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第2章 13.巫女は聖なる杯を掲げ


【 沙漠ってマジでなんもないね 】



「おい、いい加減に泣くのを止めろ」


タカッタカッとリズム良く馬は走っている。

後ろから怒鳴られて、余計に涙が溢れる。

―――――グスン。

ユージンはどうなったの?

今すぐ引き返せば間に合う?

それとも上手く逃げられた?


「うるはいな、ほっとひて!」


別に気休め言って慰めろとか、そんなことは求めてない。何も出来なかった自分が情けなくて悔しいだけだ。


どやられるかと身構えたけど、シミズはそれきり黙った。

地平線に太陽の頭が見え始めた。

陽に近い方から星が消えていく。


丸まった枯れ草がボールみたいにコロコロ転がっていて、西部劇に出てくるみたいな荒野だった。そんな映画でしか見たことのない風景の中に自分がいることが違和感でしかない。


シミズは、確かバルフに帰るって言ってた、忘れ物が何とかって。

この先にそんな名前の場所があるのかな。

見渡す限り何も見えないけど。


太陽が高く昇る前に、やっと馬から下りられた。お尻が凄く痛むし足も痛い。

全身が筋肉痛。


ここは沙漠のど真ん中の水場だ。

360度地平線の彼方まで何もない。

高い石積みの塔があって、井戸があって、板張り屋根の泥で出来た家みたいなのがあるだけ。日差しが遮られているだけマシなのかも。

乾燥しているからか、日差しがなければ思いの外、風が通ると涼しい。


ああ。

もう、一生馬には乗りたくない。


私は井戸の水で顔を洗った。


「ユージンとはどういう関係?」


馬に水をやっているシミズに聞いた。


「お前こそ」


私が聞いてるのに、なんで質問で返されるわけ?

関係?そんなの……特別な関係なんかない。

初めは、成り行き上一緒にいた人で、賃借関係があっただけ。


今は……私のせいで巻き沿いを食らった人。


そこで会話は途切れた。



「まだ、行かない?」


私達はさっきからずっと小屋の中で暑さを凌いでいる。

戸口の近くに座っているシミズに声をかけた。


「もう少し。涼しくなってからだ」

「バルフだっけ?まだ遠い?」

「夜には着く」

「そうなんだ」


まだまだ、馬に乗らなきゃいけないのかと思ったら気が滅入った。


「リュトンを持っているっていうのは本当か?」


だいぶ沈黙が続いてから、唐突に聞かれてびっくりした。

そういえば、ユージンがそのことを言ったから、この人は私を連れて来たんだっけ。

純粋に人助けをするような人じゃないらしいってことはもうわかってる。


「リュトン?私が持っているのはランプみたいなやつだけど?」


本当に何でも願いを叶えてくれる魔神がいるなら、今こんなとこにこんな気持ちでいるわけないじゃん。


「お前は、本当に聖なる巫女なのか?」




【 無口な人なら馬の方がマシ 】



「本当にリュトンの巫女なのか?」

「さあね」


確かにランプは持ってるけど、今まで魔神様に出て来て頂いたことは1度もないです。

正真正銘、ただのランプ。

またはゴミ。


「ヤツのハッタリか……」


ユージン、また会えるって言ったよね。

どこに行けば会える?


(ラシト……)


そうだ、ニマにラシトに来いって言ってた。


「ねぇ、ラシトってどこ?」

「ラシト?」

「そう」

「イルファンの西端の?」

「他にもあるわけ?」

「いや」


だったら、こっちの人間じゃない私に聞かないでよ。もしかして、シミズ、もとい、シミズに似たこいつって田舎者なんじゃない?

よくあるじゃん、交番で道聞いたら全然知らなくて実は地方から来たばっかりで、みたいな。

チっ、田舎者のクセに偉そうに。


よし、バルフに着いたらすぐにラシトに行こう。お金ならたくさん持ってるもんね。


目的が決まれば、気持ちも決まる。

どれだけ遠くったって大丈夫。


「お前、どこから来た?」


シミズのそっくりさんは、私のランプと私が本当に巫女かってことに重きを置いているらしいからな、正直に答えない方が良さそう。


「私、記憶喪失なの」


ちょっとうつむき加減で、不幸さを演出してみる。


「キオク……ソ……なんだそれは?」

「何かのショックで今までの記憶が一時的に失くなるの」

「……」


チラ見したら、まったく信じていない目で見られてた。

まぁ、そうだよね。ははは。


「だから、自分が誰で何処の人で、何をしていたのかひとつもわからないの」


心を強く持って訴え続けよう。


「ユージンと会う前のことはまったくわからない……ユージンだけが頼りだった……」

「……」

「……のに……」


チラり。

最早、彼は外を見ている。

話、まったく聞いてない。


「あの、彼は大丈夫だよね?」

「……」

「ちょっと、あなたに話してるんですけど?」


彼が面倒そうに私の方を向いた。

あっ、こういう表情とかシミズに激似。


「あなたと私の他には、外にいるお馬さんしかいないでしょ、アーとか、オーとか、返事してよ。完全に独り言じゃん」


「さぁな」

「えっ?」


ああ、さっきの私の投げかけに対しての答えか、って、時差すごっ。


「さぁなって……罪悪感とかないわけ?」

「罪悪感?」

「だって、あの場をユージンに任せて、私達は無事に今ここにいるわけでしょう?つまりは、ユージンの犠牲の上にあるわけ」


ギロリ、大きな目が私を射るように動いた。

これはシミズにはない凄みというか、冷たさというか。ちょっとビビる。


「……で?」

「ええと……だから、気休めでも言ってくれたらなぁって、思っただけです。彼なら大丈夫、きっと無事だろう……とか?」


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