森の都⑤
「言ったでしょう?先生。俺は欲しい物は何としてでも手に入れるって」
そう言って、若長はユキノブに見える様、大事そうにその腕に抱く乙女の顔を上向かせる。
「…………!」
(……やはり…、間違いない。彼女だ……!!!)
ユキノブは信じられない物を見ているかのように、ゆらゆらと数歩前に歩み出る…。
あの頃とは違い、目の前で眠る彼女の髪の色は燃える様な紅蓮の赤ではなく、月の無い真っ暗な闇夜を思わせる艶やかな黒へと変わっていた。
しかし、確かに本人に間違いはない。
そこには十年近く前に自分を救ってくれた、幼い少女の面影が確かにあった。
「……!若…っ。どうかその子をこちらに…!」
ユキノブは若長を少しだけキッと睨むように、彼女を渡すよう彼に向かって手を差し伸べる。
すると若長は何を思ったのか、彼女は渡しませんとでも言う風に、マヤを自分の方へと引き寄せ、ユキノブに向かってビシリと言い放った。
「悪いね先生。これは俺の専売特許。彼女は俺の愛人だから、いくら先生も触っちゃダメ。少しのタッチもダメですよ?」
自分が運ぶので結構です。とでも言う感じにユキノブの前に手の平をかざして、にっこりとストップをかける。
ユキノブ殿に失礼ですよ!?という若の部下の声なんてまる無視だ。
「皆も聞いてくれ。見ていれば大体察しはつくとは思うが…、ミルディとの婚約は取り止めだ。オレにはこうして愛しくてたまらない《運命の愛人》に出会ってしまったからな!」
そう言って、若長は彼女の顔にかかっていた髪を、優しげに後ろへと軽くすく。
「あ、あいじん…?」
ユキノブは若長の口から信じられない単語が飛び出して、思わずその言葉を復唱してしまう。
驚いたのは森の民も皆一緒だ。
全員、思わず目を点にする。
「「「愛人っ!?」」」
その場の驚きの声が、いっせいに響き渡る…。




