連絡ないんですか?【5】
しばらく歩くと河川敷があり、そこで話をする事とした。
冷静さを取り戻すため、燕太を河川敷で待たせ、私は自販機で飲み物を買ってきた。
「あげる」
「これは……」
「激甘ミルクコーヒー。さっきの仕返し」
そう聞いた燕太は、コーヒーを受け取る手が一瞬ひるんだ。
「嫌いだった?ざまあみろって感じよ」
「……なるほど。体が覚えているのか」
「何の話?」
「いえ、ありがとうございます」
まただ。またコイツは誤魔化している。
受け取ろうとした燕太を弄ぶように、私はコーヒーを持っている手を引いた。
「ちゃんと話してよ。アンタは隠し事多いんじゃない?それに、私はまだ怒ってるんだからね。何で連絡してくれなかったのよ。まあ、しなかった私も悪いけど」
「まさか、玲奈さんがそれほどにワタシにご執心とは思いませんでした」
「はいはい。で、今まで何をしていた訳?」
「それに答える必要はありません」
……は?
想像していなかった返答に、茫然自失となった。
「なに、危険な事をしている訳ではありませんから、心配頂かなくても結構です。確かに今までずっとワタシから連絡していたのに、ぱったり止めると気になるのは当然といえば当然でしょうね」
すみませんでした、と燕太は謝った。
「何よ、それ。私にはいろいろと話してくれたのに。そりゃあ、人間言いたくない事はあるのは当たり前だけど、アンタは特殊でしょ?異世界から来たんだから周りは知らない事ばかりで、ヘタしたら危険な事に巻き込まれる可能性だってある。だから心配で……」
「それは建前というんですよ、玲奈さん。それならば、何故すぐに自分から連絡をしなかったのですか?先程『連絡しなかった私も悪い』と言ったという事は、自覚があったんでしょう?連絡出来る状況だったのにしなかったという自覚が」
畳みかけるように燕太は続けた。
「こうは思いませんでしたか?『いつも連絡しているから、私に迷惑をかけると思って、連絡を控えているのかもしれない』と。それが無かったのであれば、貴女は自分の事しか考えていない。どうなんですか?」
「それは……」
全くもって図星だ。言い訳なんて出来ない。
「そんな方に自分の行動いちいちを話す必要はありませんよね。相手は何一つ教えてくれませんから」
「教えるって何を教えればいいのよ」
「カクシゴト」
その瞬間、何故か慶の姿が目に浮かんだ。
「あるでしょう?玲奈さんにも隠し事の一つや二つ。ワタシばかり自分の行動を報告していたら、隠し事なんて出来ないじゃないですか。それならば玲奈さんも行動のひとつひとつをワタシに報告してくださいよ」
慶の事を訊かれる訳ではなかったので、どこか安心した自分がいた。
「そんな事やってたらキリがないわよ。それに束縛されてる気分になる」
「それと一緒です。ワタシの場合はやるべき事が見つかったので、そちらに時間を割いているから連絡しなかった」
「そっか……私が悪かった。アンタを責める資格なんて無かったわ。それに、自分の事しか考えていなかったのも事実だし。でも自分が傷つきたくないという考えが嫌になって今回行動を移したのよ。そうじゃないと、何も進まないし、解決しない」
それを聞いた燕太は、突然吹き出した。
「な、何よ!笑う事ないでしょうが」
「いや、ワタシもそういうところがあった事に先日気付いたんですよ。そのおかげで友達が出来ました」
燕太は学校で起こった出来事を聞かせてくれた。
「ワタシと貴女は何だか似ていますね。自分が傷つく事が怖いから、相手が動くのを待つ。でもそれだと何も進まない。だって相手はワタシの事が分からないままですから。一方通行ですよ。投げかけた事に関しての情報しか答えてくれないならば、それしか知り得ない」
確かに。慶に対してもそれは言えるのかもしれない。
「でもワタシは玲奈さんに対して積極的になれているでしょう?ワタシも私的な事でこれほど積極的になった事はありません。自分が傷つく事を恐れてでも、相手からの一方通行では嫌だったから。貴女の事をもっと知りたいから。まあ、結局のところ今はワタシの一方通行の状態ですけどね。結構傷ついているんですよ」
燕太が泣き真似をしてみせる。
「玲奈さんに連絡をする事が嫌になった訳ではありません。最初は本当に時間がなくて連絡が難しかったんですけど、いつも一方通行だから、まあいいかと思ったんです。その結果こういう事になりましたけどね。アレですね、『押してダメなら引いてみろ』ですね」
「だからっつって、電話の留守電聞いたでしょ?あの時はめちゃくちゃ心配してたんだから」
「すみません。ちょっと焦らしてみようかと思って。でも留守電に玲奈さんの声が残るなんて夢のようだ。今日から寝る前に子守歌として聞きます」
あんな怒号を子守歌にするとか、悪趣味だな。
「さて、ワタシの想いを知った今、自分の嫌な部分に気付けた今、玲奈さんはワタシに自分から連絡を下さいますか?」
「……もうやってるっての」
私は激甘ミルクコーヒーを今度こそ燕太に渡した。
「やはり、たまには直接会ってお話するのは良いですね。こんなにも貴女を近くに感じられる。それに先程、貴女に触れられましたし」
「あれはアンタが嵌めたんでしょうが。ヘタしたら通報されてたかもしれないんだからね。もうしないでよ」
「……ワタシは本気でしたよ。あのまま貴女の唇に触れても良かったんだ」
急に真面目な顔で燕太は私を見つめた。
「……なんて言ってみたりして。貴女が嫌がる事はしませんから、ご安心を」
ニッコリを笑い、激甘コーヒーを飲む燕太は少し悲しそうだった。
それもそうだ。
私のこんなにも困惑した表情を見たら、そう話すしかないだろう。
だって私は、まだ慶の事が好きだから。
「さて、そろそろ帰りましょうか」
「そうね。てか、ゴメン。かなり遅い時間になっちゃった。流石にお母さんが心配するよね」
「いえ、あの家庭は今のところ問題ないです」
「そっか……あ、そういえば燕太には妹がいるって蜜柑おばさんから聞いたんだけど」
妹という言葉を聞いた途端、燕太は片手を抑えた。
「どうかした?」
「……まだ不確定なので話すつもりはなかったのですが。どうやらほぼ確定のようなので話しましょう」
やや虚ろな表情で燕太は続けた。
「ワタシと燕太様は共通のコンプレックスがあり、魂が入れ替わっても体は覚えているようなのです。それが時に顕在する。心境としてはあまり心地よくないですね」




