第1章 3.異世界への扉が開いちゃた?
【DAY-1 気分下がる文化祭前夜】
「まっ、その辺でいいか」
外廊下の壁に長いポスターを張り付け終わると、シミズが仁王立ちでチェックする。
ポスター係の人がほとんど集まらなくて、ほぼ私一人で作った力作ですよ。
文句は言わせませんて。
「シミズー」
教室の中から誰かに呼ばれ、彼はひょいっと部屋の中に入っていった。
まぁ、文句は言われなかったけど、ちょっとくらい感想言ってくれるかとうっすら期待したんだけど。
なかったな……。
「まぁ、なかなかいいじゃん」
誰も褒めてくれんので、自分で言ってみる。
「ツキ、ちょっと来て、衣装合わせたい」
私も教室に呼ばれる。
「これ……は」
「砂漠の国のお姫様……の侍女①」
制服の上から着せられたのは、つるんと光るサテン素材のお衣装だった。
長袖にVネックの丈長上着、それに同色の長ズボン。
色は薄いピンクで、その上に黒ベロアのちっさいベストだ。
袖口全部にゴム入れたら、あれだ、ピエロ?
けど、せっかく一生懸命作ってくれたんだから、何も言わない。
家庭科2の私には、到底作れないしね。
「おっ、サイズぴった。後はスパンとかリボンとか適当につけてよ」
「はい?」
「これっ、色々入ってるから」
渡された透明のジップロックには、スパンコールやら細いリボンやらのキラキラ素材がたっぷりと入っていた。
「自分で?こういうの無理なのに……」
「こっちだって、そこまでやってられないの」
「本番は……」
「明日だけど、何か?」
「そっ、そうだよね、わかってます当然」
じゃあ、もっと早く渡してくれればいいじゃん!
集まってもしゃべったりお菓子食べたりして無駄に時間潰してたの知ってる。
せっぱつまって投げてる感ありすぎるよ、って心の中で悪態つくだけ。
「はーい、キャストの人集まってー、最後のリハするよー」
リハが終わったのが9時で、家に着くと10時をまわってた。
ここから衣装作りか……
部屋の時計はもう10時過ぎてる。
「ええ、やりますとも!」
と誰に言うでもなく、気合いをいれてみる。
チクチク、イタっ!
チクチク、プスっ、イタっ!
指先はすぐに絆創膏だらけになった。
台本をペラペラとめくり、自分の台詞を確認する。
さっきのリハで、テンパり気味の舞台監督から何度もダメ出しをくらい、たった1行しかない台詞には赤ボールペンで線が引かれている。
「ここは大事な場面で、丸谷の台詞すごい重要だから」
あまりのヘタレ演技に呆れたシミズが、私の台本を奪い取り勝手に引いた線だ。
「ツキ~起きないの?!」
階下から聞こえてくる母の声で飛び起きた。
ほっぺたから、パラパラとスパンコールやビーズの粒が落っこちた。
不覚にも飾り付けをしながら寝落ちしたようだ。
時計を見ると家を出なきゃいけない時間はとっくに過ぎている。
「ヤっバっ!」