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褒美をねだったのは、俺ですが。



 序列2位と3位の戦いが行われるのは、3年ぶりだ。

 三年前に、ディオス・ラベラハイトを連れてきた、ジークハルト・ガルシア国王陛下は、序列決定戦への異例の参加を許した。


 そして、ディオス様は、あっという間に序列2位まで、上り詰めた。


 その事実を、私は詳しく知っているわけではない。

 でも、三年ぶりに2位と3位の序列をかけた戦いが行われるのであれば、会場の注目は、完全に序列2位である、ディオス様と、序列3位である、ジェイル・メイヤー様に集まるはずだ。


 それなのに、この状況はいったい。

 自意識過剰なのではない。間違いなく、私に周囲の視線が集中している。


 ルシードと同じ髪の色、ジークハルト陛下と同じ瞳の色のせいなのだろうか?


 結界があるせいで、ほとんどの観客は、私に近づくことも出来ない。

 まあ、結界のせいだけでは、ないのかもしれない。

 私の隣にいる人が、問題なのかもしれない。


「――――それにしても、リリーナの弟は、なかなか強いな。わが軍には、広範囲魔法を使いこなす人材が少ないから、期待している」

「あの、光栄ですわ? ところで、どうしてこちらに」

「軍の序列上位決定戦に、責任者である俺がいることが、そんなにおかしいか?」

「い、いえ……。でも、この場所にいることもないのでは?」

「不満か?」


 不満なんて、さすがにガルシア国王陛下に、そこまでの不敬を働くことはできない。

 でも、注目を集めてしまっているのは、陛下のせいだと思う。

 または、ディオス様が私のことを抱きしめて守ったせいなのだろうか。


 やっぱり、この色合いのせいなのだろうか。


 会場の中心で、剣を構えるディオス様とメイヤー様。私自身は強くないけれど、兄様たちやルシード、ディオス様を見て育った私は、相手の強さを押しはかるのは、得意な方だ。


「メイヤー様、強いですね」

「そうだな。わかりやすく、二人は強い」


 チラリと、横目に見たジークハルト陛下。

 うん。人間かな? やっぱり、魔王だよね。と思うほど強い。


 二人とも動かない。お互いの実力は、拮抗しているのだろう。


「……ディオス様」


 私はただ、ディオス様が怪我なんてしないように、願うしかない。


 次の瞬間、二人の残影しか残らなかった。

 派手な音と共に、打ち合った二人。

 膝をついたのは、メイヤー様だった。


「ふーん? いつもよりキレがいいな。姫が見ているからか、はたまた褒美に釣られたか」


 剣を鞘に納めた音が、妙に耳に残る。

 その後の大歓声。こちらに、顔を向けて微笑むディオス様。


「無傷だな」

「良かったです」

「女神は、約束通り、褒美を与えないといけないな」

「え、何も持ってこなかった」

「取り敢えず、行ってこい。勝利の褒美は、女神からの接吻と決まっている」


 こんなことなら、何か準備しておいたのに。まさか、街歩きから、序列決定戦になだれ込むなんて、いったい誰が想像するだろう。


「あの。ディオス様、おめでとうございます。あと、ごめんなさい」

「リリーナ? どうして謝るんですか」


 だって、私には、ディオス様にあげられるものがない。いつも、助けてもらうばかりで。


「……屈んでください」


 会場が沸き立つ。ご褒美になるとは思えないけれど、私は覚悟を決める。


 ディオス様の頬にキスをする。

 その瞬間、もう一度横抱きにされた。


「ディ、ディオス様⁈」

「褒美をねだったのは俺ですが、猛烈に後悔しています」

「えっ、そんなにご不満でしたか⁈」

「リリーナの、可愛い姿を、衆目に晒すなんて……。帰りましょう」


 ピイイッと口笛を吹けば、今日も竜が空から舞い降りる。一体どうやって、竜と仲良くなったのだろう?


 気がつけば、私たちは、青空高く舞い上がり、誰の目も触れない場所で、口づけを交わしていた。

 

最後までご覧いただきありがとうございます。


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