若長のに愛人 黒髪の乙女④
ただの声の枯れなら、何日かで自力で治せるかもしれない…。
そんな事を考えていた矢先、心を読んだかの様な若長の発言に、マヤはなけなしの意地で反論する。
(……………………。)
なんて、忌々しい展開だ…。
しかし、今は黙って従うしかない。その事もマヤには重々わかっていた。
そう…。
良くも悪くも、ここは森の都の深層部…。
《 状況が変わっても、すべき事変わらず、最後は全部つながっていく…。》
腹をくくって、自分の役目と本来の顔を潜ませ…。
そう胸の中で呟きながら、マヤは真っ直ぐと前を見据え、ツワブキに支えられながら前へと進んで行く。
「さあ、二人にお辞儀して。そしたらそこに用意してある座布団に座るんだ。ずらっと両脇に座しているのは、政を司る長老達と重鎮。あと、その他野次馬もろもろも多数かな…?皆、君が気になって仕方ないみたいだね」
「………………。」
今、ありとあらゆる好奇と警戒を含んだ視線が、マヤと若長を突き刺して取り囲んでいる…。
「おじじ様、おばば様。マヤを連れて参りました。遅くなってしまいましたが、ご挨拶申し上げます」
そう言って、若長はマヤを最初に座らせると、自分も隣に座って、上座の老婆と老人に向かって深々と頭を下げる。
「水の国との縁談を無視して彼女を連れ帰った事…、元々出していた条件に反してはいないとはいえ、本当に申し訳ございませんでした……。今後の水の国との国交は重々慎重にして参りますゆえ、お許し下さい」
そう頭を下げ続けるツワブキに習い、マヤも挨拶程度に頭を下げる。
無愛想を通し抜いてもなんら不都合はないのだが、反抗的な態度が後々命取りになっては困る…。
とりあえず、自分の意志とは反してここにいるという事を示すべく、これ見よがしにお辞儀の時床に出した手で、それとなく手首の鎖をアピールする。
見よ。この鎖。
普通はこんな鎖、女につけるなんてあり得ないでしょうが…!?
一縷の望みを期待しながら、マヤはぶ然と視線を床に向けながら、相手の反応を伺う。
「ふ~~~~~~む」
マヤの意思表示に気づいた老婆の方が、何やら考え深げにこちらを観察している。
「若よ」
微笑みながら老婆の瞳が少し開き、怪しく剣呑と見据えられる。
「そのありさま……。…決して同意の仲とは言い難いようじゃのぅ~~…?まさか、水の姫との破談の為の仮初めの乙女とは言わなんだな…?そうならば、森の長としても、人の上に立つ者としても、決して許される事ではないぞぇ~~~~?」
狙い通りの老婆の問い…。
してやったりと内心ほくそ笑むマヤ。
しかし…………。
間髪あけず隣のツワブキから飛び出す返答に、思わず胸ぐらを掴みたくなってしまう。
「いえ。それはありえません」
「確かに同意の仲とは今は言えませんが、一目見た時、フォーリンラブ。獲物を狙うストーカーの如く追って狙って、袋詰めにしてきました」
爽やかに微笑み、都合の悪い事柄を省いて、ほぼありのままのいきさつを堂々ケロリと言ってのけるツワブキ。
《《ふぉ…、フォーリンっ―……………!!?》》
ドンガラガッシャーーーン!!
何ともいえない若長の単語のチョイスに、その場の空気が瞬時に固まり、人々の間を激しい稲妻がほとばしる。
(きっ、聞いたか!?俺の聞き間違えじゃないだろうな!?あの若がフォーリンラブだとぅ…?!しかも、ストーカーの様に、追って狙って袋詰め!?)
(俺らが若に嫁御を迎えてもらうために、あの手この手で万策尽きてもダメだったのにフォーリンラブ………)
(本気だ…。ああなりゃてこでも動かねぇぞ……)
周りからは、あわだったざわめきやコソコソ話がたくさん聞こえてくる。




