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今もあなたの世界を探している。  作者: ほたるwork
第一章
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ー07 取引きじゃない




『何してんだよ...アンタら』





四人に聞こえるよう、少し声を張ってみる。予想外の男が入り、雪峰(ゆきみね)を押さえていた三人は驚いた様にこちらを振り返っている。

彼女らとオレはけっこう距離があるが雪峰が身体を強張らせ震えているのが、この位置からでも分かる。


(コイツら...やり過ぎだろう...)


引き裂かれたシャツ。ボロボロのスカートから覗く太腿には赤い筋が流れているのが見える。

雪峰の前にいる金髪の女はカッターナイフを握りしめている。血を流している原因はアレだろう。


黒い感情が込み上げてくる。ここで暴力に訴えれば雪峰を囲っている三人を帰らせる事は簡単だろう。

でも、それをしてしまえば、何も変えることができないのを知っている。昨日と今日を、ひたすらに繰り返す事になるのだろう。


だからこそ、オレは努めて冷静に彼女等を観察する。




そして用意していたモノを彼女らに向ける。




カシャっ




聞き覚えのある機械音が教室に響く。


(とりあえず、証拠は必要だ。)


特に表情を変えず、慣れたような動作でスマフォに視線を落とす。

とりあえずオレが今までの環境で学んだ事の中で最初にやる事はコレだ。


証拠写真を撮る。


単純だが、一番相手の心をエグる事ができる方法だと思っている。動かぬ証拠。



『チッ!コイツ!』


『テメェ!何撮ってやがんだ!アァ!?』


手に持っていたカッターナイフを床に叩きつけ、オレの方へ向かい重心を前に倒しながら歩いてくる。

金髪の女はオレを今すぐ殺してやると、言わんばかりの鋭い目をしている。


『ちょいソレ貸せや!!』


オレの前まで来ると、拳を振り上げ頬を目指しフックのようなものを打ってくる。


『!?』


女の手はオレに触れることもなく、宙を切る。少し背中を押してやるだけで、そのままバランスを崩し黒板前の教卓へ突っ込んでしまう。


流石に、そんな大振りは当たらない。

誰でも避けれそうなもんだ。



『あ、が...』



教卓の角に突っ込んだのか、頭から血を流した女がこちらを睨んでいる。


...無視で良いだろう。喧嘩慣れはしているのだろうが、暴力を振るいあった事が無いのが見て取れる動きだった。

きっと、一方的に相手に牙を向ける事しかして来なかったのだろう。


金髪の女に対しそんな事を考えていると、茶髪の女が声をあげる。


『か、神奈(かんな)...何で今日もいるのさ!?』


『ちょいと、忘れ物したから取りに来ただけだよ。

で、何?アンタらは今日も飽きずに鬼ごっこか?』


『っ!!』


昨日話した茶髪女がこちらを警戒するように注視する。

こいつは中学時代からの同級生だ。同じクラスになった事は無いが、顔を合わせた事はある。



『たしか...七瀬(ななせ) 百合子(ゆりこ)だったか?まだこんな事やってたんだな...。』


呆れたように言うと、七瀬は更に目付きをキツくする。

昔、似たような状況があった。

その時もこの女は今みたいにオレを睨んでいたな...。



『なにさ...ユリ。昨日も思ったけどアンタこいつ知ってんの?』


『ち、中学の同級だよ!』


『へぇ...同級ね...。』


背の高い女が立ち上がり、オレを観察するように見ている。

そして何かを考えついたのか、好戦的に口を開く。


『ねぇアンタ、取り引きしないかい?』


『...取り引き?』


『今撮った写真を消して帰りな。そしたら今日のところは、アタシらも帰るよ。』


『はぁ...。』



リボンが赤。この女は2年だな...。

3人組の中で一番冷静そうではある。


『いや、取り引きにならないだろ?オレにメリットがないじゃねーの。』


『分かってないねー。今帰れば見逃すって言ってんのよ。明日から登校、できなくなるよ?』


『あぁ、そう言う事。...痛い目に合いたくないなら、何も見なかった事にして帰れ、と。』


『まぁ、解釈は任せるよ。で、答えは?』



怯えている相手に持ちかける取り引き。いや、取り引きですらないな...。

今のオレを見て持ちかける内容ではないだろう。

たぶん、この2年、頭の回転は良くなさそう。


もちろんそんな提案には乗れない。それじゃ何も解決しない。


『イヤだね。』


『テメェ!調子に乗ってんじゃねーぞ!?』


頭から血を流した金髪女が掴みかかってくるが、腕を流し、背中を押す。ついでに足を掛けて先程と同様に床に転がしておく。


『あ、ぐぅ。』


顔面から突っ込んで女とは思えない声を出している。やり過ぎ...ではないはず。



『痛い目見るって言ったよな?今は無理だと思うぞ?そこの七瀬がそれは分かってるはずだと思うけどね。』


七瀬の方に指を指し、判断を振ってみる。

一瞬、驚いた様な顔をしたが、またコチラを睨んでくる。


『ユリ、なんなんさ!コイツ!ヒーロー気取りマジでウザいんだけど!?』


『う...。コイツ、めちゃケンカ強いんだよ。中学の時、一人で5人くらいと喧嘩してた。』


『... ... マジかよ。』



目を見開き、2年はようやくコチラに警戒心を見せる。


『ヒーロー気取りね。お前ら自分達が悪りぃ方なの分かってんのな。』


『...っ!!チョーシに乗んなよ...!!このガキっ!』


(1年しか変わらんだろうに。)




まぁ、取り引き?なんか後だ。とりあえず雪峰を見てやらないと。



オレはこちらを睨む3人を無視して、雪峰の元へ歩いていく。

雪峰を掴んでいた二人はこちらを見ながら教室の端へ下がっていく。




雪峰を中心に床に広がる物も気にせず、雪峰の頭を支えて身体を起こす。


『かん...な...くん...。』


...近くで見ると、かなり酷い状態だった。

目元は涙で腫れて、口と脚から血を流し、衣服はボロボロ。


... ... ホント、こいつが何をしたんだろうな...。




... ... 胸の辺りが熱い。

雪峰を間近で見た途端に、抑えていた黒いものが這い出てくる。



『なぁ、、、アンタら。』


『な、何さ?』



2年の女が答える。今はもう、こちらに危害を加えようとは思っていないのか、その場で静止している。



『あの写真、晒されたくなかったら、今後コイツにちょっかい出すな。』


『何だよ...取り引きって?そんなの...』


『取り引きじゃねーよ。

...これは"脅し"みたいなモンだ。

もしも今後、こんな胸糞悪い事をしてみろ...。

その時は相応の事をお前らにも受けてもらう。』



相手の発言をを遮り、強めに言葉を撃つ。

2年の女は言葉を詰まらせ、黙り込んでしまう。


『アンタら、ちょっとやり過ぎたんだよ。

...この事が知れ渡ればこの学校に居られなくなる。...いや、今後の人生にも影響するかもな。』


別にコイツらを追い払って教師に持ちかける事も出来る。しかし、雪峰を虐めの対象として見ているのが、コイツら三人だけとは限らない。それをすれば、また別のヤツがコイツに意味のない暴力を振るうだろう。

更に雪峰を追い込みかねない。


だからこそコイツらには、ここで雪峰に手を出せない様な枷を付けるべきだ。



『これ以上お前らに話す事は何もない。ケンカするなら買う。帰るなら、さっさと帰れ。』



これ以上は話しても、無駄に話しがループするだけだろう。

オレはハンカチを取り出し、雪峰の顔を拭いていく。


すると床を転げ、顔を抑えていた女が怒鳴り声をあげる。


『ミカァ!何でそいつの口車に乗ってんだよ!ケータイ奪えば終わりじゃねーか!』


ミカと呼ばれた女の横で、七瀬が首を横に振る。手を出すなと言う事だろう。


『...アンタ、本気でアタシらに脅しとかしてるワケ?』



『... ... 。』


『オイ!!何黙ってんだ!チョーシに乗んのも大概にしな!』


『... ... 。』




その後三人組は色々叫んでいたが、オレは全て無視を貫いた。

何も答えないオレに痺れを切らし、やがて三人は教室を出て行こうとする。



『なぁ。』


『!?』


七瀬が驚き、こちらを振り返る。


『雪峰にちょっかい出してんの、お前らだけじゃないだろ?さっきの"脅し"は、他のヤツが動いても同じだ。連帯責任。お前らに責任を取ってもらうからな。』


床に落ちていたカッターナイフの刃をしまい、七瀬へと投げる。


『忘れ物。証拠は残さない方が良いぞ。ちゃんと持って帰れ。』



『っ!』


七瀬は何か言おうとしたが、特に何も言わず教室を出て行った。










二人だけになった教室には静寂の中、雪峰の漏らす嗚咽だけが響いていた。




無双系が好きな訳ではないですが、ケンカ強い主人公は好きです。

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