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今もあなたの世界を探している。  作者: ほたるwork
第一章
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ー04 帰り道の終わりに“またね"




校門を出て、帰り道を雪峰と歩く。

さすがに気温はかなり下がり、白い息が二人の頭上に消えていく。

特にこれといった会話はあまり無い。夜の道を二人並んで進んでいく。



『あ、わ、私こっちです。か、神奈(かんな)君...今日はた...助けていただいて、ありがとうございました。』



トコトコとオレの前を移動し、町の中心地へ抜ける道で立ち止まる。

そして、ペコリという音が聞こえそうなお辞儀をする。



『家、こっちか?』


『あ、えーと...お夕飯の材料を、買いに、行きます。』


『家で作ってくれてないのか?メシの当番とかか?』


『えっと、うん。そんな感じ...かな?あはは...。』



たぶん我が家は今、妹が晩飯を作ってる頃か...。あまり待たせると剥れるんだが...。



『ふむ、...いや、いいや。付き合うぞ。家まで送る。』


『ふえっ?い、いいです!悪いですよ!?』


慌てて首を振りながら答える。髪が揺れ、甘い匂いが鼻をかすめていく。


『この暗い中、お前みたいなの一人で帰すのは、し...心配と、いうか...その。』


『しん...ぱい?私が...ですか?』


『... ...。』



なんか恥ずかしい事を口にしてる気がする...。同年代の女子にこんな事言うのは初めてだから、どう言うのが正しいのか、わからん。


いや、でも花崎(はなさき)には普通に言えるな...。

...アイツは例外か。付き合いの長さが違いすぎる。



『... ... 人の親切は、断らない方が相手も喜ぶと思うぞ...。』


『... ... ... 。』



雪峰(ゆきみね)はキョトンとした顔でオレを見上げている。

一瞬、心臓が跳ねる。

今日の昼、屋上の時も同じ事があった。


... ...もしかしてオレ...上目遣いに弱いのか?



雪峰はオレを見つめた後、すこし恥ずかしそうな笑顔で答えた。


『でわ、お、お言葉に甘えさせて...いただきます。』





ーーーーーーーー





ショッピングモールの食材売り場を後にし

再び、夜道を並んで歩く。



『えと...い、今更...なのですけど、わ...私、男の子と一緒に帰るの...その、初めてで...ちょっと、き...緊張すると...言いますか、ドキドキ...します。』


不意に雪峰が恥ずかしそうに口にする。


『オレは...まぁ初めてでは無い...か?妹を含むなら、それなりに...。』


『妹さん、い...いらっしゃるんですか?』


『あぁ、1コ下。来年うちの高校に入学予定だな。』


『神奈君の、妹さん...そうですか... ...♪』


妹の事を話すと何故か雪峰は嬉しそうにしている。...なんでだ?




ふと、雪峰が持つ買い物袋に目が止まる。エコバックだから中はあまり見えないが、買い物の時あまり食材を買っていなかった。



『そういえば、あまり買わないのな。食材。』


『は、はい。えと...一人...暮らし、なんです。』


『... ... マジ?』



流石に予想外だ。側から見たら中学生が一人暮らししてるようなモンだぞ。


『えと...はい。

っ!...ふわっ!』


『お!おい!』


雪峰がいきなりバランスを崩し、転けそうになる。

何とか腕を取り起こしてやる事ができた。


『大丈夫か?』


『えと...あ、ありがとうございます。今日はちょっと、動きすぎて...足にあまり、力入らなくて...あはは...。』



先程の事を思い出す。

二人から逃げて。震えていた。

状況から見て精神的にもかなりキている筈だろう。



『... ... 買ったヤツ、持ってやるよ。ホラ。』


『え、えと...だ!大丈夫です!これぐらいなら、も...持てます!』


『転けそうになったヤツが良く言うよ...。』


『あっ...。えと...でわ、お言葉に甘えます...。』



そういうと、エコバックを渡してくれるのかと思ったが雪峰はすこし困った顔をしてしまう。自分の両手を見てなにやら考えている様だ。

右手にエコバック。左手には学生カバン。



『どした?』


『いえ、その...ふっ!!』


『ん?... ...え?』


エコバックを持つ腕がすこし動いた途端、雪峰はバックを落としてしまう。


『ふわっご、ごめんなさい!』



地面に落ちたバックを拾う。ビンがぶつかる音がしたが割れてはいないようだ。


『中は...大丈夫そうだな。

いきなり、どうした?』


『えと...その、右腕...上がらないんです...。』


『上がらない?さっき怪我したのか?』


あの二人に何かされたのかと思い、少し低い声で聞いてしまう。


『い、いえ!ち、違います!昔から...です!昔、事故にあって、上がらなくなったんです!』


『あ、あぁ...。そうか...。』


『肘は少しなら、ま...曲がるんですけど...肩は全然駄目で...。あ!でも、指は!普通に動きます!...あはは...。』



はにかみながら、すこし手を上げ、にぎにぎしている。


『はぁ...。無理せず、キツかったら言えよ?また転ぶぞ。』



今日怪我したわけではない事に安堵の息をつき、帰り道を歩き出す。

不覚にも雪峰の少しの仕草に可愛いと思ってしまう自分がいた。何かこう...胸を締め付けられる様な感じ。

こういうのなんて言うんだっけ?

...あぁ、胸キュンか。



少し歩くとよく見る道へと入る。ここは...妹と買い出しへ行く際に通る道だ。

この方向...。

我が家のある方に歩いて行っている。


...意外と家近かったりするのか?



『あの、か...神奈君のお家はどの辺りなんですか?...逆方向... ...とかでは、ない...ですよね?』


『ん?あぁ...。』



ていうか、着いた。オレの家。


『ここ。』


『え?』


立ち止まり指を指す。周りの家と比べると、一回り大きい青い屋根の家。


『ふわ?こ...ここ、ですか!?

り、立派な...お家です...。』


『デカイのは良いんだが...今は殆ど妹と二人だから、掃除が大変なだけだわ。これの4分の1くらいで丁度良いんだがなぁ。』


『お二人...だけ?えと...その...ご両親は?』


『...。母さんは、色々あって実家に帰ってて、父さんは...死んでる...。』



頭に痛みが走る。乗り越えて抑え込んだはずの苦味が心の奥に広がる。


『... ... ...!... ...な君!神奈君!』


『あ...え?』


『えと...ご、ごめんなさい。お父さんの事...。


『あ、いや...ゴメン。大丈夫だ。』


『... ... 。』


『... ... 。』



何というか、気不味い空気が流れる。まだ...未だにオレは引きずっているんだな。父さんのこと...。


『オレの事はもう良いよ。行こう。』


『は、はい...。』



我が家を過ぎ、歩みを進める。

お互いに特に何かを話すわけでもなく、ゆっくり雪峰の歩幅に合わせる。


『か、神奈君。着きました。』


『は?』



ウチから5分歩いたかという場所。

アパートがあるのは知っていたが、こんな近いとは...。


『マジで、ここなのか?』


『えと、はい...マジ...です...。』



少し古めの...いや、かなりか?

セキュリティとか無いに等しいアパートだ。

とても女の子が住んでるとは思えない。

最近は掃除されていないのが分かる花壇に、屋根が穴だらけの駐輪場。2階へと上る階段の照明は切れかけているのか、明滅を繰り返している。

大丈夫なのか?こんなとこに住んで...。


そんな事を考えていると、雪峰が口を開く。



『神奈君。今日は、本当にありがとうございました。そ、その...すごく楽しくて...えと、すごく...げ、元気を頂きました。』


『あ、あぁ。どう、いたしまして?』


『神奈君も...か、帰り道、気をつけてください。』


『はは。スグそこじゃないか。

雪峰はゆっくり休めよ。』


『はい。今日はすぐに、寝てしまいそうです。』



嬉しそうに顔を綻ばせながら、オレを見上げる。

...やっぱりコレは照れてしまうな...。


『まぁ、また明日だ。ちゃんと戸締りして寝ろよ。』


『また...明日...。』


『??』


雪峰がキョトンとした顔で固まる。だか次に見せた彼女の顔は今日で一番印象に残るものだった。


『神奈君...また、明日です!』



今日何度目だろう。心臓が跳ねる。

普段あまり聞かない音が頭の中に響く。

この笑顔を見れたのなら、今日オレがとった行動は間違いではなかったのだろう。





『あぁ、また明日だ。』









ーー今日、最後に見た彼女の笑顔。それが無かったかのように。ーー


ーー明日。最悪の状況で彼女と、会う事になる。ーー






最近夜が冷えますね。

衣替えまだなんで外に出ると震えてます。

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