第5話
…ピピピピピピ
目覚ましの音で目を覚ます。
「ストップ、起きた。」
起き上がり、身支度を整える。
コンコンコンコンッ
「どうぞー。」
「おはようございます。食事は、如何されますか?」
「おはよう。紅茶とサラダ。」
「かしこまりたした。」
ケアリーとのいつものやり取り。蓮は、きっと研究室だろう。
デバイスの調整は、そんなに時間の掛かる作業じゃないから待機しているのかもしれない。
「ルナー」
いきなり、ドアが開く。
「おはよう。蓮…せめて、ノックはしてほしいかな。」
「おはよう。分かった気を付ける。でも、音で中の状況は分かるから着替えを見たりする心配はないよ?」
「私の心の準備とでも思って。」
聴覚が良いのも考えものだ。着替えの音も聞こえるのか…。
「今から食事でしょ?その前に、ちょっと報告いい?」
「いいよ。デバイスのこと?」
「そう。調整は全て完了。備品庫にある分もね。」
備品庫にあるのは、故障して放置していたデバイス。修理しなくてもデバイスがあったので、そのまま備品庫にしまっていた。
「修理までしてくれたんだ!ありがとう!」
「これから、デバイスを使うアンドロイドが増えるからね。」
確かに。研究室の予備だけではたりなくなるかもしれない。
司は、アンドロイドを創り出すのに使うがユーリはケアリーの補佐と考えていたから使う機会があるのか未知数だ。
「ユーリにも研究とか、依頼のアンドロイドを創る事があるかもしれないし。」
用意周到。そこまで、頭が回らなかった。確かに、ケアリーの補佐がメインだけどユーリも研究の手伝いはして貰う予定だった。
コンコンコンコンッ
「お待たせいたしました。」
「ありがとう。ケアリー。」
ケアリーは、いつもと変わらない笑顔を向けてくれる。でも、少しずつ家族が増えて我が家は変わっていく。
ケアリーの用意してくれた紅茶を飲みながら、サラダを食べる。
「ルナは、もう少し野菜以外も食べるべきだ。」
蓮の横で、ケアリーが頷いている。
「私の好きにさせて。」
「栄養不足になる!」
「栄養バランスは、ケアリーが考えてサラダで補ってくれてる。」
論破した!私は、心の中で躍り狂っていた。蓮はケアリーの事を呆れた目で見ている。
「ケアリーさんが、最初に言ってくれていれば…。」
「マスターは、最初から野菜中心でしたので申し上げたことはあります。そしたら、サラダで補うようにと…。」
2人の口論は続いている。私を心配してのことだと分かっているけど、変える気はない。
「は?ドレッシングと紅茶に?!」
「はい。そのため、栄養不足にはならないと判断いたしました。」
食べ終わったー。お腹いっぱい。それにしても賑やかでいいなぁ。あと2人増えたら、もっと賑やかになるのか、たのしみだなぁ…。
「ですので、マスターは紅茶にミルクを淹れるようにされたのです。」
「呆れた…。はぁ…。」
蓮がため息をついて、頭を左右にふっている。終わったかな?
「蓮、納得した?」
「やけに紅茶から、違う匂いがするとは思ったけど…。」
「だって、ミルク淹れないと味が…。」
「いや、いいよ。ユーリが来たら相談する。」
納得はしてないみたい。
私は、ほとんど紅茶とサラダしか食べない。たまに、野菜中心で別のものを食べるけど…あくまでも野菜中心だ。
なので、ケアリーが考え出したのがドレッシングに栄養素をいれること。それでも、サラダを食べないときは紅茶に栄養素をいれる。でも、それを飲んだ私が紅茶の味が気持ち悪くてミルクを淹れるようにした。そうすれば、少しだが緩和される。
この生活で、病気になったことはない。
ミルクを多く淹れて貰うときは、自分でも栄養が足りないだろうと感じている時。きっと栄養素を大量にいれられるから予防策としてミルクを多くして貰う。
「ですが、蓮さんマスターは食事や紅茶を残されることはありません。無理矢理マスターの食生活を変えるのは、意向に背くことになります。」
「ルナは、別に俺のマスターじゃない。ユーリや司も。だから、対策を打ってルナが納得すればケアリーさんも従うでしょ?」
んー。3対1は卑怯な気がする。
優秀な3人が、知恵をだしたら負けるのでは?
いや、蓮が思い付かないものを他の2人が思い付くと言うのは考えにくいな。基本データは同じなんだし。
「じゃ、私は培養室に行ってくる。デバイス、ついてきて。」
「かしこまりました。」
「俺も行く。」
ケアリーは片付けを始め、私は蓮と培養室に向かった。
培養室に着くと、蓮が電気をつけてくれる。私は、そのまま女の子の培養機に向かった。
「おはよう。…デバイス、状況確認。」
ウィンドウが表示されると蓮も内容を確認する。
「とりあえず、順調かな。」
私がプログラムと骨組みの情報を見ていると蓮が脳の部分を指で示した。
「脳まで進捗は進んでいるみたいだし、大丈夫だと思うよ。」
蓮は培養機を覗き込む。
「早く、どんな子か会いたいなぁ。」
こういうところは、私と同じなんだな。
「じゃあ、次はSPの様子だね。」
私が移動すると、蓮が後をついてくる。
別にバラバラに様子を見ても良いのだが、蓮は助手である立ち位置を大事にしているのかもしれない。
自分はサポートが仕事であるという立ち位置を。
「おはよう。…デバイス、状況確認。」
ウイルスを解除していないから、プログラムは動いていない。自己回復も働かないので、修復は培養機に頑張ってもらうしかない。
擦り傷程度の軽いものは、治っている。神経が外れた部分も、ほぼ繋がってきている。だが、銃弾の取り出しが出来ていない。これでは、傷は塞がらない。
一旦、摘出をしないといけないだろう。
「銃創以外は、塞がってきてる。」
蓮はSPアンドロイドを見ながら、傷の様子を診ていた。
「そうだね、銃弾を摘出しないと…。」
私は、摘出を早める必要性を考えていた。まだ、ウイルスについて分かっていないことが多い。摘出は、私1人でも出来るから大丈夫かな。
「1人でやるつもり?」
「うん。まだ、ウイルスがどんなものかハッキリしてないから。」
「培養機から、出さないで?」
「私じゃ出せないからね。」
蓮は納得してないなぁ。
「ウイルスが、ハッキリしてからじゃ遅くなるかもしれないでしょ?」
「じゃあ、プログラム俺にやらせて。」
「ダメ。ウイルスの影響、感染経路がハッキリしてない。プログラムを見るだけでも危険かもしれない。」
蓮の表情が暗くなる。
「そうだ、ずっと私の部屋にいた、このデバイスは調整してないでしょ?このデバイスの調整をしてて。」
「調整してある。」
ん?どうやって?
「まさか、寝てるときに部屋にはいってないよね?」
「入った。」
「蓮…女性の部屋に、しかも寝てるときに入ってはダメ!」
「さっきから、ダメばっかりだな。」
蓮が顔を背ける。拗ねている?
「蓮…?」
名前を呼んでも反応してくれない。
「蓮、別に貴方を頼りにしてない訳じゃないよ?守りたいだけ。」
「ウイルスに感染したら、ルナが治して。それなら、手伝ってもいいでしょ。」
治せない可能性があることは、蓮も分かっているはず。 こんな時に、どうすれば良いのか分からない。創造主特権で無理矢理眠らせる…?
そんなことは、したくはない。
「この話しは後にして、ユーリと司のところにいきましょ?」
「分かった。」
私にコミュニケーション能力があれば、納得してもらえる説明が出来たのだろうか。
不満気な蓮を連れてユーリのところまで来た。
「ユーリ、おはよう。デバイス、状況確認。」
骨組みは順調…プログラムもゆっくり馴染んでるみたいだね。
まだ、筋肉と神経が全てで来ている訳じゃないから顔の識別は困難だ。でも、身長は175という設定で司より大きい。
「ユーリ、ケアリーのことよろしくね。」
培養機を優しく撫でる。
「じゃ、司のところに行こうか。」
さっきとは違って言葉を発する事がなくなっている蓮。怒っているのか、不機嫌なのか、考え込んでいるのか、 拗ねているのか。早めに諦めて、いつも通りにして欲しいところだ…。
「司、おはよう。デバイス、状況確認」
司も順調だね。司が来てくれたら賑やかになりそうで、楽しみだよ。
司の方が素体とたいかくが近かった分、ユーリより少しだけ進捗が良かった。
「さて、状況確認は終了っと」
「ルナ…考えてたんだけど、やっぱり俺も手伝う。」
「ダメ。危ない目には遇わせない。これは、私の譲れないところだよ!」
私は、まっすぐに蓮の目を見つめる。
蓮は悲しそうに顔を俯かせる。
「じゃあ、戻ろうか。今日中にウイルスが片付けば、蓮にも手伝ってもらえるしね。蓮、解除したウイルスの解析をお願いね!」
俯いていた蓮が顔をあげる。
「任せて!」
研究室に戻ると、すぐにウイルスの解除を始めた。蓮には、絶対にウイルスには触らないと約束してもらい研究室で解除の終わったウイルスのプログラム整理をして貰っている。
この、ウイルスは攻撃するためのものじゃない。博士かそれに近い人へのメッセージだとしたら…
上に報告すべきなのかな…?
考え事をしながらでも手が止まることはなくスピードが増していく。
ワクチンは…作れそう。
「蓮、解除した情報からワクチンを作って。」
「分かった。」
ウイルス解除のプログラム整理はデバイスだけで行う。蓮が調整してくれたんだから大丈夫。信用しよう!
それからは、無言での作業が続いた。
たまに、ケアリーが扉をノックして紅茶や勧めてくるから中にいれるわけにはいかないので、断る。
本音を言うと紅茶を飲みたいし、感染の危険はないと思っている。
でも、万が一がある以上は危険に晒したくない。蓮にも研究室から出て欲しい。
蓮に視線を、向けると真剣な顔つきで、デバイスを操作している。
私が、1人で仕事をするのを嫌がるのは助手としてのプライドだろうか。
そういえば、私が死んだ場合、蓮たちはどうなるのだろう…。
通常のアンドロイドは、家族が引き継いでマスター登録をする。
博士のところにいたアンドロイドは、国のこと、アンドロイドのこと、研究成果等も知っている。いわば、トップシークレットと言われる内容を知る存在だ。
国の研究室に行くのか、初期化されるのか…破棄されるのか…。
この仕事が片付いたら主任に聞いてみよう。アンドロイドは、寿命がない。
ずっと一緒にはいられない。
蓮たちは、どうしたいんだろう…。
解析を進めて、気が付くと夜になっていた。
「デバイス、残りウイルスは?」
ピーッ
「ありません。」
はぁ…。やっと、終わった。
これで、蓮も一緒に摘出できるから満足してもらえるだろう。
「蓮、そっちは?」
「もう、終わる。」
終わっている部分のデータを見て、頭の中の警鐘が響いた。
古代文字が、読み取れる…。
「にげろだまされてる…。」
反国組織の人たちからのメッセージだろうか。
この国を、よく思わない人たちはいる。
そんな人たちが集まり自由という名の理想を掲げているのが反国組織。
私の生活を邪魔されたくない。
要らぬ疑いなんて持たれて立ち入られたくない。
「ワクチンできた。」
「お疲れ様。ワクチンと古代文字を一緒に送っておくね。」
「ルナ、大丈夫?」
「平気、私は今の生活に満足してるから関係ない。」
自分に言い聞かせている気分だった。
「蓮、ワクチンをSPアンドロイドに接種お願いしていい?」
「わかった。」
私は、キューブを取り出す。
「キューブ、デバイスと接続」
キューブからコードが延びてデバイスに繋がる。
「ワクチンデータと、解析情報を読み取り」
ピーッ
「完了しました。」
「思考、読み取り、開始」
確認した内容を考えるだけで自動的にメール画面に文字が入力されていく。
「送信」
「ルナ、接種終わった。」
「こっちも、ワクチンの報告完了したよ。」
「ルナ、少し休もう。ケアリーさん!」
蓮が少し慌てて私を抱き締めている。そんなに私の状態が悪く見えるの?
コンコンコンコンッ
「ケアリー、もう入っていいよ。」
自分の声を聞いて、弱々しさに驚いた。
「どうされましたか?!」
ケアリーが扉を明け、私に駆け寄る。
「脈拍が早く、顔色が悪いようです。」
あのメッセージを見たせいだろうか。
レベルで自分の望む未来にはいけず、道筋を決めている国のあり方。
私は、進学したかった位しか不満はなかったはず…。
「ルナ、ベッドで横になろう。」
蓮に抱き上げられ、そのまま部屋へと向かっている。
「だ、大丈夫だよ。」
私は2人を安心させようとして微笑む。
「マスター、横になるだけです。そうすれば、落ち着きます。」
「ルナ、今はなにも考えちゃダメだ。」
直ぐに、部屋に着いてケアリーが扉を明け蓮が私をベッドに寝かせる。
「2人とも大袈裟だよ。」
「そうかもしれないけど、今は少しで良い横になって。」
蓮は私に布団を掛ける。
「ケアリーさん、後をお願いします。ルナ、俺はSPアンドロイドの様子を見てくる。」
「それなら、私も行く!」
起き上がろうとすると、ケアリーが優しく止め、横に寝かされた。
「大丈夫。プログラムには触らない。だから、目で診て状況確認をしてくるだけ。」
「絶対にプログラムには、触らないでね。あと、SPアンドロイドにも接触しないで。」
「分かってる。」
私は、蓮を見送りケアリーと2人になる。
「ケアリー、もし、私が死んだらケアリーはどうなるの?」
「初期化され、新しい博士がいらっしゃるまで国に管理されます。」
私のことを忘れてしまう。ケアリーは今までも、ずっとそうだったのだろうか。
「今の私が初期化されているのか、新たに創られたのか…。」
「そう。」
なら、前に博士に仕えていたとしても記憶がないということ。学校で教わっている程度しか博士に関する情報がない。
「博士が創った、助手アンドロイドは博士が死んだらどうなるか分かる?」
「助手アンドロイドは、初期化され国の研究室に従事するか、能力がなければ破棄されます。」
蓮たちなら間違いなく研究室に行くことになるだろう。
「みんな、私を忘れちゃうんだ。」
ケアリーが嘘を言っている様子はない。
にげろだまされている。
一体、なんのことだろうか…。
私は、賑やかな今が好きだ。これから、まだまだ賑やかになっていくんだ。
私を巻き込まないで!
私は、家族を死ぬまで守りきる!!
コンコンコンコンッ
「ルナ。調子は?」
「もう、大丈夫だよ。」
「脈拍はまだ、少し早いですが許容範囲でしょう。」
ケアリーの許しも得た。
「もう、夜だし続きは明日にしない?」
「んー。銃弾の摘出まではやってしまいたい。そうすれば、直ぐに治るだろうし。」
「しょうがないな…。」
ピピッ
キューブからの着信だ。
ワクチン受領。SPアンドロイドの治療が完了次第連絡要。
古代文字の件は、忘れること。
妙な気を起こしたら、捕縛。
あそっ。
労いの言葉もないとは、主任じゃない研究員からだろう。ムカムカする。
「蓮、デバイス行くよ。」
私が、手術キットを持ち上げようとすると蓮が横から取り上げる。
「これは、助手の役目。」
「ありがとう。」
そのまま、培養室なSPアンドロイドのもとへまっすぐ向かった。
培養機を操作し、培養液を抜く。
その間に、簡易なオペ室を組み立てる。
これが、結構時間が掛かるのだが蓮のお陰で重いものは全てやってくれるのでスムーズに組み立てはできた。
簡易ベッドに、除菌カーテン、私と蓮もオペ服を着る。
準備している間に、培養液も抜けた。
蓮がSPアンドロイドを、ベッドの上に横たえる。
「じゃ、はじめますか!」
培養液の効果で、銃弾の傷に薄い幕が張っているのを切り裂く。
蓮からメスを受け取り、傷口を開く。
蓮がピンセットを渡してきたので、ピンセットで銃弾を取り除こうとしても食い込んでいて、取れない。
「無理か…。仕方がない。」
蓮からメスを受け取り、銃弾の回りに少しだけ小さく切り裂く。
ピンセットで、銃弾を取り除く。
取り除いた場所を、再生可能か確認する。
穴が空いている状態。自然回復だと時間が掛かるだろう。
「縫合します。」
蓮から糸が通された針を渡される。
穴を塞ぐように縫合する。
後は、自然回復で事は足りるだろう。
「はぁ…。終わり。」
「お疲れ様。」
蓮はSPアンドロイドを、培養機に運び、培養液の設定を回復優先に設定しふたを閉めロックをかけた。
粘度の高い培養液が注がれていく。
私は、簡易なオペ室の片付けだ。
「俺がやる。」
戻ってきた蓮が、素早く片付ける。
私も負けじと片付けをする。
「疲れてるんだし、ルナはゆっくりしてな。あ、女の子とユーリたちの状況確認してれば良いよ!」
確かに、3人の様子は気になる。
でも、蓮に片付けを押し付けるのは気が引ける。
「時間の短縮。ほーら!」
蓮に背中を押され、身体が女の子アンドロイドに向く。
「わ、わかったから!」
私は、培養機に向かい中を覗き込む。
筋肉と、神経が出来上がり皮膚が少しあった。基礎が出来ると身体が小さい分、進行は早い。
「こんばんは。デバイス、状況確認。」
骨組みは問題なし。プログラムも順次送られ馴染んでいる。
若干、身体の進行に対しプログラムの送り込みが遅いので微調整を行う。
次はユーリの培養機に向かう。
「ユーリ、こんばんは。デバイス、状況確認。」
ユーリは、まだ筋肉と神経を創っている最中だ。脳も少しずつ創られている。
プログラムは三ヶ条を入れられている最中のようだ。
最後に、司。
「司、こんばんは。デバイス、状況確認。」
司も筋肉と神経を創っている最中だが、ユーリよりも進捗が良い。脳も順調に創られている。
プログラムは感情プログラムまできていた。
「司は、はやいね。」
「そうだね。素体と身長が近かったからかな。」
後ろから蓮が手術キットを持って歩いてきていた。結局、蓮にやってもらってしまった…。
「片付け、ありがとう。」
「どういたしまして。」
極上の笑顔!!!
はぁ~…疲れた心が癒される!!
「じゃ、戻ろうか。」
「はーい。」
私たちは、研究室へと戻った。
「なんで、ルナまで研究室なの?」
ちょっと、不貞腐れている蓮も可愛い!
「研究するから。」
「夜も遅いし、寝ないとダメだよ!」
「いつも、まだまだ起きてる時間だよ!知ってるでしょ!」
「ルナは体調を崩してたんだから寝なきゃダメ!」
心配していってくれているのは分かっている。でも、ここ数日、研究がまったく進んでいない。
いくら蓮が可愛くても負けるわけにはいかなかった。
「ケアリーだったら、すぐに許してくれるもん!」
「俺は仕えてる訳じゃない!助手としての心配!」
蓮には、申し訳ないが、こんな言い争いも、楽しく感じてしまう。
「さっきから、ニヤニヤして…。」
「いや、ケアリーとは出来ないやりとりだなぁって…。」
「そ、俺はケアリーと違って甘くない。だから、寝て!」
「いーやーだ!」
「子供みたいなこと言わない!」
こんなやり取りが楽しくて仕方ない。
これからは、もっと増える。
「SPのプログラムもみてみたい!」
「それなら、基礎以外は削除されてるから!」
基礎以外が削除?!私の動きが止まった。国の重要情報を持っているアンドロイドをそのまま博士に渡す訳にはいかないから?
博士も国の重要人物なのに?
「見たの?」
「最初に確認した。戦闘プログラムに興味があったから。ルナは損傷とかウイルスしか見てなかったんだね。」
この国は秘密が多い。
ダメだ。余計なことを考えるな!
「寝る。蓮はどうするの?」
「俺は研究室で待機してるよ。」
アンドロイドは睡眠を必要としない。
待機で、稼働するために必要な動力を得ている。
「部屋を用意したら、そこで休む?」
この家は、広い。表面上は博士が住んでいるとは分からないように一般的な作りになっているが、地下が広い。
「いらない。俺の仕事場兼私室にする。」
ケアリーはキッチンで待機している。
ユーリや司は?
研究室は、広いから蓮と共用も可能だとは思うけど…。
ユーリは?キッチンはそこまで広くない。一応、3人分の部屋をケアリーに用意して貰おう。
「そう。蓮、お休みなさい。」
「お休み。ルナ。」
私は、部屋に向かいながら、この国のことを考えていた。
考えちゃダメだ。
私は、楽しく暮らしたいだけ。
部屋に付くとケアリーがいた。
ベッドを整えていたようだ。こちらに気づき頭を下げる。
「お疲れ様です。直ぐにお休みになられますか?」
「ジェットスチームに入ったら寝るよ。」
「かしこまりました。」
「ケアリー、助手アンドロイドの部屋を念のため3つ用意してくれない?」
「はい。承りました。」
それから、私は、汗を落とし着替えてからベッドに潜り込む。
「はぁ…。」
余計なことは考えない。
明日には、SPアンドロイドは治っているだろう。
削除された記憶。謎のメッセージ…。
考えるな。
私は、なかなか寝付けないで寝返りを何度もする。
「だまされている…。」
誰に?国に?考えるな。
私は、楽しく生活できればいいんだ。