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生きて帰ります、というフラグ。



 ✳︎ ✳︎ ✳︎



「思い出しましたか?」

「……なんであの時、泣いていたんですか」

「ああ、初対面の時ですか。それは、恥ずかしいですね」


 たぶん、ディオス様が言っていたのは、悪役令嬢の運命について、私が話してしまった時のことだろう。

 思い出さないようにしていた。でも、ふたを開けてしまえば、ディオス様について一つの結論に行きついてしまう。


「――――ディオス様は、私の守護騎士になるようなお方ではなかったのですね」


 そう、ディオス様は、王族の血を引いている。

 そう考えれば、納得がいく。父と母が死んだ理由が自分にあるように言っていたことも。


「はは、そこを思い出してしまうのですか? ただ、俺としては、リリーナを害するすべての運命から守ると誓ったことだけ、思い出してもらいたかったのに」

「それも、もちろん思い出しましたよ。よく、信じてくださいましたよね?」

「リリーナの言うことは、全て信じていますよ。俺の生きる意味ですから」


 にこりと笑ったディオス様。

 どこか、重々しいその言葉も、ディオス様が歩んできた運命を思えば、当然のことなのかもしれない。


「――――まだまだ、聞きたいことがあるって顔をしていますね。リリーナ」

「それは、たくさんありますけれど」


 たくさんある。ディオス様のことなら、何でも知りたいのだ。私は。


「……馬車が、屋敷についたようです。行きましょう」


 ディオス様が差し伸べた手を取る。

 三年前の幸せな日常が、舞い戻ってきたみたいだ。

 ふわりと馬車から降りる。ディオス様との距離が近い。顔がディオス様の胸に触れそうだ。


 背中に添えられた手に、力が込められたから、抱きしめられるかと思った。

 でも、それは気のせいだったのだろう、口元を軽くゆがめてほほ笑んだディオス様は、私を部屋にエスコートしてくれる。


 部屋の中に入ると、低い声でディオス様がつぶやく。


「――――リリーナ。これから、何度でも生きて戻ってくることを、お約束します」

「ディオス様?」

「それで、赦してくださいませんか」


 守護騎士の契約は、お互いが死によって遠く分かたれるときにしか、解除されない。

 唯一、お互いの同意によって守護騎士契約を破棄することはできるけれど、そうしてしまうと、もう二度と守護騎士を持つことも、守護騎士になることも出来ない。


 私たちの守護騎士契約は、破棄されてはいない。


「ええ、契約に誓って……。それから、俺が、今からすることは、許してくださらなくて結構です」


 許してくれなくていいと言いながら、私の手を握った力が妙に強い。

 それに、なんだかその笑顔、薄暗いですよ?


「え? それはどういう」


 本能的には、逃げなければと思うのに、その笑顔はあまりにも妖艶で、好み過ぎて、私は逃げ道を完全にふさがれてしまった。


「あなたは、俺が帰ってくるまで、この部屋から一歩も出ることが出来なくなります」

「え、なぜなぜ?」


 話の流れが、急激に危ない方向に向かい始めた。

 ディオス様が、そんなことを言うなんて、完全に想定外だ。


「――――俺には、敵があまりにも多い。この屋敷の中で、この場所だけは、何重にも結界を張っています。ここが一番安全なので。ああ、専属侍女のミミルーは、ここを出入りできます。あなたが望むなら、遠い異国の宝石でもすぐに用意させましょう。俺の持つ、全てをかけて、あなたに不自由な思いはさせません」


 ほ、本当に敵が多いという理由だけなのですか?

 いくら、全ての設備が整っていて、一軒家よりもはるかに広いといっても、一歩も出るなとは?

 というより、生きて帰ってくるとか、フラグっぽくて嫌です!


 たくさん言いたいことがあったのに、ディオス様は私の髪に軽く口づけを落とし、「どうして、拒否してくれないんですか」とつぶやくと、部屋から出て行ってしまった。

 戦いに出かけてしまったのだろう。というより、すぐに拒否しなかった、私が悪いのだろうか。


 私の好みにピッタリのシンプルな部屋。

 そこには、子どもの頃大事にしていたのに壊れてしまったものにそっくりなぬいぐるみや、白い花のブーケ、そしてなぜかディオス様の瞳や髪の色で揃えられたドレスが並ぶクローゼット、見たこともないような本の数々、ときめくアイテムが溢れている。


「――――こんな場所、出なくても平気に決まっている」


 基本的に、ルンベルグ辺境伯家でも、強制参加の特訓以外は図書室に引きこもっていた、

 前世は、乙女ゲームばかりして引きこもっていた。


 もしも、ここから出られないという制約がなかったとしても、出られなかったかもしれない。

 それくらい、私にとって、この場所は魅力的なのだった。


最後までご覧いただきありがとうございます。

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