訪れる時と禁書 2
* * *
「ただいまぁ!」
ガランド兄様も、シェアザード兄様も、元気そうだった。
その事に私は安堵の息を吐く。
「お帰り。リリーナ、それにディオス。ついでにルシード」
「なんで俺だけ、ついでなんだよ」
「心配かけて。この愚弟」
「…………ガランド兄さん」
感動の再会は、いつだっていいものだ。
それでも、ここに帰って来たのは、感動の兄弟の再会をするためではない。
だって、時間がないのだから。
「ところで、そのスライムから、圧倒的強者の香りがするのだが」
ガランド兄様の雰囲気が、がらりと変わる。
たしかに、ガランド兄様ほどの腕前であれば、マティ様の実力は筒抜けなのかもしれない。
「手合わせを……」
「えぇ?」
ガランド兄様の悪い癖だ。自分より強い相手を見つけると、ガランド兄様は、勝負を挑まずにはいられないのだ。そして、礼節を尽くす。それがたとえ、可愛らしい紫色のスライムなのだとしても。
よかろう……。という幻聴が聞こえた気がした。
マティ様は、ついて来いとでもいうように、ぴょんぴょん跳ねながら、ガランド兄様と去っていく。
「ちょっとまて! 俺も、マティと戦いたい!」
その後ろを、ルシードが追いかけていった。
大丈夫だろうか。あの二人と一匹が本気を出したら、大変なことになるのでは。
もしかしたら、庭の草がなくなってしまうかも……。
「はぁ。屋敷が半壊しないと良いのですが……」
「えっ、ディオス様?! そんなことになる?! さすがにそこまでは」
「ガランド殿は、魔王軍に所属するなら、序列2位、あるいは3位の実力者です。いえ、俺は負ける気はないので、やはり3位に甘んじていただきたいですが」
「…………ディオス様」
ディオス様まで、負けず嫌いを発動している。
まるで、兄弟たちとディオス様と過ごした楽しい日々が帰って来たような気がして、私は微笑む。
「とりあえず、兄さんとルシードは放っておいて、図書室だな」
銀縁のメガネのふちを直しながら、前を歩きだしたシェアザード兄様の後に続く。
私には、ルンベルグ領の本当の歴史や、ガルシア国についての情報は隠されていたという。
なにそれ。本、読みたかったのに。
お兄様たちの心遣いを理解しながらも、本の虫の私としては納得がいかない。
でも、これから読めるのだ。
「なあ、ディオス……。リリーナが本題を忘れている気がするのだが」
「リリーナに本を与えたら、そんなことになるのは目に見えていたでしょう」
「そうだな……。だが」
「――――大丈夫です。おそらくリリーナは、あの本の最終章を開くことが出来るでしょうから」
「どうしてそう思う?」
珍しくディオス様が、黒髪を揺らして笑う。
目を見開いたシェアザード兄様が、つられたようにほほ笑む。
「――――なんとなく」
「そうか」
仲がいいのは、いいことだよね……。
そんなことを思いながら、私はシェアザード兄様の後についていく。
まさか、禁書の最終章を開けたとたんに、あんなことになるなんて、予想すらしないで。
最後までご覧いただきありがとうございます。『☆☆☆☆☆』からの評価やブクマいただけるとうれしいです。




