表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/47

弟の勇姿と、過保護な闇。



 無風のはずなのに、なびくマントは、ルシードの魔力が、魔法陣の構築なしにも溢れ出るほど強力であることの証だ。


「……すごい」


 ルシードが、戦う姿を久しぶりに見る。

 兄弟たちと、ディオス様は、よく模擬戦をしていて、それを観戦していたけれど。

 ……ディオス様が、いなくなってからは、それもなくなってしまった。

 兄弟たちは、訓練と称して模擬戦をしていたみたいだけれど、王立学園の休暇に、ルンベルグ辺境伯領に戻っても、ディオス様を思い出すのが辛くて、部屋に閉じこもってばかりいた。


 ルシードは、4属性に加えて、光と闇の魔法も使いこなす。

 でも、いくら才能があっても、あの若さで、各属性の魔法陣を全て覚えて使いこなすなんて、なかなかできるものじゃない。


 バチンッと小さな雷鳴が、足元に小さな光を散らばす。ルシードが、剣を抜いた。


「……そうか、本気をまだ出してないのね」


 体力に対して、魔力の回復には時間がかかる。

 一対多数の短期戦に比べ、こういった、連戦を魔術師は苦手とする。魔力切れを起こしてしまうから。


 つまりルシードは、得意の広範囲魔法を使わず、魔剣士としての闘い方で、ここまで上り詰めたのだ。


「シェアザード兄様と、同じくらい強くなっている」


 足元に弾ける魔法に、手助けされて、風のようにアベル様に狙いを定めたルシード。

 けれど、対するアベル様は、戦いの最中だというのに、殺気すらなく、ゆらゆら漂うクラゲのような雰囲気だ。


 ゆらりと振るわれた剣は、ルシードの首をまっすぐに捕らえる。

 魔力障壁に弾かれて、その剣は止まる。


「やば。全く見えなかった」

「うわ、本気で斬りつけたのに。すごいですねっ!」


 楽しそうだけれど、本気で首を斬りつけたら、防がないと死んでしまう。


「……はあ。絶対に、序列3位にあがって、ディオスと戦うつもりだったのに、雲行きが怪しくなってきた」

「俺のことは、眼中にない感じですか?」

「いいや。強いな、アベルは」


 ルシードは、そう言って、もう一度足元に雷鳴を轟かせ、今度は大きく距離を取る。


「気配が掴めないなら」


 練武場の観覧席手前まで、巨大な魔法陣で地面が埋め尽くされる。


「あはははっ。観覧席手前に、姉さんを守るための強固な結界。俺の全力でも、破れる気がしない。だから、今の俺の本気を出すよ。ディオス!」


 結界が作られているらしい。

 あ、あの……。ルシードの本気って、ルンベルグ家でも、屋敷が倒壊するからと、兄様たちに禁止されていますよね?


 ――――アベル様、逃げてぇ!


 それなのに、急に気配を消すのをやめたらしいアベル様は、練武場の真ん中で逃げる様子もなく立っている。

 さっきまで見えなかった、少し垂れ目の大きな瞳。微笑んだ表情が、どこか巨大な魔法陣と吹き荒れる嵐とチグハグで、誰もが声を出すこともできず、固唾を飲んで見守る。


 ドンッという、鈍い地響きともに、巨大な嵐が、闘技場を吹き荒れる。全てを吹き飛ばしてしまう、魔力の嵐。


「ひゃっ!」


 あまりの魔力の強さに、髪の毛がバサバサと乱れ、メガネも外れて飛んでいく。

 結界を越えて、こんなに威力があるなんて……。


 よろめきそうになった体を、誰かが支えてくれる。その瞬間、私たちの周囲だけ、完全に風どころか音もなくなった。

 優しい香り、そんな人、一人しか知らない。


「申し訳ありません。完全に防ぐつもりだったのに。次は、この魂を糧に結界を練りますので、どうかお許しを」

「えっ、やめて下さいねっ? 冗談ですよね? ダメですよ!」


 ディオス様は、微笑んで首を傾げた。

 これくらいの風で、そんな魔法を使われては、心配のあまり私の命の方が削れてしまいそうだ。


 いつから、こんなふうになってしまったのだろう、ディオス様は。

 いや、三年以上前には、すでにこんなところがあった。間違いない。


「……そんな魔法、ディオス様が使おうとしたら、私だって奥の手を使いますからね!」

「………………わかりました。リリーナの、危機にだけ使います」


 渋々と言った様子のディオス様。

 了承を得られたのか、不安が増したのか。

 命の危機になど、陥らないようにしよう、と私は決意を固めるのだった。

ご覧いただきありがとうございます。『☆☆☆☆☆』からの評価やブクマいただけるとうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ