馬車で向かうのは、あの場所。
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どうして私は、この場所で、深く礼をとっているのだろう。
嫌な予感はしたのだ。
馬車がどんどん近づいていくのは、街の中心部。
可愛らしい印象の街並みにそぐわない、良く言えば重厚な、悪く言えば悪の親玉が住んでいそうな、お城。
魔王城に、馬車は向かい続け、とうとうその城門を顔パスでくぐり抜けて、正門に横付けした。
お城のこんな近くまで、馬車を乗り入れるのが許されるなんて。
つまり、軍事国家の将軍様は、はるか位が上のお方なのだということを実感するしかない。
「お待ちしておりました。ラベラハイト将軍」
「ご苦労。早速、御目通り願えますか?」
……そう言えば、ラベラハイトなんて家門、王国のどこにも存在しない。辺境伯家の基礎教育で習ったのに、どうして疑問にすらしなかったのだろう。
前世の感覚が、邪魔したのかもしれない。この世界で、苗字を持つ人間は、全体のごく一部だ。
「あの、御目通りって、どなたに」
どんどん奥に進んでいく。
何人もの衛兵が、ディオス様に敬礼する。それに、軽い目礼で応えながら、ディオス様は当然のように進んでいく。
確実に、城の奥、通常入ることすら叶わない場所。それは、つまり。
「リリーナなら、問題ないでしょう」
場内に入ってから、冷たすぎる無表情になっていた、ディアス様の氷が、不意に溶ける。
私だけに向けられたその変化。
でも、問題は大ありだ。
「相手によりますよ」
「リリーナに何かしようとすれば、誰であろうと許さないので、問題ありません」
「ひぇ」
そういう意味での、問題ないなのですか⁈
やっぱり冷たすぎる無表情に戻った、ディオス様がつぶやいた言葉。
それは、本気なのだろうか。
だって、今から会うお方って、たぶん。
黒壇のような木でできた扉、たぶん本物の黄金を惜しみなく使った荘厳な装飾。
開いたら、逃げる選択肢のない、ラストバトルが始まる演出だ、これ。
プルプルッと震えるのも仕方ない。
だって、これから会うお方は、魔王様。
戦う以外の理由で会うなんて、絶対ないお方。
しかも私は、魔力も剣も、何の力も持たない落ちこぼれ。
「…………あ」
何故か頭を撫でられる。
顔を上げると、ディオス様が、大丈夫とでもいうように、にこりと笑った。
その瞬間、扉が開く。
あれこれ考えていたのに、頭を急に撫でられて、しかもディオス様が、どこか幼く見えるほど可愛らしい笑顔に釘付けになった私は、初動が遅れた。
「……は。お前、そういう顔できたのか」
「……部屋の奥で、出迎えていただければ、それで良かったのですが」
「こんな珍しいもの、見ずにいられるか。なあ、対魔獣戦の死神君?」
「陛下?」
ブリザード。凍えてしまいそうだ。
それに、それに、目の前にいるお方はやっぱり。
私は、深く跪礼をする。
「其方が、リリーナ・ルンベルグか」
「はい。リリーナ・ルンベルグでございます。ジークハルト・ガルシア国王陛下」
ベールンシア王国では、王国の太陽などが国王陛下への謁見の決まり文句だけれど、ガルシア国では、何て言えばいいのだろう。
「臆さないのか。面白い女」
「陛下」
普通に挨拶しただけなのに、面白い女認定を賜った私と、纏う雰囲気を氷点下にしたディオス様。
な、何か大きなミスをしたのだろうか。
だって、戦い以外で、ガルシア国王陛下に出会うなんて、想定外なのだもの。許して欲しい。
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