囚われの身 脅迫④
そう言うと、男はマヤの攻撃圏などまるで無視するかの様に、いきなりどんどん距離を縮めて来る。
「!?」
驚いたのはマヤの方だ。
嘘のように遠慮なく近づいてくる男に、マヤは戸惑いを隠せない。
「っ…、………私には結界など、意味が無いと申し上げたら………?」
マヤはもう偽らなかった。
彼女の眼光が、怪しく本来の鋭さを取り戻す。
「……かもしれないね。君がただの踊り子でなければ」
男はマヤの冷たい眼光などものともせず、にっこりと微笑んで、なおも彼女へと進める足を止めることはない。
全てを知るかの様な男の口振りと表情に、マヤは腹の奥底で冷たい怒りを感じる…。
「でもダメだ。取り返しのつかなくなる前に、オレは君を止めなきゃいけない。君自身の為にも…、オレの為にもね」
「……さぁ。オレと一緒に来るんだ」
そう言って男は彼女に優しく手を差し伸べる。
その時だ…。
バチィン……!
二人の間から、広い空間中に響きわたるほど、けたたましい打撃音が鳴り響いた。
マヤが男の手を激しく叩いのけたのだ。
男は赤くなった手をそのままに、少し驚いた表情で目を見開く。
「私を…、止めるですって…?」
男の言葉に、マヤの中で言い知れない怒りがこみ上げてくる。
払った手をそのままに…。
マヤの口からはポツリポツリと長年腹の底に押し殺してきた本音がこぼれ出す。
「18年…」
「18年、私は今日のためにずっと飼い慣らされてきたのよ…」
マヤの中で、ずっと抑圧されてきた怒りがとぐろを巻いて暴れ出す。
尽きる事の無い怒りと渇き…。
腹の奥底からにじみ出るこのどす黒い感情を、マヤは今までたくさんの死によって満たしてきた…。
それでもこの渇きは尽きる事が無いのだ。
それは時を刻むごとにマヤの心を蝕み続ける。
「……私は今、殺したくて、殺したくてたまらないのよ。だから国を守る水霊石の大元ごと、水の精霊神をこの手で殺す…!!」
例え様の無い衝動が、彼女の中で暴れ狂いのたうち回っている。
マヤの脳裏に、舞台の合間に垣間見た無垢な少女の姿がよみがえった…。
穢れの知らない水の皇女…。
(ようやくこの手であの子を殺せる…)
マヤの瞳が激しく揺れる。
「………………死と破滅。…………それが私の存在意義。私の生きる全て……」
(そう。あの頃から変わらない)
《マヤ…》
《お前は…》
《生まれてきてはならなかった》
「私の邪魔は、誰にもさせない………!!」




