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運命のシナリオ



「はあ……。記憶消去の魔法、いや時間を巻き戻して聖女を拘束」


 ディオス様の独り言が怖い。どれも、ルンベルグ家の図書館にあった禁書に書いてあった魔法だ。

 ディオス様なら、魂を対価にするにしても、成功できそうなのが怖い。


 せっかく再会できたのに、魂を対価になんてさせるわけにいかない。


 魂があること、生まれ変わりがあること、私は知っている。

 もしかしたら、いつかまた会えるかもという思いだけが、私をディオス様が迎えに来てくれた、あの日まで、辛うじて生かしていたのだから。


「ダメですよ。私、ディオス様のことは、一つも忘れたくないんです」

「忘れていたじゃないですか」

「少し、大事すぎて、厳重にしまい込んでしまっていただけです」

「――――は、そんな言葉。やめてください」


 両手で顔を覆ってしまった、ディオス様。

 耳が赤いのは、気のせいだろうか……。


「――――ディオス様、好きです」

「……聖女が言っていたでしょう? 俺は、リリーナの両親を死なせたのですよ?」

「ディオス様のせいではありません」

「俺が、巻き込んだんです」


 どうして? そう、この間も私が告げようとした言葉は、唇に塞がれてしまった。

 ――――唇に。私の、ファーストキス。


「――――好きです。大、大、大好きです」

「リリーナ」

「どれだけ好きかなんて、ディオス様こそ、知らないです」


 無事に断罪を逃れたら、ディオス様の後を追ってしまおうと、毎日考えずにはいられないほど、好きだった。だから……。


「愛しているって、言いましたよね?」


 ゴクリと、喉を鳴らす音がした。

 私を見つめる瞳は、ドロドロと溶けてしまいそうなほど、熱い。


「――――後悔しても、知りませんよ?」

「後悔なんて、もうし尽くしました」

「っ……リリーナ」

「もう、いなくならないとだけ、約束してくれませんか? 他には何もいらない」


 抱きしめられた。熱い、熱い体と、泣きそうな瞳。


「……それなら、リリーナが、望んでいてくれる間だけ」

「それなら、ずっと……ですよ?」


 転べば手を差し伸べてくれた。木の上から降りれなくなれば、助けに来てくれた。なぜか、助けようとした子猫は、ディオス様に懐いて、辺境伯家に居ついた。

 優しいディオス様。大好きなディオス様。


 守護騎士になって欲しいなんて、言わなければよかったのに。


 何度、後悔したか分からない。悪役令嬢の守護騎士になるなんて、きっとディオス様にとって、得になることが一つもない。


「――――私の、守護騎士になって欲しいなんて、頼まなければ、今も一緒にいられたのかなって、何度も何度も後悔しました」


 その時、浅瀬の海の色をした優しい瞳が、すっと細められた。


「――――それこそ、今現在、あなたのもとに俺はいない」

「ディオス様?」

「あの日、死を覚悟しました。……救ってくれたのは、あなただ」


 それは、あの日のディオス様の覚悟だった。

 もう一度、落ちてきた口づけは、私の気持ちを封印してしまうためのものではない。

 あの日に、もう一度、思いを馳せるための勇気。


 ディオス様が語ってくれたのは、生まれ落ちたゆえの苦悩。

 自分では、避けることが出来ない、運命のシナリオだった。

最後までご覧いただきありがとうございます。

『☆☆☆☆☆』からの評価やブクマいただけるとうれしいです。

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