歴史の繰り返しと婚約と叛意
「――――シェアザード兄様、どうしてここに」
「異なことを。リリーナのために決まっているだろう?」
「えっと……。質問替えます。どうやってここまで」
「――――そうだな。新しい魔法薬が、竜にも効くとは思わなかった」
「……はあ」
もう、驚くこともないだろう。
ルシードは、幻影魔法で竜を操ったと言っていた。
そもそも、あの山を越えるには、竜の力を借りるか、強行軍で進むか、長距離転移魔法を使うくらいしか方法がないのだから。
「――――さて、久しぶりだな。ディオス」
「ええ、お久しぶりですね。シェア」
「……どうして、死んだふりをしていたかは、聞かないでおこう。まあ、十中八九リリーナのためだろうからな。だが、相談してくれても良かったのではないか? 力になれただろう」
「シェア……。あなたたちなら、そうしてくれたでしょう。だが、確信がない状態で、あなたたちを巻き込むことはできません」
ため息をついた、シェアザード兄様が、私をそっと抱き寄せる。
心配をかけてしまったことを、申し訳なく思う。
そして、意外にも私は、この国が気に入ってしまって、もう戻ろうなんて思えない。
「――――再度持ち掛けられた第三王子殿下との婚約……。こちらから、断った場合、叛意があるとみなすとの通達があった」
「え? だって、第三王子ロイス殿下は、私との婚約を」
「そういう次元ではない。なあ、ディオスはこの展開が予想できていたから、死んだふりをしていたのだよなぁ?」
冷たいダークブルーの瞳が、ディオス様を見据えた。
シェアザード兄様は、直球勝負に出たようだ。それは、とても珍しいことだ。
「――――リリーナ・ルンベルグの秘密について、魔王、いやガルシア国王陛下から聞いたんだな? そして、歴史が繰り返すことを阻もうとした。ちがうか?」
「……さすが、シェアですね。少ない情報の中でも、正解にたどり着きましたか」
「――――ふざけるな! 俺だって、リリーナを守りたいのは同じだ」
「三年前の状況では、ルンベルグ辺境伯領は、単独で王家と戦うことになったでしょう」
室内を、表現しがたいほどの静寂が包み込む。
私だけが、ちゃんと会話の内容についていくことが出来ないままだ。
「謁見の申し込みがしたい。ガルシア国軍序列第二位、ディオス・ラベラハイト将軍に、ルンベルグ辺境伯代理として願う」
「……結論は、もう出ているのですか?」
「繰り返す歴史に、妹を奪われてたまるか。それに、もともとルンベルグは」
「――――そうですね。だが、謁見の申し込みをする必要はありません。あのお方は、とても気まぐれでいらっしゃいますから」
その瞬間、強い風が、庭に植えられた樹木や花を揺らす。
思わず、足を取られかけた私を、シェアザード兄様が抱きしめると、ディオス様は、私たちをかばうように、前に出た。
「ようこそ、ガルシア国に」
私たちの目の前には、神出鬼没なこの国の王。ジークハルト・ガルシアが立っていた。
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