旅団一座と沙漠の女神③
そして時間は瞬く間に過ぎてゆき……、あっという間に舞台はフィナーレを迎え、幕がおりた。
物語が終わると同時に、広間からは大きな歓声と拍手が沸き起こった。普段演劇や文化などとんと縁のない兵士達まで、涙を浮かべて拍手喝采の嵐である。
「素晴らしい…。素晴らしかったですよね、将軍っ!!思わず俺…、感動しすぎて息が止まっちゃうかと思いました…!!」
舞台のあまりにもの素晴らしさに、感極まった部下は将軍のクムジに話を振る。
話を振られた当の本人は、部下とは同じ様で……、しかしそれとはまた別の所に深く感動していた。
「あぁ…、何というか、達人の集まりという感じじゃったな。身のこなしといい、常人にあれ程の動きが出来るとは驚きじゃ……」
あごひげを触りながら、クムジは言葉を続ける。
「演技や生活の為に鍛えた技術とはいえ……、下手すりゃウチの部下共より使えるかもしれんぞ?」
ここだけの話だが、普段であればクムジは演劇など10分と保たずに爆睡だ。その度に、奥さんに太ももををちぎられて無理やり最後まで観させられるのだが……、今回は違った。
止まらない、この胸のトキメキ……!!
(欲しいのぅー…)
ニヤリ。
面白いおもちゃを見つけたと言わんばかりに、クムジの目は生き生きと楽しげだ。
「…………不本意ですが、私もそう思います。彼らなら精霊の加護の力がなくとも、大きな戦力になるでしょうね……」
ハークもクムジ同様楽しげに…。そして彼らの潜在能力を前に、信じられない物を見たという感じでやや放心気味だ…。
彼ら旅団が"ルタ"の集まりだという事は、髪や瞳の色を見れば一目瞭然だった。
……全員が黒目、黒髪。
五大精霊神の加護の力を得られなかった徒人は"ルタ"と呼ばれているのだが、精霊の御業をわずかも与えられなかったその人々を、加護の力を持つ部族の人間は、自分達より劣った存在と蔑む傾向があるにはあるのだが……。
だがそれはどうだろう。
ハークの目には、彼らがまるで研ぎ澄まされた美しい刀剣の様に映った。それも十人十色、様々な形の刃の形をもって…。
「嫌ですね…。珍しく考えてることが一緒なんて……」
この戦バカはともかく、芸術を戦に持ち込もうなど野蛮な考えだ…。少なくともハーク自身はそう考えている。頭が痛いとばかりにハークは手で顔を覆うが、ふと嫌な予感がよぎり隣の大男へと視線を向ける。
「……まさか、本気で彼らを自分の部下に引き入れようとか考えていませんよね?」
「はんっ。だったらそこで黙って座っておれ水の!わしは今から奴らを勧誘してくるわっ」
するとクムジはガダッっと勢いよく立ち上がり、善は急げとばかりに豪快に走り出した。
「あ奴らなら、ワシの横にいる目障りな男をやっつけてくれるかもしれんしの~。ほらっ、お前ら行くぞっ!」
「待って下さいよ~っ。サイン…、何かサインして貰えるやつ無いかな…!!」
「俺、メモ用紙なら持ってるぞ……」
「俺はいっそ服の後ろにでも書いてもおうかな…!どう思う?」
そう口々言い残して、ガハハハハ~っと、森の一団は現在進行形で足早に駆け出していく。
「お…、お待ちなさいっ!!何、舞台が終わった直後に失礼な話を持ち掛けようとしているんですかっ…!!」
ハークは止めようと必死に声を張り上げたが、クムジ達森の一行は一切聞く耳を持たない。
「~~~っ!!……だから野蛮な男共は嫌いなんですっ!!」
すると、我慢ならないとばかりにハークもガッっと勢いよく席を立ち……、
「そこの君っ!」
「はい!隊長っ!!何でありますかっ!?」
「今すぐ新入部隊の申込用紙をここに持ってきなさい……!!」
……………………どうやら野蛮人相手では、さすがの紳士もなりふり構っていられない様だ。




