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馬車で向かうのは、あの場所。



 ✳︎ ✳︎ ✳︎



 どうして私は、この場所で、深く礼をとっているのだろう。

 嫌な予感はしたのだ。

 馬車がどんどん近づいていくのは、街の中心部。

 可愛らしい印象の街並みにそぐわない、良く言えば重厚な、悪く言えば悪の親玉が住んでいそうな、お城。


 魔王城に、馬車は向かい続け、とうとうその城門を顔パスでくぐり抜けて、正門に横付けした。


 お城のこんな近くまで、馬車を乗り入れるのが許されるなんて。

 つまり、軍事国家の将軍様は、はるか位が上のお方なのだということを実感するしかない。


「お待ちしておりました。ラベラハイト将軍」

「ご苦労。早速、御目通り願えますか?」


 ……そう言えば、ラベラハイトなんて家門、王国のどこにも存在しない。辺境伯家の基礎教育で習ったのに、どうして疑問にすらしなかったのだろう。


 前世の感覚が、邪魔したのかもしれない。この世界で、苗字を持つ人間は、全体のごく一部だ。


「あの、御目通りって、どなたに」


 どんどん奥に進んでいく。

 何人もの衛兵が、ディオス様に敬礼する。それに、軽い目礼で応えながら、ディオス様は当然のように進んでいく。


 確実に、城の奥、通常入ることすら叶わない場所。それは、つまり。


「リリーナなら、問題ないでしょう」


 場内に入ってから、冷たすぎる無表情になっていた、ディアス様の氷が、不意に溶ける。

 私だけに向けられたその変化。


 でも、問題は大ありだ。


「相手によりますよ」

「リリーナに何かしようとすれば、誰であろうと許さないので、問題ありません」

「ひぇ」


 そういう意味での、問題ないなのですか⁈


 やっぱり冷たすぎる無表情に戻った、ディオス様がつぶやいた言葉。

 それは、本気なのだろうか。

 だって、今から会うお方って、たぶん。


 黒壇のような木でできた扉、たぶん本物の黄金を惜しみなく使った荘厳な装飾。


 開いたら、逃げる選択肢のない、ラストバトルが始まる演出だ、これ。


 プルプルッと震えるのも仕方ない。

 だって、これから会うお方は、魔王様。

 戦う以外の理由で会うなんて、絶対ないお方。


 しかも私は、魔力も剣も、何の力も持たない落ちこぼれ。


「…………あ」


 何故か頭を撫でられる。

 顔を上げると、ディオス様が、大丈夫とでもいうように、にこりと笑った。


 その瞬間、扉が開く。


 あれこれ考えていたのに、頭を急に撫でられて、しかもディオス様が、どこか幼く見えるほど可愛らしい笑顔に釘付けになった私は、初動が遅れた。


「……は。お前、そういう顔できたのか」

「……部屋の奥で、出迎えていただければ、それで良かったのですが」

「こんな珍しいもの、見ずにいられるか。なあ、対魔獣戦の死神君?」

「陛下?」


 ブリザード。凍えてしまいそうだ。

 それに、それに、目の前にいるお方はやっぱり。


 私は、深く跪礼をする。


「其方が、リリーナ・ルンベルグか」

「はい。リリーナ・ルンベルグでございます。ジークハルト・ガルシア国王陛下」


 ベールンシア王国では、王国の太陽などが国王陛下への謁見の決まり文句だけれど、ガルシア国では、何て言えばいいのだろう。


「臆さないのか。面白い女」

「陛下」


 普通に挨拶しただけなのに、面白い女認定を賜った私と、纏う雰囲気を氷点下にしたディオス様。

 な、何か大きなミスをしたのだろうか。


 だって、戦い以外で、ガルシア国王陛下に出会うなんて、想定外なのだもの。許して欲しい。

 

 

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