ご出身はどちらですか?【1】
寝起きでボサボサだったセミロングの髪を櫛で梳かし、外に出歩ける程度に簡単に化粧を済ませ、私はエリオットと近所の公園に向かった。
エリオットを待たせるわけにもいかなかったので、朝食を抜いている。とても腹が減った。
「キミは朝食済ませたんだよね?私まだだから、ちょっとコンビニ寄って買っても良い?食べながら話そうか」
「すみません、朝食がまだとは知らずに訪ねてしまって。構いませんよ、コンビニというものも初めてなので体験しておきたい。それに実は、ワタシも朝食を摂っていないんです。人の事言えませんよね」
エリオットは乾いた笑いを浮かべた。
「え、どうして食べてないの?ていうか、燕太くんの家はどんな感じだった?」
「それが……。初めて見た種類の家庭でした。燕太様の家に行くと、母上様はテレビという物をボーっと見ておりました。話しかけても応答がなく、母上様の体をゆすると『不良息子が。また金を抜き取る気か』と仰り、それきり口をきいてくれませんでした。父上様の姿は見当たらず、食事の準備もされていなかったので何を食べて良いかも分からず……。家の中を見て回り、燕太様の部屋と思われるところで服を着替えて休み、ただ時間が経つのを待っておりました」
……燕太くんの家庭は複雑なんだろうな。そんな状況だったらエリオットがいち早く面識のある私に会いたくなるのも分かる。
「そっか……。エリオットも朝食まだなら、一緒に食べよう。公園で誰かと一緒にご飯食べるなんて久しぶりだなあ。結構楽しんもんよ、これが」
「……ありがとうございます」
エリオットは静かに微笑んだ。
コンビニに着いたエリオットは、想像通りの反応を見せていた。
「自動ドアは他の場所でも見た事があったので慣れましたが、こんなに様々な種類の商品が陳列されているとは……。何を買ったらいいんだ?そもそも何をしに来たのか、この商品の多さを見ると混乱してしまう。これが店側の思惑なのか……」
「何言ってんの……朝食買いに来たんでしょ。コンビニは何でも揃っているから、目的に合わせていつでも買いに来られる便利な店って訳よ。あ、昨日あげたお菓子はコンビニでも売ってあるよ」
私はウエハースチョコの商品をエリオットに見せた。
「こんなにたくさん売ってあるとは。お菓子は貴重ではないのですね。日本は随分栄えた国家だ」
「割とどこの国でもお菓子は普通に流通しているけどね。まあ、日本特有だと和菓子ってのもあったりするけど」
コンビニで簡単な社会科見学を済ませ、私とエリオットはおにぎりのコーナーに向かった。
「おにぎり食べてみる?おいしいよ。あと緑茶もセットで。日本の朝食って感じで」
「ぜひ食べてみたいです。ところで、これはどうやってお金を払うのですか?」
「レジに商品を持って行って、店員さんがバーコードでチェックする。合計金額を言われるから、その分のお金を支払う。それで商品と引き換えるって感じかな。流れとしてはキミのいた世界でも一緒なんじゃない?あ、お金は今回私が払うからね。もう押し問答しないでね、目立つし。それに今の私は化粧薄くてひどい面だから、あんまり周りの人に見られたくないし」
「それは……。お金の事がよく分からないのは確かですが、庶民の女性に支払わせるなど、あってはならない事!ここはワタシが払います!」
「何故顔の事について触れない!?最初のタメの部分か?そこでちょっとコメントを躊躇ったな!?あと押し問答がまずいのは、高校生に金払わせているという絵面がヤバいからって意味もあるからね。ましてやキミ、私より背が低いし完全に搾取の図になっちゃうから」
押し問答が悪化する前に、私はエリオットを振り切って支払いを済ませた。
公園に到着し、私とエリオットはベンチに座り朝食を摂った。
エリオットはおにぎりと緑茶を気に入ったようだ。
「……ていう感じで、お金は札と硬貨で、それぞれ種類がある訳よ」
日本の通貨について説明も行い、エリオットはスポンジのように知識を吸収していった。
「なるほど。それにしても、日本はワタシがいた世界とは豊かさが全く違いますね。国家としてもそうだ。ワタシの国はあまり大きくないものですから」
燕太くんが持っていた財布の中のお金を見つめながら、エリオットは呟いた。
「子供である燕太様でさえ、5万円持っているのですから。母上様が仰った話からすると、燕太様が母上様からお金を取り上げたのかもしれませんが、それでも家の経済状況は崩壊していない。しかし家庭としてはどうなのか……」
「エリオットの国は、どんな感じだったの?」
「そうですね……。貴女の中のワタシを失望させてしまうかもしれませんが」
エリオットはゆっくりと口を開いた。