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今もあなたの世界を探している。  作者: ほたるwork
第一章
6/16

ー05 彼に会いたかった

雪峰 夕陽(ゆきみね ゆうひ)side






『はぁ...はぁっ...』


冬の寒さが深まり日が沈む頃、校舎の中を慌ただしく駆ける音が反響する。

すでに生徒のほとんどが下校し人の姿は無く、いつもより広く感じる廊下を闇雲に走る。


水の浸みた制服が身体に纏わり付いて動き辛く、重い。



『...っ!!』


足がもつれそうになる。走りながらも膝が震えているのがわかり、走るのに集中できない。


(大丈夫。大丈夫。大丈夫。)


自分に言い聞かせるように心の中で呟く。

今止まってしまえば、また痛く、つらい思いをするだろう。


でも、走り続けようとしても足が思うように動いてくれない。


(大丈夫。大丈夫...大丈夫...。)






ーーーーーーーー





今日は、昼休みには会えなかった。

授業が終わると同時に教室を出て、屋上で彼が来るのを待ってみたけど、彼が屋上に来る事はなかった。



...やはり、毎日来ているわけではない...ですよね...。



少しでも良いから、お話ししたかったなぁ...。



放課後、屋上のベンチで彼の事を考えていた。

昨日彼から借りたハンカチを見つめながら。

正直、今日は授業中も彼の事を考えてしまって、内容を覚えていない。



神奈(かんな)くんと会えた。

中学校でも同級生と普通にお話し出来る事はほとんど無かった。自分から踏み込もうとしても拒絶される。

先生に相談しても、友達を作る事は出来なかった。それどころか、今まで以上に身体のアザが増えていくだけ。

私はおそらく皆から存在を否定されていたんだと思う。


それは、高校生になっても変わらなかった。

最初はお話ししてくれた人も、次第に離れていく。少しの会話も拒絶されるようになった。


もしかしたら1週間もすれば、彼も皆さんの様に、私を拒絶するかもしれない。

でも、それでも。



『来たい時に、来れば良いさ』


『また、明日。』



彼の言葉が心の底から響く。

昨日は嬉しい事が沢山あった。辛い事より楽しい記憶の方が多い1日だった。


昨日、彼が抱きしめてくれた時の事を思い出す。

... ... 暖かくて、安心した。

帰り道でのお話はとても楽しくて... ... 。

わたしが心の奥底に閉じ込めた温かな"世界"だった。







ーーーお前が存在できる、世界を探すんだよーーー




懐かしい声が、聞こえた。





『... ... ...。』










『... ... もう、こんな時間...。』


時計を見ると、5時半を過ぎていた。

私と同じ名前の光が、はるか向こうに見える。



(暗くなる前に、帰らないと...。)


その後、屋上を離れて2階のお手洗いに入り、鏡を見る。向かい側で自分を見つめる自分を見つめる。

昨日泣きすぎたのか、目の下はまだ若干腫れている。


『はぁ...。』


思わず溜め息が出ていた。こんな顔を彼に見られていたと思うと、恥ずかしさや悲しさが込み上げてくる。

もっと普通の顔で会って、一緒に帰りたかったな...。

鏡の自分を見て少し凹む。

しかし、ここで考え込んでも遅くなるだけなので、とりあえずお手洗いを済ませようとした時。



『いると思うんだけどなぁ。いつもみたいに一人でボケーっとしてるでしょ!』


『いやー、わかんないよ?靴履き替えるの忘れてシューズで帰ったんじゃねーの?』


『流石にそれはオモロイんだけどw』


『キャハハハ』



!?



静寂が支配する空間故に異常によく声が通り、ハッキリと聞こえてしまう。

最悪だ。何でこの時間にあの人達がいるんだろう。

もう誰も残っていないと思っていたのに...。



『ちょい待ってー。トイレー』



え?...こっちに...来る...?



後ろに後退り、周囲を見る。焦りからか思考が追いつかない。


(隠れないと!)


そう考えた時はもう遅かった。

扉が開き、昨日の茶髪の女子生徒と目が合う。



『え?...あれー?いるじゃーん!』


まるでオモチャを見つけたような無邪気な笑顔で私を見る。この表情を見るのは何度目だろう。

何度経験しても恐怖しか感じない。

女子生徒は後ろを向き、友人を呼ぼうとする。


『っ!』



個室に急いで入り、鍵をかける。


『あははw隠れちゃったよアイツ!』


『マジ?おーい!出てきなよー!昨日の分も遊んであげるからー!』


『アンタ、それ言ったら出てこないじゃん!』


『あれー?どうしよー?』


『キャハハハ』



二人じゃない。三人いる。

全員聞いた事のある声。顔もわかる。


どうすれば良いか必死に考える。でも身体が震えて、まともに思考が働かない。

どうすれば良い?逃げる方法を考えないと...。

捕まればきっとまた、痛みに耐える日々がやってくる。

やっと薄くなってきた身体中の痣。ここ最近は逃げ切る事が出来て、暴力を受けてはいない。

これ以上、痣を増やしたくない...。


今まで考えた事のない事を考えてしまう。


痣なんて増えても良い。誰に見られる訳でもないし、夏に薄い服を着るわけでもない。

こんな身体、傷だらけになっても、構わない。

そんな事を当たり前の様に受け入れていた自分。


でも、頭の中に彼の顔がよぎる。


...もっと綺麗な自分を見てほしい。汚い自分を見せたくない。




ーー神奈君と本当の自分で、もっとお話がしたいーー






『ぜーの!』



何の前触れもなく。音もしなかった。違う、耳に入ってなかった。


頭上から何かが降ってきた。



『きゃっ...うぅ... ...げほっ、けほっ...』



一瞬の事で何が起きたか理解できない。気がつけば、衣服が体に張り付き、髪から水滴が落ちている。少し水を吸い込んでしまい、むせてしまう。


『オイ!無視してんじゃねーぞ!?出て来いって言ってんじゃんか!?』


『... ...。』



ガン!


『っ!』


トイレ内に響く暴力的な音に体が跳ねる。


(逃げなくちゃ、でもどうやって...)


考える。今の状況を切り抜ける為の方法を。


目の前にある、自分を守ってくれている板が揺れる。

ドアを登る音。

違う。両隣の個室から、こちらに入ってこようとしているんだ。


今、ドアの向こうには1人...。

深く考える事はできない。逃げるのは、今しか無かった。


『...!!!』


ドン!


『え?』


勢いよく扉を開ける。

私が出てくるとは思ってなかったのだろう。扉の前にいた一人が驚き様に私を掴もうとしたが、それを手で払い廊下へと走る。





ーーーーーーーー







(大丈夫。大丈夫。大丈夫。)





息を荒くし空き教室に隠れる。

しばらくすると、複数の慌ただしい足音が聞こえ、廊下を歩く音に変わる。


『あれ?どこ隠れた?チビのクセに相変わらず逃げ足速すぎんでしょ』


教室の外から低めの女の声がする。

何が楽しいのか、まるでゲームをしているかのような声色に心臓がひどく跳ねる。


『ははっ!ねぇ!見てよコレ!頭悪すぎでしょ!』



足音が近づいてくる。

身体の震えが更に大きくなり呼吸がうまく出来なくなる。



『はっ...はっ...』





ガシャッ!



教室の入り口のドアが勢いよく開かれる。



『はっ良いね!めっちゃビビってんじゃん!』


『!!?な...んで...。』


パニックで考える事が出来ない。

このまま隠れ通して逃げようと考えていたが、まるで全てお見通しと言うかのように自分が隠れた教室がスグに見つかってしまう。



『はぁ?お前ずぶ濡れで足跡くっきり残してたじゃねーの。バカなんじゃない?』



茶髪の女子生徒は私の姿を見て嘲笑して言う。



『あ...』



自分の周りで夕陽に反射する床をみて絶望する。こんな事にも気付かず隠れてしまった事を一瞬悔やんでしまう。

だが気付いても既に遅く、更に後ろから女子生徒二人が入ってくる。



『オイ!誰が逃げて良いっつったんだよ!あぁ!?』



『あぐぅっ』



後ろから来た女子の一人が恐ろしい表情で睨み、そして左肩を足裏で蹴りつける。



嫌だ...痛いのはもう嫌だ。



床に転がされ机の足で後頭部を打つ。

沢山の負の感情が心を埋めていく。



『おいコラ!顔には傷付けんなよ!アンタはいつもやり過ぎんだから!』



『あぁ?言われなくても分かってんよ!』




最後に入ってきた一番背が高い女の言葉に荒っぽく言葉を返し、こちらに近づいてくる。

そして仰向けになっている私にまたがる。



『や...やだ!いや!!』



下半身の上に乗られ両腕を掴まれる。

振り解こうとするが、うまく身体に力が入らず、力負けしてしまう。


扉を閉め、他の女子生徒2人も近づいてくる。



『おいミカ!ユリ!腕押さえとけ!』


『はいはい。コワイ、コワイ。』


『あーあ、こりゃ止まらないヤツだ。』


後ろから来た二人に後ろから両腕を掴まれ完全に身動きがとれなくなる。

いくら流したか分からない涙が止めどなく溢れ、視界を隠していく。


手の自由を取り戻した金髪の女がニヤリと笑い、ポケットに手を入れ何かを取り出す。


『なぁ、お前コレが好きなんだって?』



『ーーーーっ!!』



カリカリと音を立て、銀色の刃が目に映るよう、かざされる。



ーーカッターナイフーー



刃物は私にとって、この世で何よりも恐ろしい、全てを奪った存在だった。


身体中が一層震え出し、下半身に温かい感覚が広がる。

息をする事も上手くできず、酸欠で意識が薄くなっていく。


『うぉ!漏らしやがった!汚ねーな!』



慌てるように私から離れ、軽蔑の視線を向け、ニヤッと口元をあげる。


下半身が軽くなるが力が入らず、動く事もできない。



『きゃははは!聞いた通りコレすると酷いことなんじゃん!』



そして再び近づき刃物を見せながら私のスカートの腰周りに当て布地を割いていく。



『や...だ...やめて...』




絞るように反抗の声を上げるが、それは目の前の女の好奇心を昂らせるだけになり、更に行為を進めさせる。



ケープと胸元のリボンを荒く外され、シャツを勢いよく横に引き千切られる。



『ひっ...う...。』



恐怖で言葉にすらできない声を出すことしかできなくなる。



『お前もイヤなヤツに目ぇ付けられたもんだよねぇ。まぁ運が悪かったと思ってアタシらに遊ばれな!きゃはははは!』



女の笑い声が教室に響く。

悪意が溢れた声は、私の心を更に締め付け、絶望へと染めていく。



『もう...やめてぇ...

助けてぇ...。』



『はっ!昨日はお友達に助けて貰ったんだって?泣き叫べば来てくれるかも知れねーぞ?ほらぁ!』


パンッ

頬を叩かれる。本気の力では無いのだろう。ただ、威嚇する為だけの暴力。


『おいアキノ!やり過ぎだって!跡残っちゃうよ!』


『わかってるっての!アンタ、いちいちウッセーんだよ!こんぐれーヤらねーと面白くねーじゃん!』


後ろから指摘した背の高い女に罵声を浴びせ、再び女は顔を近づけ、囁くように呟く。




『まぁ、お前みたいな犯罪者に近づく奴なんていないよねぇ。犯罪者は罪を償わなくちゃねぇ!


なぁ、、、"ヒトゴロシ"』



『ーーっ!?』


彼女から発せられた聞きたくない言葉が、突き刺さる様に、わたしの心を抉った。







その時











教室の扉が開く音。

薄らいでいく意識の中、また誰か来たのだろうか?と考え、恐怖心が膨らんでいく。



だが教室に凛と通った声に私は少し意識を戻す事になる。








ーー彼の声が、したーー







『何してんだよ...アンタら』














お酒が美味しい季節になりました。

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