旅団一座と沙漠の女神⑤
ガッとクムジの肩を掴み、息を荒げて現れたのは水の兵士を統括する隊長兼将軍。ハークベルト・ガルシア。
腕には少しばかりぐしゃっとなった入隊申込用紙が結構な枚数抱えられている…。
………………遅れを取るまいと、結局自分で取りに行ったらしい…。ハァ、ハァ、ハァ、ハァと息を切らしながらも、ハークはいけないいけないとばかりに慌てて身なりを整える。
「ご…、ご挨拶が遅れました。ハークベルト・ガルシアです。この水の国の兵士を統括する隊長、兼将軍を任されております」
ハークは自分より身分の低いヨダにもきちんと礼をとり、さも当然のように頭を下げる…。
「彼らを私どもに任せて頂ければ、この野蛮人の所よりうちの方が5倍…。いえ10倍待遇を良くしましょう」
ハークの言葉に、広間中にざわ…っ!!と戦慄が走りぬけ、彼が言い放った言葉を誰もが耳を疑って聞き返す。
「じゅ…、10倍だと!?」
あまりにもの破格の条件に、周りが驚きの声を上げた。
ミルディ王女も少し驚いた様子で、きょとんと水色のきれいな目を見開いている。
水の国では選りすぐりの兵に騎士の称号を与え、国の政を司る貴族とも並ぶ階級をごくわずかだが与えている…。
ハークが自らそこまでの待遇と言い切れば、まず間違いなく騎士級の扱いを意味している事は間違い無いだろう。
誰もが手が出る程欲しい狭き門を、どこぞとしれない輩……。しかも、何の加護も持たない浮浪の民に破格の条件で与えようと言うのか……!?
戸惑いの声は自国の兵からも聞こえてくる。
増してや、ハークベルト直々の誘いなど、今まで聞いた事がない。
「いかがでしょうか?責任もって私が監督致しますよ。彼らの生活は私が保証しましょう」
最大限の敬意を示し、ハークは団長のヨダに申し出る。
「………団員達に聞いてやって下さい。彼らが幸せになれるのであれば……、私に否応はございませぬ」
そう言って微笑んで、団長のヨダはクムジとハークに感謝の意を込めて、深々と頭を下げた…。
「おおっ!ヨダ殿は話がわかる御人じゃの~~っ!!」
そう言ってクムジは、上機嫌でヨダの背中をバンバン叩いた。
「ちょ…、クムジ将軍…!!ヨダ団長はご老体よ…!?」
「離しなさい野蛮人っ!!!ヨダ団長を殺す気ですか!!?」
慌ててハークもミルディ王女も止めにかかるが………。
「チッ!水のッ!!出しゃばりおって目障りな……。姫、大丈夫じゃ。力加減はちゃんとしておる」
そう言ってクムジは、ハークにあっち行けとばかりシッシッと手をやり、ミルディ王女には笑ってウインクだ。
……………しかし、残念ながら隣でゲホガホむせるヨダ団長の姿で、クムジの言葉には全く信憑性がない。
「安心するんじゃ団長。ワシなら水の奴が出した条件より100倍良い待遇にしてやるぞぃ!!」
「さ、左様で……」
ようやく息が出来るようになったのか、ヨダは息も絶え絶えクムジに答える。
「…………………何と、ワシとの一対一、熱い情熱のマンツーマンの特訓じゃっ!!!どうじゃ?うらやましいじゃろう!!?」
「……………………」
……………確かに、将軍と直に訓練なんてかなりの特待遇だ。
なるほど……。微笑みながらヨダは無言を通しきった。それを聞いていた周りの貴族や客品達も、思わず視線をサッと逸らしてしまう…。
「…………………可哀想に。地獄じゃないですか」
ズバッとハークが皆の気持ちを代弁する。
…………ミルディ王女も、沈黙を守るしかなかった。
「何じゃと!?つくづく無礼な奴じゃのぅ…!!お主にだけには負けてはなるものかっ!!見ておれぇ~!!!!」
どうやら余計に闘争心に火がついてしまったらしい…。
クムジはでっかい体で再びヨダに詰め寄る。
「ちゃあんと劇を観ながら、めぼしい奴をチェックしておったんじゃ!!団長、紹介してくれ!!最初の方に出た、羽虫にゴキブリにアホウドリに…、アルパカ!!!」
「………………蝶々にコオロギに、コウノトリ…。あとラクダですね」
「ごろつきも盗賊の頭も良かったのぅ……。あ奴らも実に良かった!!」
「盗賊やごろつき役の者は、後ろで片付けをしておりますよ。他の動物役達は、あちらの方に………」
「よっしゃあ!!!お前ら、行くのじゃ!!キープじゃぁっ!!!」
クムジはでっかい声を張り上げ、いつの間にか戻って来ていた部下達に、すごい剣幕で指示を出す。
「「「……!?あっ、はいっっ!!!!!」」」
言われた部下は、慌てて四方八方へと散って行った。
「あとヨダ団長。あのおなごはどこかのぅ……?あの砂漠の兜かぶったおなごと、それに立ち向かっていったおなご…。特に砂漠の方は、絶対キープしたいのじゃが………」
「お待ちなさいっ!!彼女達は私が目をつけていたんです。譲りませんよっ!!?」
一番のお目当てだった者達をクムジに言われ、すかさずハークはクムジに待ったをかける。
しかしクムジの方も、部下達に勧誘の指示を出すのに必死で、まるで聞く素振りは一ミリも持たない。
「おなごとは………、マヤとリンの事で御座いましょうか?」
ヨダが二人の名前を出すと、ミルディ皇女の目がきらきらと輝き出す。
「私もぜひ会ってみたいわ…!!二人の剣舞、とても素晴らしかっもの。きっと二人共、私と同い年くらいよね?」
両の手を合わせ、ウキウキと嬉しそうなミルディ王女に、ヨダは微笑みながら頷いた。
「はい。リンは王女様より1つ下の17歳。………マヤは同い年で、今年で18歳になります」
「本当に?ぜひお友達になりたいわ!」
そう言って、ミルディ王女は無邪気に桜色の頬を染める。
「…………リンはあちらにおりますが、マヤは残念ながら少し休みたいと席を外しております。まだ戻らないでしょう。申し訳御座いません」
そうヨダに言われ、ミルディ王女は少し残念そうだ。
「そうなの…??体調が悪いのかしら……。すぐに戻られますか?」
すると、ヨダは心配いりませんと笑って言葉を続ける。
「あの舞は砂漠の女王用の重い剣を振り回しますから、女の身では相当体力を使うのでございます。裏でへばっているか、もしかすれば汗を流しに水場にいっているかもしれませぬ。しばらくは戻ってこないでしょう……」
ヨダがそう答えると、後ろの方から品のある落ち着いた男性の声が、残念そうにその場に響いた。
「………………それは残念だ。私も会ってみたかったのだが……、もう残った公務に行かねばならん……」




