出会いは繰り返す 2
私の腕の中に収まった、小柄な聖女。
潤んだ子猫みたいな、蜂蜜色の瞳。桜色の肩までのウェーブがかった髪。
「あ、あのっ。ご迷惑をおかけしました!」
「え、あの……。お気になさらず」
関わらないと決めていたのに、どうしてこんなに始まりからガッツリと関わっているのだろうか。
「そ、それではこれで」
私は、ローザ・ルティラシアを地面に下ろすと、立ち去ることにした。
関わらない。関わらないのが一番なはずだ。
「あのっ、お名前を教えてくださいませんか?」
「…………リリーナ・ルンベルグですわっ!」
「リリーナ様!」
ですわってなんだろう。ですわって!
それに、キラキラ輝いた瞳。誰もが彼女に心動かされる。それだけの魅力を彼女は持っていた。
そう、ほんの数日前なら、私だって、もしかしたらあなたと仲良く過ごして、ハッピーエンドを迎える未来もあるのかもしれないと、思っていた。
「……ディオス様」
その名前をつぶやいてしまった瞬間、真っ黒なクレヨンに心がベトリと、塗りつぶされる。
もう、会えない。
「リリーナ様。あなたは、もう一度会えます」
「え?」
顔を上げると、ローザの瞳は、蜂蜜色を通り越して、金色に輝いていた。
「……それが、運命だから」
「ローザ様?」
呆然と見つめるけれど、その美しい、月が映る湖面みたいに、てらてらと光る瞳に、私は映っていない。
そう、ローザとの出会いは、乙女ゲームとは違っていた。彼女は、第三王子殿下の婚約者として、近すぎる距離に怒り狂う私と、怯える彼女という構図を、簡単に飛び越えてきた。
「……そうですよ。私、リリーナ様が、好きなので」
「私も、ローザのこと、好き。可愛いし、いい子だわ。友達になりたかった」
今なら素直に、そう言える。結局のところ、ディオス様がいて、初めて私は自由になれる。
「本当ですか⁈ 私も、好きです。友達になりたくて、でもリリーナ様ったら、いつも人生を諦めているみたいに、誰も近づけなかったから」
「そうね。……今なら違うかもしれないわ」
「うふふ。じゃあ、友達から、はじめませんか?」
そうね。それもいいわ。もし、ディオス様がそばにいてくれるなら、聖女との、そんな関係も素敵。
蜂蜜色の瞳。美しい、満月の映る湖面。
目の前にある美しい風景。
近すぎはしないだろうか?
「…………は?」
「私は、友達からで、構いません」
「ふぇ?」
バサリと、読もうと思っていた、ガルシア国の歴史書が私の手から滑り落ちる。
目の前に映る色彩は、満開の桜。
月に映える、美しき夜桜。
私の目の前には、どこまでも優しく微笑む聖女。久しぶりに会う、ローザ・ルティラシアがいた。え、なんで? なんでここにいるの?
私の動揺なんて、気にしてないかのように、聖女ローザは、儚いくせに、絶対忘れられない、あざとい微笑みを私に向けた。
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