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再会は、闇堕ちの香りとともに。


「リリーナ。やっと、あなたを迎えにくる準備が整いました」


 月のない夜、暗闇に飲み込まれそうな真夜中、私の部屋の窓は、木っ端微塵になった。

 眠れずにベッドに腰掛けてボンヤリとしていた私の目の前には、真っ黒な軍服を身に纏った男性。

 淡い金色の髪と、南の海のような緑がかったブルーの瞳。背景に溶け込んでいるのに、その髪と瞳だけは、まるで星のようにきらめいている。


 その人は、私のよく知っている人だ。


「ディオス様……。どうして」

「どうして? あなたの元に必ず帰る、と約束しましたから」


 たしかにあの日、守護騎士ディオス様は、辺境伯令嬢である私、リリーナ・ルンベルグに「あなたの元に必ず帰ります」と約束をしてくれた。

 それは、果たされなかった二人だけの約束。隣国との戦いで、ディオス様は命を落としたはずだった。


 でも、確かに、目の前のディオス様は、生きているみたい。足もある。


 あの戦争の後、ディオス様の亡骸すら私の元には帰らなかった。

 けれど、ディオス様が、肌身離さず身につけていたという、深い赤色、葡萄みたいな私の瞳と同じ色をした魔石がはめ込まれた腕輪。それだけは、長兄が持ち帰り、今も私の手首にはめられている。


「それ、身につけていてくれたんですね」


 嬉しそうに笑う、その笑顔は、あの日と少しも変わらない。


 でも、私が聞きたいのは。

 動揺とそれと同じくらい胸に迫り来るなにかで、声が震えているのを自覚しながら、なんとか口を開く。


「……どうして、魔王軍の軍服を」


 ベールンシア王国では、馴染みのないはずの黒い軍服。けれど、私は、その服をよく知っている。悪役令嬢リリーナの暮らす、ベールンシア王国の隣国は魔王の国。乙女ゲームの魔王の配下が纏っている軍服だから。


「ああ……。今は、ガルシア国で、将軍の地位についています」

「魔王軍の将軍」


 悪い冗談なの?

 少なくとも、私が知るディオス様は、清廉潔白な人。間違っても、魔王の配下になるなんて、あり得ない。


 これは、魔王の手先が、私の大事な思い出を利用して、ちっとも働かない悪役令嬢を闇堕ちさせに来たのだろうか。

 その線が濃厚ではないかしら?


「俺と一緒に、来てください」

「え、闇堕ちのお誘いですか」

「…………ふっ」


 ディオス様が、笑う。

 その笑顔は、あの日とちっとも変わらない。

 そのことに胸が、キュンと切なく、苦しくなる。


「そうですね。俺とともに、堕ちて下さい?」


 手のひらに口づけられる。

 まるで懇願するみたいに。

 あの別れの日みたいに。


 悪役令嬢として生まれたはずの、私の運命の歯車が音を立てて回り始めた。

 そんな予感とともに、抱き上げられた私の体は、宙を舞った。



ご覧いただきありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ディオス様の「俺とともに、堕ちて下さい?」の攻撃力が高いー!ドキドキです(//∇//) 「はい!喜んで♪」とか食い気味に答えてしまいそうです笑
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