何やら知らない世界があるみたいです。
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どうぞご遠慮なくお申し付けください。
【こう見えても実は俺、異世界で生まれたスーパーハイブリッドなんです。】
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霧島悠斗が高校二年の頃のお話です。
悠斗達の住む街で起きた出来事は、ネットの普及とそのショッキングな内容もあって、その夜の内に瞬く間に全国へ知れ渡った。
そして、それは日本国内に留まらず、すでに海外へも拡散していった。
その日の深夜。
倒れた五人が救急搬送された病院の廊下で、二人の刑事が五人の意識が戻るのを、既に五時間以上も待っていた。
「しかし杉島さん、あの五人の内、四人は泳がしてた奴らですよ? どいつも前がある奴ばかりですし」
まだ若そうな刑事が杉島と呼んだ、明らかに年上に見えるもう一人の刑事に話しかけた。
「ああ、誰にやられたのか早く聞き出したいんだが、あれじゃどうしようもないな」
そう言って親指を後ろへ向けた先には、集中治療室の面会謝絶の札が掛かっている。
若い刑事がそちらへ目をやると、丁度一人の看護士がその部屋の前を通り掛かった。
それを見た彼は咄嗟に手を上げると、この機会を逃すまいと慌てて駆け寄る。
「あ、看護士さん! 刑事の西山です! どうです? 彼らの様子は」
「私には分かりませんので、少しお待ちいただけますか? 先生に聞いてきます」
「ああ、頼みますよ」
その看護士は軽くお辞儀をして、近くの扉の中へ入って行った。
残された二人の刑事は、やれやれと言う表情で顔を見合わせた。
看護師や医師の姿を見つけると、二人の刑事が呼び止める。
この様子がこれで何度目の事であろうか――。
二人の刑事は何の手掛かりも得られず、このまま朝になってしまうのかとも思い始めていた。
♢
看護師が入って行ったその部屋の中では、一人の医師がモニター画面の、幾つもの患部画像を眺めていた。
「片山先生。刑事さんが又聞いてきたんですけど、何て言ったらいいですか?」
「あ、ああ」
「もう私、断れませんよ?」
看護士は困惑した表情で訴える。
「そうか……。わかった、私が行くよ」
ぎしっと椅子が音を立てると、その医師が立ち上がった。
「お願いしますよー? よりによって、あたしの夜勤の時に……」
そう言いながら、その看護士は部屋を出て行った。
その後を追う様に部屋を出た片山は、重い足取りで刑事の方へ歩き出す。
「ご苦労様です。担当医師の片山です」
廊下のベンチに座る二人の刑事に声を掛けると、待ち構えたかのように二人とも即座に立ち上がった。
「あっ! 待ってましたよ! それでどうですか?」
「それがですね。何とも不可解でして……」
目を輝かせて聞く二人の刑事とは対照的に、その医師の表情は暗く困惑した感じに口ごもった。
西山刑事がその様子を感じたかは不明だが、お構いなしに医師に詰め寄る。
「意識は戻ってるんですか?!」
「三人の意識が一度は戻ったのですが、すぐに酷い痛みを訴えて暴れ出したので今は麻酔で眠っています」
「そうですか。それで、麻酔はいつ頃覚めるんです?」
「もう四、五時間ほどしたら覚めるかと思いますが、その時はまた痛みを訴えるかと思います」
二人のやり取りに杉島刑事も割り込んで来る。
「外傷は見当たらないと聞いてますが?」
「ええ、出血などの外傷は無いのですが……。実は五人の患者の内、三人の男性器が見当たらないのです」
医師の片山は杉島へ顔を向けると、更に困惑した表情で答えた。
「えっ⁉ どういう事です?」
「それが、運び込まれた時には五人共意識を失っていたのですが、骨折や目立った外傷は無くてですね、レントゲン等でも確認をしたのですが……」
「ええ」
「その内、意識を戻した男が下腹部を押さえながら、酷く痛みを訴えて暴れ出したんです。そこで全身麻酔を再度かけてから、患者の下腹部を確認すると……男性器が見当たらないんです」
「は?」
「それも、手術等で切除した様な跡も無いんです。私も先輩医師に聞いているのですが、こんな症状は見た事も聞いた事も無いと、そう言われてしまって……」
そう言うと、片山という医師は腕を組んで黙り込んでしまった。
その様子を見て、二人の刑事も顔を見合わせたが、すぐに杉島は後輩の西山へ提案した。
「とりあえずは、今のうちにどっちかへ移送した方が良さそうだな」
今の日本には、医療刑務所が全国にたった四か所しかないのだ。
よって、ここから移送出来る所となると、都内か中部のどちらかという事なのであろう。
「はい、取り敢えず連絡してみて、受け入れ出来る方へすぐに手配します!」
そう言うと、西山刑事は病院の駐車場に停めてある車へ向かった。
「では先生、麻酔で眠っている内に移送を済ませますので、よろしくお願いします」
「ええ、分かりました」
そう返事をすると、片山医師は戻って行った。
(男性器が無いとは……何故だ?)
そんな事を考えながら、刑事の杉島は面会謝絶の札をチラッと見たが、今はここで待っていても仕方がない。
西山が向かった駐車場に自分も行く事にした。
♢
自室へ戻った医師の片山は、移送手続きの書類作成を済ませると、ふーっと深く息を吐いた。
その時だった。
不意に卓上の内線電話が鳴ると、片山は慌ててその受話器を取る。
「あ、ああ、繋いでくれ。……ああ、教授! で、ご覧になってみてどうですか? ……ええ、ええ。……そうですよね……」
内線電話が外線に切り替わった様子で、そのまま誰かと話している。
急患で運ばれた五人の患部画像をメール添付して、その症状を先輩の医師へ相談していたのだ。
「ええ、そうですか。はい? こちらへ? はい、はい、……森本さんですね? わかりました。では後程……」
そう言うと、片山は静かに受話器を戻した。
が、同時に再度内線電話が鳴りだすと、すぐにその受話器を取る。
「ああ、わかった。すぐ行く」
(もう来たのか⁉)
片山は部屋を出てナースステーションに入ると、数名の看護士と共に集中治療室へ向かう。
すると、集中治療室の前に見慣れない男達が十数名、ビジネススーツ姿で立っている。
「え? 何々? 誰なの、あの人たち」
廊下ではそれを見ていた看護師二人が、その男達を見てひそひそと話していたが、男達の内の一人が片山を見ると速足で寄ってくる。
「森本です。あ、二名は私と同行し資料を押さえてくれ」
軽くお辞儀をして名乗った後、振り返ると他の数名にそう指示を出す。
と、同時にバタバタと慌ただしく集中治療室へ数名の男達が入って行く。
(この人が教授が話していた森本って人か?)
「早速移動しますが、彼らのカルテを全てお預かりします」
「カルテを? 全てですか⁉」
「はい。金原教授からお聞きしていませんか?」
「ええ、聞いていますが……」
「では私を含めた三名が資料をお預かりします」
「し、資料と言ってもカルテと数枚の写真と、レントゲン……」
「はい、その全てをお預かりします」
「あ、はい、こっちです」
診察室へ三人を案内すると、彼らはカルテとその他の資料を全て、持っていたアタッシュケースに入れてしまった。
「これで全てですね?」
「後は、私の部屋のものだけです」
「では、それもお預かりします。画像添付した送信メールも全てです」
「は、はい」
そうして片山の部屋へ移動し、それらの資料を渡すと森本は小さく頷いた。
「では、間違いがあっては困るので、再度確認をお願い出来ますか?」
「間違いって……それで全てですよ」
「そうですか? 間違いがあった場合、私も当然困りますが、片山先生もかなり困りますよ?」
そう言う森本の眼光は彼を只ならない気持ちにさせた。
「だ、大丈夫ですよ! それで全部です!」
「そうですか。今は片山先生を信じましょう」
「あ、はい……」
だが、ふと不安になって森本と名乗る男に尋ねる。
「あの、医療刑務所へ移送ですよね? さっき刑事さんが手配してく――」
そう話し始めると、森本は話を遮る様に軽く手を上げて答えた。
「ああ、別の施設ですが問題ありません」
そう言うと、既に最後の一人が部屋から出され、車へ運ばれる所だった。
「では、済みましたので戻ります。金原教授には私からも報告しておきますが、片山先生からも後程ご確認ください。では」
そう言うと、足早に病院の外へ出て行く。
その後姿を数名の看護士と共に、唖然とした表情で見送っていた。
移送車両が見えなくなっても暫く呆然としていたが、不意に看護士の一人が呟いた。
「何だったの、あの人たち」
すると時が動き出したかの様に、もう一人が口を開く。
「そうよね、手際の良さも凄かった」
「何だか手慣れた感じしなかった?」
「したしたー!」
不意に片山は妙な不安に駆られて、足早に自分の部屋へと戻った。
(これで良かったのか? 教授の指示だったが、本当に良かったのか?)
そんな不安を抱えながら、部屋へ入ると外線回線から電話をかけた。
意外にもすぐに相手は電話へ出た様だ。
「あ、教授! たった今、森本さんへ引き渡しましたが、これで良かったんですね?」
明らかに片山の不安はその口調から、電話の相手にも伝わっている様子だった。
「そ、そうですか。……はい。資料を全て渡しましたけど……ええ。わかりました。……では、宜しくお願い致します」
ゆっくりと受話器を置くと、片山は椅子に座り直し深く息をついた。
♢
その頃、刑事の杉島と西山は、病院の駐車場に停車した車の中にいた。
「どう言う事なんすか、杉島さん!」
「だから、あの五人から話は聞けなくなったって事だ」
「どうして急にこんな事になったんすか?!」
「俺にだって分らんよ! あいつらの移送先を教えられないって事だからな」
そう言うと杉島は、助手席のシートを思い切りグッと倒して、仰向けになるとそのまま車内の天井を見た。
その様子を見て西山は、自分たちが見えない壁にぶつかったのを改めて感じた。
「しかし杉島さん、どっちにも移送されないってどういう事なんですかね?」
「分かんねーよ。上に聞いたが、あの様子はどうも《《カク秘》》っぽいな」
「カクヒですか?」
西山は車の天井を眺めている杉島に、不思議そうな表情で尋ねる。
「ああ。マル秘よりもその上の極秘って事さ。最上級極秘事項って事になるな、こりゃ」
「ええーっ⁉ どうしてそんな事になるんっすか! あいつらチンピラですよ⁉」
「医者が言ってたろ? 男性器が無いとか」
「ああ……言ってましたね。一体どういう事なんすかね」
「外傷が無けりゃ凶器も特定できねえしな。今となっちゃ、あいつらの場所も分からねえと話も聞けねえし……」
二人の刑事は今回の事件によって、先ずは病院に搬送された五人から話を聞く事と、その身柄確保を目的に動いていた。
だが、その五人が何処かへ移送されて、その移動先を警察上層部から聞けないとなると、事実上その任務から外されたのだ。
「まあ、こうなると、あいつらを病院送りにした奴を捕まえないとな」
車内の天井を見つめたまま杉島が言う。
「銀髪の少女ですか? まだ見つかって無いようですね」
「ああ。まあ、あいつらに合流するか」
「そうですね。移動します」
西山はエンジンをかけると、ゆっくり車を走らせた。
車が動き出すと杉島はシートを戻し、走る車の中から外に見える病院を見ていた。
あいつらとは、杉島達と別行動で被害者の女子高生に、その時の事情を聴いている刑事たちの事だった。
他にも、目撃情報からそのまま銀髪の少女を捜査している数名も居たが、これと言って情報も入って来ていない。
よって、被害者の女子高生からの事情調書に、再度目を通すのが良いと考えたのだった。
午前二時過ぎ、別の捜査チームと合流した杉島と西山は、被害者の女子高生からの事情調書を何度も読み返していた。
「それと、杉島さん。これがネットにあった画像なんですが」
そう言って、一人の刑事がタブレット端末に映った、幾つかの画像を見せた。
そこには病院に搬送される前の男達の姿が写っていたが、やはり血痕などは見られない。
ただ、男達の顔色はフラッシュの光に照らされてはいるがどれもどす黒く、見方によっては死んでいる様にも見える。
「マルタイの画は無いのか?」
タブレットの画面を見ながら杉島が聞くと、一人の刑事がそれに答えた。
「ネットにはそれらしきものは見つかっていないんですが、今、商店街の防犯カメラの解析を進めています」
「そっちはいつ分かるんだ?」
「今日の午前中には結果が出ると聞いてます」
「そうか。――西山、これ見とけ」
そう言うと、杉島はタブレット端末を指差した。
(銀髪の少女か)
調書によると可愛らしい少女だと書いてあるが、男五人を一瞬で倒す事が出来るのか疑わしい。
「俺もこの画像は携帯で見てたんですが、杉島さん、書き込みの方も見ましたか?」
「何かあるのか?」
「それが、これは制裁とか天罰が下ったとか、少女に肯定的な書き込みが多いんですよ」
「全く……。まあ、分からないでは無いがな」
確かにあの五人は反社会的な奴らではあったが、それでも危害を与えた人間を特定しなければいけなかった。
そしてその加害者であろう少女を、今は逮捕しなければならない。
その後、その少女を裁くのは法廷であり、ネットに書かれた世論では無いのだ。
「夜が明けたら早速聞き込みだからな! 集合は八時、それまで解散!」
集まっていた刑事たちにそう言うと、杉島は車に乗り込んだ。
♢ ♢ ♢
その二時間程前の午前零時三十分。
移動中のワゴン車に乗っていた森本は、揺れる車内で耳に掛けた小型の携帯端末で会話をしていた。
そして今、教授と呼ぶ相手との通話を終えて、シートに深く座りなおした。
「あそこでヘリに乗り換えます」
助手席の男が、後部座席に座る森本に振り返るとそう言った。
森本が身を乗り出して前方を見ると、大きなショッピングモールの広い駐車場に、大型のヘリコプターの光が見えた。
「分かった。他の二台もついて来てるか?」
「ええ。すぐ後ろに」
「オッケーだ」
三台のワゴン車が並んで停まると、素早く数人の男達が車を降り、後部に積まれた担架を、手際よくヘリコプターの貨物室へ移動していた。
間もなく、五人の担架を全て移動し終わると、森本の元へ一人が走ってくる。
「移動終わりました。すぐに離陸します」
「分かった。車両の回収も頼むよ」
「はい。九名が車両の移動に残ります」
見ると、既に三台のワゴン車は移動を始めていた。
森本と他の男達がヘリへ乗り込むと、ヘリコプターはゆっくり上昇を始め、大きく旋回して夜空へ消えていった。
♢
同時刻の、とある施設内――。
そこでは、深夜だと言うのに慌ただしく動く、男女数名の白衣姿があった。
しかも、その人種は様々であり、黒人や白人も確認出来る。
「被験は五名だからな? 目が覚めても動き出さない様に、しっかり拘束をするように!」
慌ただしく準備を進めている白衣姿の数名へ、同じように白衣を着た初老の男が、その指示をしていた。
その後、机の上の電話を自分へ向けると、その受話器を取った。
「――ああ、森本君か? どうだね、そっちは」
『五人をヘリに回収し、後二十分程でそちらへ到着予定です』
「そうか、分かった」
『では、後程』
「ああ」
受話器を置くのを待っていたのか、すぐに一人の白衣の男が声をかける。
「金原教授、準備出来ました」
「ああ、そうか。二十分程で到着するらしい。それまでここで待機してくれ」
「はい、分かりました」
そう言うと男は振り向いて、部屋に居る数名の男女に声をかけた。
「みんなっ! いいかな? 後、二十分で到着する!」
「はいっ!」
男女数名は一斉に返事をしてこちらを見た。
その様子に金原教授は満足そうに頷くと、男女数名を見回しながら言う。
「皆さん、先程申し上げた様に、これは最上級の極秘事項です。万が一にも情報が漏れた場合、私を含めこの事案を知った全ての者に、相当な処置がされることを認識して下さい」
決して威圧的では無いが、その内容はかなり重々しい。
「承知の通り、この施設は特殊治外法権区域となっている為に、日本を含め諸外国のいかなる法制が一切及びません。問題があった場合、予め秘密保持契約を交わしている皆さんのその処置は、JIAで検討される事になります」
この施設は数か所の加盟国によって維持されているのだが、各国の中央情報局や秘密情報部又は諜報特務庁等と、国によってその管理部署は様々であった。
ただ共通しているのは、どこの国であろうともその部署は、秘密裏に存在しているという事だった。
「よって、その事だけは忘れぬよう、くれぐれもお願いします」
「はいっ!」
数名の白衣姿の男女が、返事と共に頭を下げたのを確認すると、金原教授は近くの椅子に腰かけて、机の上の資料を手に取った。
(やはり、凶器は未確認の新兵器なのだろうか……)
手にした資料には、数名の患部画像と各人の個人情報、その素行等が細かく記されていた。
(しかし、凄く細かな情報だな)
今回、金原教授は日本諜報特務庁(JIA)という組織からの特務を受けて、五人の検視を依頼されていたのだ。
このJIAという聞き覚えの無い組織、それもその筈、日本首相や天皇陛下ですら、その組織の名前を知らされてはいなかった。
いや、名前を聞いた事があったとしても、その実態を確認など出来ないのだ。
その為、この事案は勿論、JIAに依頼された事も、全て特秘事項となっていた。
それは金原教授に限らず、この部屋にいる研究員や医師は勿論、この施設に出入りする人間は全てそうだった。
この部屋に居る白衣姿の人達は、金原教授を含め、その組織の存在を昨夜初めて知ったのだ。
これまでは、秘密情報部隊と言う組織の依頼で、幾つかの診察や検視をして来たのであったのだが、今回はその秘密情報部隊の人間から、特別な依頼を受けたのだ。
そして、連れて来られたのがこの施設だった。
♢
さらに同時刻――。
日本諜報特務庁本部、通称JIA。
本来この組織は、日本国外での諜報任務や特務任務が多いのだが、今回は加盟各国とJIA海外支部の要請により、その活動を始めていた。
ここには、数十名の常勤する内勤者と、特殊な場合に限ってその任務に就く、いわゆる諜報特務員が出入りする。
他に、非常勤役員が数名居るのだが、基本的にこの施設へ来る事は無かった。
その施設の一室。
無精髭を生やした、歳は三十代とも四十代とも思われる男が、モニターが幾つも並ぶデスクに座る、若い女性に詰め寄っていた。
「で、その五人はラボへ移送されるって事だな?」
「ええ、そうよ?」
「まあ、それはいいとして、銀色の少女ってのはまだ見つからないのか?」
「銀色の少女じゃなくて、銀髪の少女ね。銀色だったら宇宙人じゃないの」
「ちっ! ああ、それだそれ! 銀髪だよ!」
「え、ええ。何人も目撃者が居るにもかかわらずね」
椅子に座った女は、詰め寄るその男から距離を取る様に、少し仰け反りながら見上げた。
「おいおい、何やってんだよ。日本警察ってのは、相変わらずそんななのか~?」
仰け反る女に更に顔を近づけて詰め寄る。
「そう言ってもね、都心から離れた小さな市街地だからねぇ、って近いよ!」
近づいて来た顔の前に、手にした書類で盾にする様にして避けた。
「んー? 何だこりゃ」
男は顔の前に盾になった書類を手に取ると、内容を確認しながら眉をしかめた。
「アーケード街の防犯カメラから、気になった箇所だけ拾って置いたの」
「はぁ? この女の子が変装したって事か?」
書類を手にしながら、呆れた表情で女を見た。
「こっちのカメラに写っているこの子、その後に戻る所が写ってるんだけど、それが事件があった後なの」
「で? その子はその後何処へ行ったんだ?」
「アーケード街にあるファストフード店。入った時は男の子と二人なんだけど、その後一人で出て行って、暫くすると又一人で戻って来てる」
「ほう」
「そして、次に出て来た時はこの子、一緒に入った男の子の他に、中学生位の女の子が二人。四人で出て来たの」
「ふーん。中々興味深いな。で、その子らの資料が――これか!」
男はそう言うと、手にした資料にまた目を移した。
「結構苦労したんだからね、それ見つけるの」
「ああ、分かってる! グッジョブだなイオ!」
「え……グレイが褒めるなんて珍しい……。何かもの凄く嫌な予感がする!」
「何だよそりゃ! 俺だって良い仕事した時には、ちゃんと認めてるだろ?」
手にした書類をイオに突きつけて、また詰め寄った。
「だ、だからっ! いちいち顔近づけないでよっ!」
イオと呼ばれる女と、グレイという男。
勿論本名ではなく、ここではコードネームで呼び合うのが慣例だった。
「んだよ、そんな汚い扱いするんじゃねーよ! これでも傷つくんだぞ?」
「はいはい。で、他のカードは? まさか、また単独じゃないでしょうね⁉」
「ちっ……それがな、今回は向こうからも二枚来ててな」
そう言って指をさした方には、世界地図が映された大型モニターがある。
「え? 米? 英?」
「お、どっちも正解!」
「あら、そうなの? てことは厄介ね~」
そう言うが、イオはニコニコしていた。
「何だよ。その嬉しそうな顔は」
「別に~? まあ、今回は流石のグレイも勝手は出来ないって事ねー」
そう言って悪戯っぽく笑う。
「うっせーな。どうせ奴らのサポートしろって事だろうな、くっそー!」
グレイは悔しそうな表情で、手にしていた書類をイオの机にバサッと置いた。
≪コンコンコン≫
ふと、扉をノックする音と共に、スーツ姿の男女が部屋に入って来た。
その顔つきから二人共日本人に見える。
先に部屋へ入った女性はぐるりと室内を見まわした。
「ん? あんたらは?」
その様子を見ていたグレイが尋ねると、扉を閉めてこちらを向いた男が頭を下げた。
「JIA米国支部の任務でCIAに配属しているケントです」
「私はJIA英国支部、MI6に配属されているメアリーです」
「は? あんたらが同行する?」
意外な表情を隠せないまま、グレイが問いかける。
「同行するのは貴方ですけどね」
「あーそっすかーしかし、見た感じモロ日本人だな」
「勿論。私、純血の日本人ですから」
「あ、メアリー僕もだよ」
「あらケントもそう?」
「ほー奇遇だなー! 俺もだよって、痛っ!」
グレイがそう言って茶化すと、イオが後ろから彼の足を蹴った。
「この場に居る四名は、たった今から私のチームとして行動して頂きます」
メアリーがそう言うと、ケントは手にしていたタブレットを起動させた。
「あ、私はイオ。ここの通信部所属です」
「よろしく、イオ。ケントです」
ケントは持ったタブレットを慌てて脇へ挟むと、笑顔でイオに握手を求めた。
「よろしくね、イオ。今回の情報収集には、その能力の高さに大変驚きました」
メアリーもそう言って、笑顔を見せるとイオへ握手を求めた。
「え? あ、ありがと」
少し驚きながらも、嬉しそうにイオが握手を交わす。
「で、そっちがグレイだね? よろしく」
「ああ、よろしく。ケント」
「グレイ、くれぐれも単独行動は控えてね?」
そう言いながら、メアリーがグレイにも握手を求めた。
「ああ、分かったよ。リーダーのメアリーさん」
嫌味っぽくそう言うと、ふて腐りながら握手を交わした。
「ははは、俺の所にも君みたいな無鉄砲な奴が居るぜ?」
「誰が無鉄砲だよ! 勘弁してくれよ、ケント」
「さてと、打ち解けた所で仕事に入りましょう」
メアリーはモニターに向かって腕を組んだ。
「打ち解けたって、誰と誰がだよ……」
グレイがぶつぶつ言っているが、構わずメアリーは続ける。
「高校生の男の子と中学生の妹、近くに住む妹の友人。そして、男の子の裏へ住む同級生の女の子、この四人が今回の最重要人物って事なのね?」
メアリーがイオに振り向くと、彼女の両脇に立っていたケントとグレイも彼女を見た。
そう言われてイオは黙ったまま頷く。
「この中でも妹の友人が一番薄いって訳か。んじゃ、この子から固めるのか?」
腕を組んだままグレイがメアリーに聞いた。
捜査手順として、ターゲットから遠い場所から聞き込み等の捜査をするのが通常となっている。
「セオリーだとそうなるわね。でも、イオの報告で興味深い資料があったの」
そう言ってメアリーは手にした資料をグレイに見せた。
そこには、倒れていた五人が二人の女の子にまとわりついている画像があった。
「イオ、これ、動画で見せてくれない?」
「オッケー、そのモニターに出るよー」
メアリーにそう言われたイオがPCを操作すると、すぐにモニターへ動画が映し出される。
「こ、これって、こいつらじゃんか!」
グレイが動画を見て叫んだ。
「ええ。この男の子の妹とその友達が、事件の十数分前に接触してる。その後、女の子二人だけでファストフード店へ入ってる」
イオがモニターに映る少女を指しながら説明する。
「そこへこの兄ちゃんと、同級生の女の子がその店へ入って、妹とその友達から五人の話を聞いたって事か!」
グレイがそう言った後に、ケントも声を上げる。
「この女の子が一人店を出て、五人の男達の様子を見に行った訳だね?」
「で、どこからか現れた銀髪の少女が、この五人を倒して姿を消した後に、この子は店に戻って来るの。イオ、その子のアップ頂戴」
メアリーがそう言ってイオに頼むと、モニターには銀髪の少女の画像がアップになった。
「だが、この銀髪の子とこの同級生の女の子の接点は不明っと……」
グレイが二人の画像を見比べて呟く。
「これらを全てこの短時間で見つけ出した事に、私はとても称賛します。素晴らしいわ、イオ」
メアリーがそう言うと、グレイとケントもイオに向き直った。
「本当だね、イオ! 君は素晴らしいよ!」
「ああ、まさかここまで見つけ出していたとはな。これには驚いた」
流石にグレイも認めていた。
「だけど、銀髪の女の子の画像がこれしか無くてね。もっと範囲を広げて探すつもりだけどさ」
イオは困惑した表情でメアリーにそう言った。
「イオ、直ぐに二人を網膜スキャンして照合してみて」
「んーどこまで出来るかなー」
「出来る所まででOKよ」
「りょーかーい」
「オッケー! じゃあ、現場へ向かいましょう。先ずはこの男の子の裏の家ね」
「了解」
即座にケントは部屋の扉へ向かう。
「おいおい、直接この子に当たるのか?」
驚いた様子でグレイはメアリーを見た。
「ええ。まずこの子で間違いないでしょう、回りくどいのは嫌い」
そう言ってメアリーも部屋の扉へ向かった。
「ほー、結構あんたとは気が合うかもな」
グレイはその後を追いながらも、思わず笑みがこぼれた。
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