗っているみたいに、体が宙に浮いたり落ちたり、いつ止まるのかなって思うくらいその状態が続いて。


止まったらまた眠くて眠くて―――――。




あまりの痛さに目が覚めた。


まず草が目の前にあった。

そのすぐ先は藪とたくさんの木の幹が見えた。

木の幹には蔦が絡まり、まるで緑色の鱗が生えているみたいだった。

辺りは暗く虫の声がする。


起き上がろうにも手が動かない。

後ろ手に縛られている?。

足も同じように縛られているんだろうか、動かなかった。

どこと言わず全身が痛い。


これはどういうこと?

何が起きたの?

おばさんの家で寝ていたはずじゃない?


体勢を変えて辺りの様子をみたいけど、少し動くだけで背中や腰が酷く痛んだ。


頑張ってかろうじて顔だけを上に向けられた。


どこ、ここ……

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