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助けるって約束したから。



 ✳︎ ✳︎ ✳︎



 竜が降り立ったのは、そこだけが可愛らしい街並みにそぐわない、黒い見た目のお城だった。


「こんなに近いんですか……」


 ルンベルグ辺境伯領から、魔王の国ガルシアまでは、むしろ王都に行くよりも近いことは知っていた。でも、まさか一日も立たずにたどり着けてしまえるなんて。


「――――竜に乗ってきたからですよ。それに、通常であればピリア山脈を命がけで越えて、さらに都に入る時には強力な結界があります。一週間でたどり着くのは、腕利きの魔法使いであっても困難でしょう」

「そうですか……」


 ということは、私みたいな何の力も、特技も持たない人間は、一生たどり着くことができない場所ということだ。たしかに、ゲームの終盤でも、ピリア山脈で凶悪な魔獣と戦い、ようやくたどり着いた魔王国に入るために、いくつもの条件をクリアして結界を解く必要があった。


「それで、どうして私はここに連れてこられたのでしょうか」


 冷たい言い方になってしまっただろうか。

 だって、どう考えても、私の記憶の中のディオス様と、魔王の将という言葉がつながらない。


「助けるって、約束しましたよね?」

「え?」


 ぽつりとつぶやいた言葉。直後に、ディオス様が自分の親指を唇に持って行った動作から、その言葉はおそらく本音で、しかも言うつもりのない言葉だったのだろうと推測する。

 私たちは、幼馴染のようなものだ。ある日、父と母に連れられて我が家の一員となったディオス様は、いつだって、家族のようにそばにいた。もしかすると、家族よりもずっと近くに。


 ――――本人。


 心のどこかで、目の前にいる人は、魔王の配下で、幻術を使って私をだましているのではないかと、思っていた。でも、間違いない。ここまでの再現性、辺境伯領、いや王国一の魔術の使い手である弟、ルシードですら不可能だ。


 ルシードにいたずらで、何度も騙されたもの。

 目の前にいるディオス様はが、本物であることくらいはわかる。


「ディオス様、どうして」

「俺は……。魔王の誘いを受け入れました。もう、王国に戻ることは出来ません」

「どうして? ベールンシア王国を裏切る理由が」


 その瞬間の、ディオス様の表情を、おそらく私は一生忘れることが出来ない。

 たぶん、今の言葉は、ディオス様の心を深くえぐった。


「どうして、話してくれなかったんです」


 ほの暗い微笑み。美しい浅瀬の海の色は、相変わらず大好きなのに、体がこわばる。

 どうして、魔王の配下になんか、なってしまったのですか?

 それに、話すって、いったい何を?


「――――無理に連れてきた人間が、言うことでもないですよね。でも、リリーナを王国に返すことはもうできない。リリーナは、俺と一緒にガルシア国で生きていくのだから」


 でも、ガルシア国は、聖女と第三王子の手で、滅んでしまうのに。

 だって、魔王の治める国だから。

 それなのに、その事実は、あまりに幸せそうに暮らす、魔王の都の住人たちの姿に、どんどん揺らいでいく。


 じりじりと後ろに下がりたくなる。

 でも、それをディオス様は許してくれない。

 次の瞬間、抱きしめられていたから。


「ディ、ディオス様」

「もう、俺たちは、そんな風に呼びあう関係では、なくなってしまいました。恨んでもいいから、ここにいて下さい」


 それは、明らかに懇願だった。

 いつも、ほほ笑んで、真っすぐに前を向いていたディオス様が、私に縋るなんて。

 どうして、ディオス様が王国を裏切ったのか、魔王の配下に降ってしまったのか。


 わからない。わからないのに。


 目の前に、確かにディオス様がいて、大好きな香りとともに抱きしめられている。

 その事実は、あまりに甘くて、ディオス様のこと、無条件に許してしまいそうになる。


 ……でも、このまま絆されたら、明らかに悪役令嬢の闇堕ちだ。


 本当は、抱きしめ返したいのに、それもできずに私はただ、幸せと葛藤の間で、立ち尽くしていた。

 

最後まで読んでくださってありがとうございました。


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