ご出身はどちらですか?【2】
エリオットの国はサファイアの採石場を保有していた。
国民の大半はサファイアの採掘や研磨を労働とし、サファイアをエリオットの家系であるサファイア家が回収、サファイア家は宝石のサファイアに魔力を込めていた。それを装飾とお守りを兼ねて他国の王家や貴族に、補助魔具としてハイランクの魔導士に売買するという仕組みだった。サファイアに魔力を込められるのはサファイア家のみで、それ故サファイア家が使う魔法も一般的な魔法とは違う、独自のものだった。
サファイアは高価なものなのでフィル王国は裕福な国家と思われたが、そうではなかったらしい。
フィル王国自体が小さな国で、国民が多くなく、労働力や採石がさほど獲得出来なかった事。
サファイアは上流階級相手にしか売買出来ないので、総合的には収益が多くなかった事。
土地柄として農業に不向きで、隣国まで足を運んで農作物を購入する事が主流だったため、庶民が住みやすい訳では無かった事。
そして一番の理由が、エリオットの住む異世界では砂糖の保有量が全てを掌握していた事。
砂糖はとても貴重なもので、国家や貴族にとっても、庶民にとっても大きな存在だった。
砂糖を巡って庶民間の紛争や、国家同士で戦争を行ったところもあった。
そんな中、フィル王国は王家が少し砂糖を所有している程度で、ほとんど持っていなかった。
経済的に国民へ砂糖を浸透させられる状況でなかった事と、他国の戦争を見て、その種になるようなものを所有しない方が良いと考えた事。
国民から不満の声が全くなかったとは言えないが、それでも国家を非難する者はほとんどいなかった。
それは国民に信頼されている国家だったから。
王家が頻繁に町に出向き、国民と接したり、町の生活状況を把握し、国民第一に考えていたから。
王家と国民とでサファイアの生産を行っており、お互いの存在を大切にしていたから。
エリオットのような国家は稀なケースで、ほとんどの国家は統治を主としており、商売事はそれを専門としている貴族や知識の豊富な行商人が担当していた。つまり、王家が商売事もしているフィル王国は下級とみなされていた。
それでもサファイアの希少価値は誰もが理解しているため、他国から一目置かれる存在ではあった。そんな中、近年のフィル王国は魔力が込めやすく質の良いサファイアが取れるようになり、より一層他国の視線を集める事となった。その結果、これからの国家繁栄のためにエリオットの政略結婚を取り付ける事となった。
グレイス王女がいるサース王国は、エリオットの世界では一番大きな国家で、砂糖の所有量も桁違いだった。魔導士の数も多く、魔導国家としても有名だった。一方で貧富の差が激しく、庶民でも生活の質に違いがあったが、貧しくて生活出来ないという者はいなかった。それでも盗みを働いたり国家への反逆を企てたりする者は存在したが、サース王国は大規模な治安部隊を編成しており、厳しく取り締まっていた。
サース王国はヒエラルキーが揺らがないのだ。しかし最下層の庶民でも最低限度の生活基盤は保証されており、頂点の王家は何不自由ない生活が送られている。計算して安定がなされている国家だ。
そんな国家と手を結ぶことが出来れば、エリオットの国家も益々栄えるし、国民もより良い生活が送れたり、砂糖だってフィル王国の国民全員が手に入れる事も出来る。