ギムレット
「・・・・・・。」
黙々とタオルで髪を拭く俺、
すいませんすいませんと何度も頭を下げるクロさん。
「いや、あの、もう大丈夫なんで・・・
どっちかっていうと、びしょ濡れで入ってきた
俺の方が悪いんですし。あ、注文いいですか?」
杉田は、場に空気を変えるため注文を
頼もうとした。
「っと、あれ?メニュー表とかないんですか?」
「え?メニュー表?」
「いえ、あの・・・。
この店は何を提供できますとか・・・これは
おいくらです、とか書いてあるやつは。」
「大丈夫です!こう見えても私、ご自慢では
ありますが、ありとあらゆるカクテルを作れますので
なんでもおっしゃってくれれば!
代金は200オー、じゃなくて700円でどうでしょう?」
クロは腕を腰に当て、得意げなドヤ顔をする。
ああ良かった。さっきまでの空気はどこかへいってくれたようだ。
「へぇー。すごいですねぇ、値段もお手軽だし。
じゃあ・・・ギムレット、いいですか?」
「はい。お任せください。」
クロは、今までのドジな人物とは思えない
慣れた手つきで、お酒を作り始める。
(へぇ・・・すごいな。やっぱバーテンダーなんだな。
ふっ・・・というかギムレットって、ありきたりすぎだなあ・・・ははっ、俺も俺だな。)
杉田は無意識にため息をついた。
「失恋ですか?」
思わずビクッとした。