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壊れたメガネとスライム



 風が止み、土煙が消えると、ようやく二人の姿が現れる。


「ルシード!」


 ルシードは、私にちらりと視線を向けて、小さく手を振った。

 ふらふらと、練武場の真ん中に歩み出るルシードと、膝をつくアベル様。


「……参りました。素晴らしい、広範囲魔法です」


 ルシードが、手を差し伸べる。

 固く握手を交わす二人。


「ま、俺の実力……」


 最終的に、ルシードは試合に勝った。

 けれど、アベル様は、立ち上がり、ルシードは魔力切れで直後倒れ込む。


「戦場であれば、アベルの勝ちですね」


 序列決定戦には、ルールが存在する。

 ルシードは、試合には勝ったけれど、命のやり取りには負けたということなのだろう。


 後で悔しがるだろうなぁ……。

 そんなことを思いながら、一段高くなっている観覧席を眺める。


 そこには、いつのまにか葡萄色から淡い紫色のグラデーションをしたスライムがいた。


「………………スライム」

「現在のガルシア国軍の、序列1位です」

「え?」

「その昔、聖女の使い魔だったという噂です」


 序列1位ということは、ディオス様は、あのスライム、いやスライム様? に勝てなかったということだ。

 魔王の配下、最強は、紫のグラデーションをしたスライム。

 どこかシュールだ。


「えっと、序列3位は、もちろんメイラー様なのですよね?」

「ええ、今回は不戦敗ですが、万全の状態で戦えば、ルシードがその位置に立つかもしれませんね」

「えっ?」


 序列第2位と現在4位の、元守護騎士と弟を持つ悪役令嬢。

 闇堕ちの予感しかしない。

 万が一、兄様たちが参戦したら、ガルシア国軍の序列上位は、たぶん身内で固められる。


「それにしても、できれば隠しておきたかったのですが」


 一房、私の髪を掬い取り、口づけを落とすディオス様。

 視界に映る長い髪の毛は、薄紫色をしている。


 そういえば、さっきの魔力を帯びた風は、私の髪と瞳の色を元の淡い紫と葡萄色に戻してしまった。


「メガネ……壊れてしまいましたね?」

「可愛らしかったので、少し惜しいですね」

「かっ、かわい?」

「――――ほかの人間の視線から、隠しておきたかったのに……」


 うっそりと笑うディオス様。

 目が離せなくなってしまう視界の端で、紫系のスライムがルシードのそばに近づいていく。

 そのまま、ルシードの体の下に滑り込むと、易々と持ち上げて、退場させていった。


 面倒見がいい人……いや、いいスライムなのかもしれない。


「序列一位になったら、俺だけを見てくれますか?」

「あまり……強さは関係ないです」


 危険な予感しかしない。しないから、言葉選びを間違えてはいけない。


「そうですか。とりあえず、この後、序列3位から挑戦を受けているので、行ってきます」

「――――っ、怪我しないで下さいね」

「善処します。約束しましたから……。ただ、負けたくないんですよね」


 こう見えて、ディオス様は、本当に負けず嫌いなのだ。

 ルンベルグ家に初めて来たとき、ディオス様はルシードに簡単に負けていた。

 もちろん、シェアザード兄様とガランド兄様にも……。


 でも、ルンベルグの地獄の強化訓練に誰よりも真摯に取り組んで、いつのまにか、兄弟たちに負けないほど、強くなっていった。


「――――試合なので、怪我をしても許します。治してあげますよ」

「……もし」

「もし?」

「もし、無傷で勝利したら……。ご褒美をくれますか?」


 ご褒美? 意外とかわいらしい、ディオス様のお願いに、私は「いいですよ?」と、頷いた。


「――――絶対分かっていなさそうですが……。戦士の勝利には、女神のキスと相場が決まっています」

「えっ?」


 次の瞬間、バチンッと音を立てて、私の周囲に結界が張られた。

 命かけたりしていないよね……。

 試合の前に、こんなに魔力を消費して大丈夫なのだろうか。

 そして女神って、誰のことだろう。


 様々な疑問が、流れては消えていく。

 とりあえず、混乱してしまった思考を整理するために、私は観覧席の椅子に座り直すのだった。


 

最後までご覧いただきありがとうございました。


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