表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/47

魔王と悪役令嬢の弟



 魔王城と呼ばれる、荘厳な城。

 そこは、黒と金色を中心に装飾された、魔王の城にふさわしい外観と内装をしている。


「色合いは確かにそれっぽいけど、全てが超一流だな」


 つぶやいた人間は、私と同じ薄紫の髪の毛と、兄と同じダークブルーの瞳をしていた。


「……それに、働いている人間は、多種族。差別されることもなく、同等に働いている。……それにしても」


 もっと、侵入者に対して、抵抗を見せるのかと思ったのに、なぜかルシードの髪の毛を食い入るように見ては、大事な客人でも来ているかのように深くお辞儀をしてくる。


「戦う気満々だったから、不完全燃焼な上に、気味が悪い」

「そうか? では、戦いの場を提供しようか」


 真後ろを取られるまで、気配がなかったことに、ルシードは戦慄した。

 ルシードは、常時周囲を警戒しながら生きている。

 中、遠距離であれば、ルシードは誰にも後れを取らないだろう。だが、至近距離まで寄られてしまうと、魔法陣を編む時間が必要な魔術師は、実力の半分も出すことが出来ない。


 まだ、王立学園に在学中であるがゆえに、本格的な前線は免除されているが、それでもルシードは王国最高峰の魔術師だ。学生でありながら、精鋭ぞろいの王立魔術師団にも所属している。

 今まで、こんな風に、背後を取られることなんて……。


 その瞬間、ルシードの脳裏に兄二人と、姉の守護騎士の姿が浮かぶ。


 ――――幼い頃から、彼らには、敵わなかった。遠距離から戦闘が開始するハンデがあれば、ルシードが一番強いかもしれないが……。いや、守護騎士にだけは敵わないだろう。

 つまり、ルシードは、まだまだ修行中の身ということだ。


「――――ガルシア国王陛下」


 ルシードの後ろにいる人間、ジークハルト・ガルシア国王陛下には、敵意のかけらもない。


「おや、後ろに目でもついているのかな? 振り返りもせずに言い当てるなんて」


 たぶん、この城で一番強い、いやガルシア国で一番強い人間だ。魔王に決まっているだろう。

 舌打ちしたい気持ちを抑え込み、ルシードは振り返ると、膝をついた。


「リリーナ・ルンベルグの弟。ルシードと申します」

「へぇ。家名ではなく、リリーナの弟としてあいさつするのか。賢明だな。――――それであれば、友人として歓迎せざるを得ない。立ち上がってくれ」


 葡萄色の瞳がまず一番初めに目についた。

 リリーナと、まるっきり同じ色合いだ。

 ルンベルグ家の四人の中で、唯一違う色合いを持つリリーナ。

 瞳の色は、血統を表す場合が多い。だが、どこから来た色なのか、ルシードは知らされていなかった。


「俺の目が、気になるようだな? その、髪の色は受け継がれていたのか……。弟君にも」

「髪の色……? 何のことでしょうか」

「ここで話すような内容でもない。ついてきてくれるか?」


 罠の可能性が高い。常識的な部分が、そんな警鐘を鳴らす。それと同時に、絶対的強者であるガルシア国王がそんなことはしないという確信。

 それに、本拠地に入り込んでおいて、あまりに今更だ。


「喜んで、お誘いを受けさせていただきます」

「素のままでいい、友人としての招待だ」


 だが、この後ルシードが、聞いてしまった話は、私に関係する極秘事項なのだった。

 魔王からの甘い誘いを聞いてしまった人間は、例外なく選択を迫られる。

 だって、それは人生の岐路なのだから。


「――――姉さんを選ぶに決まっている」

「そうか、では、私と手を組むということだな?」


私の知らない間に、また一人、大事な人は他を投げ捨てて、私を選んでしまった。

 そのことを、当の本人である私は、知りもしない。


「気に入らないが、そうなるな」

「では、ルシード殿、明日からガルシア魔術師団に所属していただこう」

「は? なんで」



 ✳︎ ✳︎ ✳︎



 妙に疲れた様子で、弟のルシードが帰宅した。

 何かを倒しに行っていたはずなのに、ディオス様とバラバラに帰って来た。今日は何を倒してきたのかと、興味津々に見つめていれば、銀色の魔石が差し出される。


 この大きさからして、伝説級の竜でも倒してきたのだろうか? 二人なら、出来そうなのが、恐ろしい。


「あ、姉さん。俺、――――明日から、この国の魔術師団所属になったから」

「は? なんで」


 姉と弟は、まったく同じ返しをしたのだが、そのことを私は知る由もない。

 ルンベルグ家の人間が、二人、そして私の守護騎士であり、ベールンシア王族でもあるディオス様が、ガルシア国にいる。その余波が、私の大事なルンベルグ辺境伯家を巻き込み、王国と魔王の国の均衡を、三百年ぶりに崩してしまうことを私は知らない。


 それでも、もう取り返しがつかないほど、乙女ゲームからシナリオは改変され、本当の物語が始まろうとしているのだった。

最後までご覧いただきありがとうございます。


『☆☆☆☆☆』からの評価やブクマいただけるとうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ