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ついて来てしまったのですか?



 ディオス様のマントの中は、いい香りがした。でも、そこから解放されれば、ひんやりとした空気に小さく体が震える。


「少し……。ルシードと、シェアザードと話があるので」

「あっ、はい」


 なんの話だろうか。私を抜きにするというのであれば、概ねこれから私をどう守るか、という類のものだろう。


 そんなことを思いながら、自分の無力さに肩を落とす。

 もしも、女騎士になれるくらい強かったら。ルシードみたいに魔法が使えたら。

 ……私は、自分の力で自分の身を守ることができたのだろうか。


 ぬるり…………。


 その感触は、唐突に右肩に現れた。


「ひっ?!」


 恐怖のあまり、硬直して動けなくなる。

 しかも、これは、圧倒的強者の……。

 あの、ガルシア国王陛下より、強いかもしれない。


 その感触は、ぬるぬると床へと滑り落ちていく。

 床に視線を落とせば、プルンップルンッと、葡萄ゼリーみたいな物体。


「序列一位様……」


 名前を知らないスライムが、紛れ込んできてしまったようだ。序列一位には、とても見えない外見。


 プルプル震えながら、縦に伸び上がったスライムは、しゃがみ込んだ私の手に擦り寄る。

 ひんやりした感触と、さっき感じたぬるぬるとは違う、プルンップルンッとした触り心地。


 もっと触りたい。


 私はそっと、スライムの表面を撫でてみる。

 なぜなのかわからないけれど、序列一位様は、名前をつけてもらいたいようだ。


 言葉は交わすことができないのに、なぜなのかそう訴えかけていることが、わかる。


「序列一位様は、名前がないのですか?」


 肯定するかのように、その体が縦に揺れる。


「名前、私がつけるのですか?」


 もう一度、激しく縦に揺れる。プルンップルンッと、音が聞こえてきそうだ。


「マティ様」


 まるで、紫色の宝石みたいな美しい色。ラベンダーから葡萄色へのグラデーション。


「私とお揃いですね」


 思わず呟いた瞬間、勢いよく飛び跳ねたスライムが、私の首に巻きつく。そして、私の髪を一房、触手みたいに伸びた体でつまみ上げる。


「食べてしまったのですか?」


 お腹を壊したりしないのだろうか。


 けれどその瞬間、『ごちそうさまでした』という声が頭の中に確かに響いて、紫の美しい光に部屋の中が包まれる。


 光がおさまった直後、手のひらサイズに縮んでしまった代わりに、艶を増してキラキラと輝く小さなスライムがそこにいた。


 スライムは、私の肩に飛び乗る。まるで、そこが自分の定位置だとでも言うように。


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