森の若長 ツワブキ③
……マヤの怒りは最頂点だ。
「マルバ。おばば様とおじじ様にあいさつに行く。彼女にあの衣装を用意しておいてくれ」
「わかりましたわ。若様。ささ、みんな引き上げてお二人を二人きりにしてさしあげましょう。マヤ様には何か羽織る物を…」
「お待ちください。マルバ様。こちらにありますわ」
マルバと呼ばれた少しかっぷくの良い女性は、気を利かせてくれたのか。
バサッと白い大きな羽織りをマッサージ台で裸でうつぶせになっていたマヤの上にかぶせてくれた。
「では、私共はこれで」
ぺこりと頭を下げ、笑顔でそう言い残すと、彼女たちはすたこらさっさとマヤ達のいる湯殿から出て行ってしまう…。
「……………。」
「……………………。」
先程までの女たちのにぎやかさがまるで嘘のような沈黙がその場を包み込む。
視線が交錯したまま、マヤも男もどちらも言葉を口にしない。
乳白色の霞の中…。
湯殿にはマヤと男のたった二人だけだ。
「……副作用の方は?」
最初に沈黙を破ったのは男の方だった。
「意識の方ははっきりしはじめたようだけど…。体の方は動けそうかい?」
「……………。…動けてたら今すぐあなたの頸動脈をかっ斬っているところよ……」
かすれる声で、マヤは頭の中にある、ありのままの言葉を男にかえす。
この男を亡き者にする事は、最初の目的も含め、マヤの中で絶対の決定事項である。
「そう?その様子じゃあ思ったよりも元気そうだね。安心したよ」
そうにっこりと返す男はマヤの抹殺宣言に動じる素振りは全然ない。
むしろその会話を楽しむかの様に、陽気な雰囲気だけが伝わってくる。
「いきなりで申し訳ないけど、夜に君をオレの愛人として御披露目する宴会があるから。忙しくなる前に君に話をしに来たんだ」
「……………御披露目!?」
男にケロッと言われた信じられない言葉…。
マヤは思わずビクッと起きあがろうとするが、直後ビッキーンと突き抜ける激痛のせいでそれも叶わない。
唯一できたのは、かすれた声で聞き返す事くらいだ。
「…………こ…公開処刑か、拷問の御披露目ってことよね……?」
ならば納得だ。
愛人うんぬんは、目の前の男の皮肉な例えに違いない。
「人がいたぶられる様を見て宴会なんて趣味が悪いわね………」
ちょっとだけ内心冷や汗をかきつつ、ハッと吐き捨てながら、皮肉を込めた笑みでマヤは男をねめつける。
見せしめを兼ねた公開拷問と処刑…。
まぁ…、そんな奴はマヤの周りにはごまんといたが、森の民の趣向もなかなかねじ曲がっているらしい。
「……。そうだな。君にとってはある意味、公開処刑や拷問に等しいものかもしれないけど…」
ん~~…。と腕を組みながら、男はなおもケロッケロッと爽やかな笑顔で告げてくる。
「君をオレの愛人として皆に正式に紹介する。もちろん心配は無用さ。水の国には今正式に婚約解消を申し入れているから」
「…………正式に…………愛人……?」
もうその言葉以外、マヤの口からはぐうの音も出ない。




