ご出身はどちらですか?【4】
「自分で言うのもなんですが、身分柄、ワタシは人を見る目がある。商売事でも相手を見抜くのは基本ですから。貴女は最初ワタシの事を面倒だと思っていたようですが、ワタシの話をちゃんと聞いてくれて、その内容を信じてくれた。ワタシのいた世界と違う事もあると思いますが、ワタシを王子として見ずに、一人の人間として受け入れてくれたのは貴女が初めてです。だからワタシも貴女を信用した」
いや、それは私が異世界モノの知識があったから受け入れやすいってところもあったけど。
「おかしな奴だと思ってワタシを切り捨てても良かったのに、それを踏み切れなかったのは、貴女の心の奥底が澄んでいたから。ワタシを治安部隊に突き出して、貴女の身が潔白であると証明すれば何も問題なかったのに、それをしなかったのは何故ですか。これ以上巻き込まれたくないと思っていたのに、今こうして一緒に居てくれるのは何故ですか。そしてなにより、出会ってすぐにワタシを下賤な奴らから逃がしてくれたのは何故ですか」
こいつ……確信犯だな。あのトップニュースを見なければ警察に通報していたさ。まあ、確かに今付き合ってやっているところはあるけど。
「それに昨日頂いたお菓子。ワタシにとっては初めて見たお菓子だった。そして食べた事のない味で、それはもう絶品だった。衝撃だったんです。こんなものが存在するのか、庶民が普通に手にすることが出来る世界なのかと。それを教えてくれたのも貴女だ」
目をキラキラさせながら、エリオットは話している。
「初対面のワタシに無条件でいろいろと教えてくれたり、お菓子や食事を提供するなんて有り得ない。異世界についての考察までするなんて、普通に考えたら貴女の方がどうかしていると思ってしまうくらいだ。しかし貴女は何か裏があったり、ワタシを騙そうとするような様子も感じられない。かといってワタシは貴女がただの無策なお人好しだとは思えない」
つまりですね、とエリオットは私の耳元に顔を近づけ、ひそひそと話を続けた。
「貴女はワタシに純粋に興味がある。異世界についてだけでなく、ワタシ自身にもね」
そうでしょう?とエリオットは首を軽く傾け、ニッコリと笑った。
「そんな貴女に惹かれてしまったんです。グレイス王女との結婚もありますが、今のワタシは燕太様として日本で存在している状態。他者から見れば何も問題ないでしょう?」
「いやいや、問題アリアリだわ。今のキミは高校一年生で結婚できないし、私からすれば年齢的にも犯罪になるし。もし今後燕太くんが日本に戻ってきた時に見知らぬ20代の妻がいるとか法律で裁かれるわ」
こいつ案外腹黒か?
ハッ!いかん、時間的にも周囲に人が多くなってきた。これ以上目立つ事をすれば事案発生と思われて通報される。早いところ切り上げるか……。
「よし、朝食も摂ったしお金の説明も出来たし、そろそろ移動しようかな」
「え、待ってください。はぐらかさないで。貴女の事を好きになってはいけないのですか……?」
ちょちょちょ、やめーや!高校生にそう言わせている性癖の女と思われるだろうが!
一旦私は自宅に戻り、きちんと支度を整えた。
せっかく早起きしてエリオットとも会ったので、今日は彼に時間を割いてやろうと決めた。
変な言動さえ取らなければ、はたから見れば姉弟のように見えるだろうし、行動を共にするのは問題ないだろう。
休日にこんなに外出するなんて、随分と久しぶりだ。
私はエリオットを連れてちょっとした観光めいた事を行った。
スーパーやドラッグストアについて説明して生活用品を購入出来るように教えたり、知識の宝庫として図書館を案内したり。
燕太くんの学校にも行き、通学手段や校舎の様子についても確認した。
「キミは『堤 燕太』として生活していく事になるから、私もこれからは燕太って呼ぶね。エリオットって呼んでいるところを誰かに聞かれたら不思議に思われるだろうし。こういうのは形から入った方が多分馴染みやすいよ。キミも私の事は様付けで呼ばないでね。そう呼ばせてるみたいで事案が発生しちゃうから。さん付けがいいだろうね、世間的にも」
「分かりました。何だか、二人だけの秘密っていうのは嬉しいものですね。この時は貴女を独占出来る」
クスッと笑いながら、燕太は私を見つめた。
いやいや、ていうか私、彼氏いるからね。何となく言うタイミングを逃しているけど。
いつそれを説明するべきかと考えながら、私と燕太は学校を後にした。