愛人⑦
……マヤは冷静になった頭で、改めて乱入してきた青年二人をよく見る。
髪の色は黄色とオレンジとそれぞれ違うが、彼らの瞳は緑色…。
そして彼らの身にまとう制服には見覚えがる。
確か、森の若長付き近衛兵…。
森の豪傑。
クムジ将軍が直々編成した精鋭中の精鋭、わずか数名だけが身にまとうことの許される"ナルサの鷹"の戦装束だ。
『ちょっと知り合いから逃げて来てて…』
男の言葉がよみがえり、彼女の中の嫌な予感が、一つの答えを導き出し始める。
「あぁ、彼女」
まるで動じる素振りの無い男の整った横顔を、マヤは改めて見上げる。
「彼女とはさっきそこでばったり会って……」
……適当に言い訳を考えているのだろうか?
青年の質問に、男は少し考えた素振りを見せると、ふと何かを思いついたのかニヤリといかにも楽しそうにマヤを見やる。
そして今まで見た中で一番のさわやかな笑顔で、男の口からとんでもない言葉が発せられた。
「俺の愛人」
「「「!!?」」」
男の言葉に、その場にいたマヤ達3人にとてつもない衝撃が突き抜ける。
「だ…!」
「誰が愛じ…、むぐっ!?」
いきなり男の身も蓋もない愛人宣言に、マヤは度肝を抜かされる。
なりふりかまわず思わず反論しようとするマヤだったが、途中で余計な事は話すなと言わんばかりに、ベチッと片手で口を塞がれてしまう。
……問答無用だ。
「えっ!?ええっ!!?え―――――――――――っ!!?」
「ヒュ~。やりますね若」
主の口から出たとんでもない宣言に、当然近衛の二人は共に驚いた様子だったが、『そこら辺一周してきます?』の問題発言の青年はむしろ面白がっている様子だ。
「ん、んんんーっ!んん、んーんっ!んんんんーっ!!」
《※ちょ、離しなさいっ!誰が貴方の愛人よっ!今すぐ取り消しなさいっ!!》
全然言葉にならないが、マヤは必死に男に抗議する。
すると男は、彼らに気づかれぬ様、本当にかすかな声でマヤに向かって囁いた。
『………ここは城の中の最奥部だ。しかも城から神殿への唯一の入り口。ただの踊り子が迷い込める場所じゃない。…だろ?』
「…!」
男の言葉は的を射ている。
ぐぅの字も出ないマヤに、男は尚も言葉を続ける…。
『……普通の言い訳じゃ通用しない。この状況なら、俺が連れ込んだなりいろいろ言いくるめられるけど…。なるべく穏便にしたいなら黙ってた方が賢明じゃないのか??』
「………………。」
『今下手に動けば、密かに張り巡らせている水の包囲網の餌食になるよ。………ハーク殿はそんなに甘くない。せめて城門を仲間が無事に出るまでは大人しくするんだ』
………君に選択肢は残されていない。無駄な抵抗はよせ…。
マヤを諭す男の瞳は、静かにそう告げていた…。
揺らぐことのない深緑の瞳に垣間見える、人の上にたつ者が持つ特有の思慮深い聡明な光…。
ただのそこいらの下っ端兵がこんな眼差しを持っているはずがない…。
その時マヤは確信した。
森の若長付き近衛兵である彼らが"若"と呼ぶこの男…。
(こいつがあの子の婚約者……………)




