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第2章 18.巫女は聖なる杯を掲げ


【 魔神の名前を言ってみてテイク2 】



私はお爺ちゃんのロバに乗り、モフモフ達の移動についていった。

お爺ちゃんの馬はゆっくりのんびり歩くので、繋がっているこちらのロバもゆっくりトコトコと歩く。

馬より小さなロバは揺れが大きくて、乗り心地はそんなに良くない。


日が登りまだ気温が上がる前に、荒野だった景色が変わり始め、今はなだらかな起伏の草原を進んでいる。地面には緑色の草が生え、モフモフ達は草を食みながらのんびり歩く。

前方には緑に覆われた山の連なりが見えていた。


「あの山んなががぁ、バルフの王宮だわぁ」


お爺ちゃんが、木の棒で山の連なりを指した。

ひと際高い山の上に、城壁で囲まれた城のような建物が見えた。

尖った三角屋根の塔が2つ、剣のように飛び出している。


大きな川に架かる橋の前でお爺ちゃんとお別れすることになった。


「この橋を渡ればさぁ、大きな村があるけぇ、誰が街まで行ぐもんに付いてげばよぉ」

「はい、わかりました。ありがとうございました」

「んじゃ、気ぃづけね」

「あっ、あの!もしかして、魔神の名前をご存知ですか?」


知らないだろうと思ったけど一応聞いてみた。

モフモフ達はお爺ちゃんを置いて歩いていく。

お爺ちゃんは空を仰いでから、思い出したように答えた。


「そりゃあ、ぃえすぶれぇとぉ、だわぁ」


「エスブレート?」

「ぃえすぶれぇとぉ!」


ん、なんかそれっぽくない?

でも濁音じゃなかったような……。


「ヤスブレート?」

「ぃえすぶれーとぉ」


もういいや。わからん。

ヒヤリング出来んわぁ。


私はお爺ちゃんに手を振って橋を渡った。


もしもシミズ(ぬすっと)を見つけたら、すぐにランプを返して貰わなきゃ。

まぁ、すんなり渡すとは思えないけど。

髪の毛が束で落ちたときの音を思い出し、身震いする。


「うっ、思い出したら気分が悪い……」


私は橋の上から下の川面を覗いた。

でも、なんであんなゴミランプを持っていったんだろう。

何の役にも立たないのに。


「それにしても綺麗な川だなぁ」


眼下の川は浅く緩やかに流れている。

透き通った川の底は白かった。

小さな花をつけた若草色の水草が水面下で揺れている。


今にも河童が流れてきそうだな。

静かで穏やかな流れに暫く癒されていると、何やら見覚えのあるものが、プカプカ浮いているのに目がいった。


「えっ!」


えっえっえっ!ちょっと待って!


あそこの岩に引っ掛かってるのって……



私の


ランプじゃ?!



【 アガル感覚 】



川岸の岩の間に、ニマのお母さんが作ってくれた巾着が引っ掛かり浮いているのが見えた。

私は橋を駆け渡り、土手を下り川の中に入っていった。


早くしなくちゃ、流されちゃう!


上から見たときにはそんなに深くないと思っていたのに意外に深い。

膝下まで水に浸かり、流れに逆らい歩くのはなかなか簡単じゃないな。


そして、ようやく巾着を手に掴んだ。


巾着の口を開き中を確認すると、ランプと衣装はちゃんとそのまま入っていた。


水から上がり岩の上に黒いベストを広げ、祈りながら手を入れた。


どうか、ありますように……


「あった!」


金色に光るブツがちゃんと掌にある。


どうして、こんな所に落ちていたのか?

シミズ(嫌なヤツ)に何かあった?

……いや、正直あんなヤツどうでもいい。


私の大事なお金が戻ってきたんだから、素直に喜べばいい。


衣装をしぼり、岩の上に広げて乾す。

私は木陰に座りランプをじっくりと眺めた。

やはり、どこかの国の工芸品かお土産程度の細工にしかみえない。


きっとシミズ(もう会いませんように)はゴミだと思って捨てたんだな。


強い日差しと乾燥した陽気のおかげで、衣装はあっという間に乾いた。


巾着袋の切られた紐を結び直し、衣装とランプをしまった。


「さてと」


川原を歩いて土手を上る。タンポポに似た花ががたくさん咲いていた。

土手を上がり村へ入った。

民家は木材と泥で出来ていて、外側は白く塗られている。赤や青色のカラフルな扉が目立つ。

窓には板張りの扉がついていて、どこも開け放たれていた。


家の前で何かの作業をしている女の人がいた。

近づいてみると、ザルに入った豆を選別しているようだった。

女の人はそれに集中しているのか、私が近づいても気づかない。


「あのぉ」


声をかけると、女の人がびっくりしたように私を見た。

お母さんくらいの年の人で、日にやけて逞しい感じだ。

カラフルな色の服を何枚か重ねて来ている。


「あのぉ、ちょっとお聞きしたいんですけど、あっ怪しいものじゃないんです」

「……この辺じゃ見ない顔だね」

「ええ、まぁ。旅をしてまして……」

「お嬢ちゃんひとりでかい?」

「連れがいたんですが、はぐれてしまったんです。それで、家に帰りたいので方法を探してます」

「うちはどこなんだい?」

「イルファンのラシトです」

「あんた、イルファンの人かい?」

「そういうわけでは……」

「……」


不信感を思いっきりあらわにした目で見られている。

まぁ、そうだよね。


「あのお金ならあるんです」


私はポケットから金貨を取り出して見せた。


「羊飼いのお爺さんに、キャラバンに連れていってもらえって言われたんです。キャラバンはこの近くを通りますか?」


「あんた……」


おばさんが立ち上がった。

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