森の都③
だが、ユキノブはこういう時の彼の扱い方を良く熟知している。
「ヤール殿。今は皆の安全確保と避難が最優先です。周りをご覧下さい。皆はヤール殿だけが頼りなのですよ?」
「!」
そう言って、ユキノブは会議室で慌てふためく森の民をビシリとヤールに指し示して見せる。
「ヤール殿はお強いんですから、長老院の皆様とご一緒に、じじ様ばば様を守って世界樹の避難所について行ってあげてください。今、貴方ほどの手練れの戦士はこの都にはおられないのですよ?」
「皆がヤール殿が頼りなのです…!!」
頼みますっ!!
そう言って、鬼気迫る面もちと悲壮感で、ユキノブはヤールに訴えかける。
「て、……手練れの戦士…?」
ピッガラドッゴーン!!!
先程までビービー息巻いていた小柄なおじいちゃんの心に、稲妻がほとばしる…。
(ヤール殿が頼り…)
(ヤール殿が頼り…)
(ヤール殿が頼り…)
ヤールの中で、先ほどのユキノブの言葉のフレーズがぐるぐると木霊する…。
何と良い響きなのだろぅ…!!
「む、むぅ…」
「ユ、ユキノブがそう言うのであれば…、仕方がなかろう。皆の者。おじじ様とおばば様をお連れして、ひとまず世界樹へと移動じゃ…」
ここまで言われたら…逆らえまい。
褒め讃えられたのが嬉しかったのか、ヤールは少しテレテレしながらご満悦の様だ。
「やれやれ…。ヤール殿は比較的扱いやすくて助かる…」
一安心、一安心。
ユキノブは胸を撫で下ろす。
「……何か言ったか?ユキノブ」
「いいえ?何でも?」
ついつい胸の内を吐露してしまうユキノブだが、基本にっこりと笑顔で流す…。
悪口だけは厳禁!
ヤール殿は、耳の良ささえ気をつければ、とても気のいいご老人だ。
「先生、先生、先生――っ!」
ひとまずヤールが皆をまとめて移動を始めようとしたその時…。
廊下の方からドダドダと勢いよくユキノブを呼ぶ中年男性の声が響いてきた…。
「非難は必要ない!騒ぎの原因は若じゃっ!!今、百姓のナルヨルが葉手紙を寄越してきた。若が帰ってきたんだとっ!!」
「若が…?」
男の言葉を聞いて、周りはもちろん。
ユキノブも、んん?という風に怪訝そうな顔になる。
「何故です?今頃彼は水の姫との婚約の発表で、てんてこ舞いで帰られるのは半月後のはずでは…??」




