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悪役令嬢不在の物語



「……予想以上の圧だったな」


 なんでもないことのように呟いたシェアザード兄様。三兄弟お揃いの、ダークブルーの瞳を細める。

 ヒヤヒヤしていたのに、ずいぶん余裕そうです。


「……リリーナを、ガルシア国王陛下まで贄にしようと言うなら、ルンベルグ領は最後の一人まで両国と戦うつもりだったが」

「えっ、まさか」


 そんな状態ならば、たぶん私は、悪役令嬢の運命を受け入れる。だって、ルンベルグ領を巻き込みたくないから、悪役令嬢のルートを必死で避けてきたのだから。


「……だが、ディオスの選択は、間違いではなかったようだな。……ところで、ルシード。気配を消していても、バレバレだ。それに、不敬だ。やめておけ」

「完璧だと思ったのに。アベルに教えてもらった方法、画期的だと思わないか?」

「確かに、戦況を大きく変えるだろうが。俺には効かないぞ?」

「くっ、金にものを言わせた魔道具。いやらしくないか?」


 装備も実力の内だという、シェアザード兄様。

 たしかに、ルンベルグでは、できる限り質の高い武具を身に着けるように、教育されていた。


「ディオスの剣だって、ズルくないか?」

「――――普通の剣ですよ?」


 確かに、身長が伸びどまってからは、ずっと同じ剣を愛用していたディオス様。以前とは剣が、変わっている。葡萄色の宝石がはめ込まれた剣だ。


「どこが普通なんだよ! 倒した敵の数だけ強くなる類の剣だろ」

「――――倒した敵の数など、覚えていませんが」


 ガルシア国王陛下に賜ったという剣は、葡萄色の宝石がはめ込まれている以外には、ごく普通の剣に見えるのに。


「これからは、半分以上俺が倒すけどな!」


 ふふんっ、と笑いながらルシードが、腰ベルトから引き抜いた杖は、やはり葡萄色の宝石がはめ込まれた杖だった。


「ルシード、そんな杖持っていなかったわよね?」

「広範囲の効果力魔法を連発で放ったら、元の杖が壊れちゃって。序列戦の褒美だと言って、賜ったんだ。魔法の威力も範囲も、これを使えば……」

「さて、ルシード?」

「はっ、シェア兄さん……」

「王国魔術師団の人間が、どうしてガルシア国の魔術師団で活躍している? 少し、こちらで今後について話そうか?」

「こ、これには深いわけが……」


 二人そろうと、いつも賑やかだった。

 シェアザード兄様とルシードは、なんだかんだ言って仲が良い。


 お屋敷の庭には、ディオス様と私だけが、取り残される。

 ところで、さっきからマントの中に隠されたままなのですが、それについてのツッコミが、二人からなかったのだけれど、それでいいのだろうか?


「ディオス様……。そろそろ」

「そうですね、冷えてきましたから、中に入りましょうか」


 なぜか、マントにくるまれたまま、お姫様抱っこされる。

 ディオス様、今日は私少ししか自分の足で歩いていない気がします。

 それに、疲れているのではないですか?


 ふと、見上げれば、その瞳が私をじっと見つめている。

 浅瀬の海の色の瞳のせいで、私は少しグリーンを帯びた水色が大好きになってしまった。


「疲れたでしょう、リリーナ」


 多分疲れているのは、ディオス様のほうだと思います。

 たしかに、竜の背に乗ったり、街歩きから序列決定戦に突入したりと、目まぐるしかったけれど。


「――――楽しかったです」

「……そうですか、良かった」


 そう言って笑ったでディオス様は、露店でメイラー様から購入した、小さな魔石が輝くネックレスを、私につけてくれたのだった。




最後までご覧いただきありがとうございます。

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