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森の若長 ツワブキ⑤
そう言うと、男は湯殿の入り口から廊下の奥に向かって、マルバ~もう良いよ~。と呑気な声を上げる。
すると、奥の方から、わかりました~という、先程の恰幅の良い女性の声が聞こえてきた。
「じゃ、オレは先に行って準備してるよ。広間で君が準備できるのを楽しみにね。一応、副作用を抑える解毒薬をマルバに渡しておくから飲むと良い。多少はマシになるはずだよ」
そう言うと、男はマヤを見つめる緑の瞳を楽しげにほころばせ、ひらひらと手を振り去っていこうとする。
「自己紹介が遅れたけど、俺の名前はツワブキ。今は森の国の長を任されてる」
「ようこそ。森の精霊神、リオ神の眠る太古の都、リオフォレストへ。今日から君も俺たちの家族の一員だ。皆には旅の踊り子って話にしてるけど…、何かあったら公衆の面前で濃厚キッスをお見舞いするから、よろしく~」
「!!!!」
奴なら、本当にやりかねない。
男の言葉に、この先、なんだか今まで味わった事のないような嫌な予感しかしないのはマヤの気のせいなのだろうか…?
男の気配が遠ざかる中…。
憎い相手…。
皇女と一緒に殺してやろうと思っていたその婚約者の愛人…。
(笑えないわ…)
乳白色の湯気が漂う浴場の寝台の上…。
マヤはぐったりと力尽きた…。




