甘い空気と逃れられない運命
マティ様のプルプルには、皮膚の新陳代謝を高める作用があるのかな?
それが、正直な感想だ。
私の髪の毛を取り込んで、輝きを増したラメ入りマティ様が、ぴょんっとディオス様の傷口に貼り付く。
見る間に、火傷は綺麗さっぱりなくなった。
「すごい……」
美容効果以外にも、皮膚全般に効果があるのだろうか。精霊たちが、あまりにもざわついているから、少し髪の毛を、精霊たちにも渡す。
少しためらったように、飛び回った後、キラキラとほのかな金色に輝いて、髪の毛が消える。
「マティ様は、すごいですね?」
「たしかに。けれど、マティ様は、自己治癒能力は優れていましたが、他を癒す力はなかったはずなのですが……」
ディオス様の傷跡が、綺麗さっぱりなくなると、ぴょこんっとマティ様は、私の方へと戻ってくる。
力を使ってしまったせいか、ラメのように輝いていた体は、今は元の紫のグラデーションに戻っている。
「……ありがとうございます。マティ様」
でも、この時の私は、わかっていなかったのだ。
マティ様は、ガルシア軍、つまりは魔王軍の序列一位であるということを。
自己治癒力と、戦闘能力だけでも、序列一位だったスライムが、他者を回復する能力まで手に入れてしまったことの意味を。
「……リリーナは、最強の力を、手に入れたということですか」
「え?」
「……なんでもありません」
ディオス様の決意も、この国の行く末も、私はやっぱり悪役令嬢の宿命から、逃れられないのだということも。
「でも、マティ様。リリーナと、二人きりになりたいので、そろそろ席を外していただけませんか?」
「ふぇ?!」
「まあ。このまま、ここにいるのだとしても、俺は全く気にしませんが」
私の頭に、口づけを落とすディオス様。
マティ様が、何も話さないからといって、さすがに見られているところで甘い雰囲気なんて、恥ずかしすぎる。
「……あの、マティ様」
プルプルッと一瞬震えたマティ様は、私の肩から降りると、扉の細い隙間から外へと出て行った。
あれだけ細い隙間から出入りできるのなら、諜報活動だって、お手のものに違いない。
問題は、結果をどうやって教えてもらうかよね。
「リリーナ?」
思考はそこで、中断される。
ディオス様の、美しい南の海の色をした瞳が、目の前にある。少しだけその視線は、不満を湛えているように見える。
……いつか、こんな色の海を、ディオス様と見に行ってみたい。この世界では、まだ水着というものを見たことがない。あるのかな?
その思考も、この後、ディオス様からのキスで、中断されたのだった。
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