愛人⑥
扉の向こうから聞こえるのは、二人の青年と得体の知れない獣魔の声…。
「そう思って念の為に連れてきたんですよ!あちらの姫もあの方の性格は良くご存じなので、意外と一緒に連れ込む許可はアッサリ取れました!」
《グルブフ~ッ》
「さぁ若っ!鍵をかけたって無駄ですよ!!ぶちかませフランソワっ!」
《グルジョバブァッ!!》
するとこの世の物とは思えない咆哮が辺りに響き渡り、施錠された重厚な扉がいとも簡単にぶっ飛ばされる。
「…っ!」
粉砕された扉の破片が部屋中にに飛び散り、破片のかけらと共に何か大きな黒い影が荒々しく飛び込んでくる。
破片の煙の中、マヤが見たものは彼女さえ見たこともない不気味な獣……。
犬の様な姿はしているが、そんな可愛らしいものなどではない。
荒い息と、鋭い牙によだれをしたたらせ、ゴツい首輪がよく似合っている。
おそらく獣魔と言うよりもグールの一種だろうが………。
………………ヤバい。
全体的に、目とかがいっちゃっている。
「さぁ、若っ!!観念して一緒に来てもらいますよっ!一体こんな日に何してるん…………………。………っ!?」
ぶちかませっ!と怒号を飛ばして最初に息巻いて入ってきた青年は、マヤと男の姿を見つけるなり、いきなりビシリと音をたてて固まる…。
「コウ?いきなり固まってどうし………」
もう一人の青年が破片の煙を片手で払いながら部屋の中に入ってくると、中の様子を見てあ~と納得する。
「……何か俺ら二人のお邪魔しちゃったみたいですね。何なら見なかった事にしてそこら辺一周してきます?」
そう言って、後から入って来た青年は元来た道を指差してあっけらかんと聞いてくる。
(どんな気遣いよっ!?)
口には出さないが、マヤはカッと目を見開き、胸中激しくつっこむ…。
目の前に鎖で繋がれた上、女が男に床に組倒され身動きが出来ないでいるのだ。
まず止めに入ろうとチラッと思うのではないのか!?
…………………。
先程からといい、目の前の男に会ってからマヤは調子を狂わせられっ放しだ…。
「あぁ。出来るならあと一時間くらい外してくれると助かる。それくらいにはいろいろ堕ちると思うから」
「~~~~~~~…っ!!!」
(………この男は…っ!)
にっこり笑顔で返す男の表情が晴れ晴れ爽やかすぎて、マヤは改めて殺意を覚える。
この男…、外道だ。
間違いない。マヤは確信する。
そしてこんな状況でも男のマヤへの拘束はまるで緩まる事は無い。
(というか…この三人……)
思わぬ邪魔が入り(ある意味救世主)、ようやくマヤの思考が落ち着きを取り戻しつつある中…。
ようやくマヤは彼らの親しげな接し方に気づき始める…。
「わ……、わわわ……」
マヤ達の姿を見るなり、ビギっと石化して固まった青年も、どうやらぎこちないながらも衝撃から立ち直り始めたようだ。
「わわ………若っ。そそ、そのご婦人は…っ?」
(若………?)
青年が口にした男に対する呼びかけに、マヤに言い知れない不安がよぎる…。




