宴の翌朝 消えた族長⑥
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(頭がズキズキする…)
ガラガラガラガラッ…。
晴れて渓谷の崖の小道を、猛スピードで一台の小さな馬車が走り去って行く…。
馬車の窓からは暖かくて心地良い日の光が差し込み、ぽかぽかと座席で眠るマヤを優しく照らし包みこんでいる。
耳を済ませばサァァっという渓谷の滝の音。
肺に入ってくる空気は、清流の様な瑞々しさで彼女の体に染み渡っていく。
本当に心地いい。
だけど。
(でも、……同時にものすごく頭が痛い)
ガダガダと馬車が揺れる度に、ズキン!ズキン!と頭が割れるくらいの激痛が走り、時折物凄い眠気も襲ってくる。
マヤはかすかに意識が戻っても、座席から起き上がる事が全く出来なかった。
『眠りの薬効のアトラスの花にネラスの毒を少しだけ配合してある。オレが薬の効きにくい君の為に特別に配合したんだよ』
(………間違いなく副作用ね)
この痛み…しばらく取れそうに無い。
「若ぁ…。本当に大丈夫なんですか?何かものすご~く苦しそうですよ…?」
そう言って、座席で眠り続けるマヤを心配そうに覗きこむこの青年…。
水の都で男の傍若無人っぷりに涙を残してマヤの前を走り去ったあの青年だ。
都を出てからここに到るまでの強行軍の中。
彼は、時折マヤの毛布をかけ直してくれたり、自分の上着で枕を作ってくれたり…。
事あるごとに優しくマヤを気遣ってくれていた。
反面、同じく車内にいるこの男は……。
「う~ん。………たぶん?」
変わらず遺憾ない傍若無人っぷりを発揮していた。
「多分!?」
マヤも虚ろな意識の中、青年の言葉同様、心の中で激しくツッコむ。
「ちょ、若っ!何ですか多分って!!?」
「薬が効きにくい彼女に特別に配合した香なんだよ。おそらくあと半日か一日の間には効力が抜けてくるとは思うんだが…」
そう言う奴の答えは曖昧だ…。
「本来なら対獣魔用に使っても、巨大クラスの獣魔が1ヶ月は眠り続ける代物なんだよ。だから人間に使った事もないし、彼女以外の人間に使ったら、おそらく仮死状態で目を覚まさなくなるだろうな」
「か、仮死状態って…!?」
「だから必ずしもはっきりしたことは言えないし、大丈夫とも断言は出来ない。一応、解毒剤も用意しているけど、今の所経過を見るのが一番なんだよ」
そう男が話すと、奴の方からパタンと本が閉じらる音がした。
「そんな何十トンもする巨体クラスの対獣魔に使う薬を彼女に使ったんですか!!?」
「……仕方ないだろ?彼女は何十種類もの毒に対する耐性を身につけているんだ。コウが十数秒でお空の上の毒も、彼女は飲み水みたいにゴクゴクさ」
「の、飲み水……ゴクゴク…!?」
青年はそう呟くと、信じられない物を見るかの様にマヤを見やる…。
やめて貰えないだろうか?
さすがのマヤも飲み水みたいに毒は飲めない。
しかも、ゴクゴクって…。
「心配ないさ。きっと薬の効力に逆らおうと無理やりあらがっているんだろう。大丈夫。現に生きてるし」




