囚われの身 脅迫②
普段の祭事の行事は全てこの部屋で執り行われるが、あの階段を降りていくと、本物の水の神殿まで続く直通の洞窟へと出られるはずだった。
(見張りはいない…)
マヤは神経を研ぎ澄まし、細心の注意を払いながら扉の中へと足を踏み入れる。
(感じる…。この先に水霊石の固まりが確かに存在する…)
神殿の中に入ってみて、マヤは改めて確信した。
ずっと足を前に進める度に感じていた、何か水面の波紋の様な力の波動…。
それがこの扉を開けて、段々間隔が短く感じられる様になってきていた。
マヤは部屋へ入ると、吸い込まれる様に地下へと続く階段へと足がどんどん進んでく。
そして目の前の階段に、彼女が一歩踏みだそうと足を浮かせたその瞬間…。
ガチャリ。
(……!?)
誰もいないはずの空間で、入り口の扉の方から嫌な金属音が鳴り響いた。
(誰っ…!?)
背後で大扉の古びた錠の音が鳴り響き、マヤの中にかつてない程の衝撃が走る。
(この私が気配を全く感じ取ることが出来なかった…?)
殺しの技を生業に生きてきたマヤにとって、その事実は彼女をわずかならずに動揺させた。
振り返り様、いつもの殺しの反動で、懐に忍ばせた暗器を投げつけそうになるが…。
(ダメ…!)
瞬時に冷静さを取り戻した彼女の頭は、体に染み込む殺しの反射を理性の力で無理やり押し潰す。
この部屋は既に水の神殿の完全な領域…。
(今下手に血を流したら、奴らに知られて計画が水の泡になってしまうかもしれない…)
マヤは相手に気付かれぬ様、そっと暗器へと伸ばした手を元の位置へと戻す。
そして彼女は、静かに先程の金属音のなった方向を見据えた。
……20くらいだろうか?
暗くて良くは見えないが、見目は良い様に見える…。
若い男だ。
大扉の影でもわかる、色鮮やかな深い緑色の瞳と松葉色の髪の毛…。
額には美しい石のあしらわれた飾り紐を巻いて、森の民特有の色を持ち合わせた謎の若者は、口元を微笑ませ、少し楽しげにマヤを見つめている…。
「……そこで何してるんだい?旅の踊り子さん」
男はにっこり笑ってマヤに問う。
そして彼女へ向かって数歩…、大扉の前からゆっくりと距離を縮めてきた。
男が近づいてくる数秒間、マヤは少しでも情報を得ようと、神殿の青白い暗がりの中、必死に目を凝らして男の容貌を見ようとする。
帯刀している姿…。
格好からすると間違いなく兵士だろう。
しかし、マヤの目のから見て、どう見てもあの男は森の民である事に間違いないのだが…。
違和感は男の着ている服…。
(何故森の一族の男が水の兵士の格好をしているの…?)
どう考えても、マヤにはその理由が思い浮かばない。
まさか今回の婚姻を機に、訓練に格好づけて、互いの兵士を交換でもしているのだろうか?
(……いったいこの男は何者なのだ…)
マヤが男のいでたちに困惑していると、男はようやく月明かりの差し込む所まで歩み出て来て、その足を止めた。
マヤの目に、男の容貌が初めて顕わになる。
その瞬間…。




