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閑話 悪役令嬢の元守護騎士と弟



「みーつけた」


 たぶん、リリーナが聞いたら耳を疑うような低い声。それは、悪役令嬢の弟として生まれたルシードの声だ。


「……ルシード。予想より、少し遅かったですね」


 その言葉を聞いて、言い返そうとしたルシードは、しかし、ディオスの黒い軍服がひどく湿っているのに気がついて、口をつぐむ。


「ディオス、お前、なんでそんな戦い方してるんだ」

「……何が、ですか?」


 どう見ても、返り血なんかじゃない。

 まるで、自分が傷つくことなんて、考慮していないような戦い方だ。


「え、バカなのか? ディオスは強いんだから、もっと違う戦い方があるだろ?」

「ルシード、巻き込まれたくなければ、離れていた方が良いですよ。今回は、少しばかり……」


 強い視線をディオスが向けた先には、巨大なワームがいる。口元から吐いた氷で出来た糸は、すでにディオスの持つ剣を捕らえて離さない。


「……え? 魔王の国って、魔獣のサイズも違うのか。こんなサイズのアイスワーム、見たことないんだけど」

「この国で、もし魔獣を処理しきれなければ、三百年前の惨事が、もう一度起こるでしょう」

「は? 三百年前って……」


 三百年前、当時のベールンシア王国は、建国したばかりだった。その直前に起こった、スタンピードにより、壊滅しかけたベールンシアは、一人の英雄王とその妃によって救われた。

 起こった魔獣のスタンピードは、隣国の魔王による策略であるとされているが、もしかすると、実際は違うというのだろうか。


「は? 魔王側に寝返ったくせに、一度も戦場で見かけなかったな、と思ったら、ディオス、まさかお前、ずっとこんな風に」

「申し訳ありません。今は悠長に、話している余裕はないので」


 糸が絡まっているせいで、これ以上距離を取ることは困難だ。ディオスが真っ直ぐにワームに向かっていく姿を、ルシードは呆然と眺めた。だが、それもほんの数秒。


「ば、バカなのか⁈ 今は俺もいるんだから、協力を……」


 慌てて構築された魔法陣は、炎系魔法の最高峰。全ての魔獣の弱点は、リリーナと学んだ日々で、ルシードの頭の中に叩き込まれている。


 まるで、ルシードが攻撃するタイミングすら読んでいたかのように、ディオスが横に飛び退いた。


「ちっ、気に入らないな!」


 ピリア山脈に、炎の嵐が起こる。

 アイスワームは姿を消して、魔石だけがコロリと地面に落ちる。

 そう、魔石の産地ということは、それを持つ魔獣が、たくさんいる地域ということでもあるのだ。


「あ! 魔石、拾わないのか?」


 ルシードとワームに背中を向けて、去っていくディオス。ルシードは、これ一つで屋敷の一つくらいは建つ魔石を拾うと、後を追いかける。

 ディオスが、ため息を一つついて、ピィーッと、高く響く口笛を奏でる。


「……無思慮に、どなたかが炎系の魔法を使ってしまったので、雪崩が起きます。この場合、光魔法で一点突破が正解でした」

「は?」


 不気味な地響きが徐々に大きくなる。足元の小さな振動も。

 口笛ひとつで、飛んできた竜がディオスとルシードを乗せて、青空に舞い上がった。


 遥か下では、二人が立っていた場所が、巨大な雪崩に巻き込まれていくところだった。

最後まで読んで頂きありがとうございます。


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