表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/77

どちらさまですか?【2】

二人と別れた後、私はこれからの予定を考えていた。

今はまだ夕方。せっかく外出しているからどこかに行こうか。

でも、どこへ行く?何の目的もない。彼氏に会いに行く?いや、そんな感じじゃない。

家に帰っても、何をする?

何の趣味もない。







結局、私は電車に乗って帰路についた。

自宅の最寄り駅で下車し、スーパーで買い物を済ませ、暗くなった大通りをトボトボと歩いて帰っていた。

辺りは居酒屋が立ち並んでおり、早くも酔っ払った人がチラホラ見受けられている。







自分の惨めさを感じたが、それでも友人と久しぶりに会えたのは嬉しかった。

他愛ない会話でも、結構楽しかった。

二人とも元気そうで良かった。

私の事も気遣ってくれていた。

私は、良い友人を持っていた。







それにしても、異世界、か。

今の社会人生活を脱却出来るのならば、異世界転生なんてものを夢見るのもアリなのかもしれない。

現実的に起こり得ないが、想像して現実逃避するのは案外良いのかもしれない。

……いかんいかん。夢を見過ぎると現実に直面した時にショックが大きい。

やっぱり私は、もう異世界モノにはうんざりだ。





「貴公等、ここは一体どこの王家が治めている国か」

「あ?何だてめえ、ガキのくせに酒でも飲んで酔ってんのか。絡んでくんな」

「酒など飲んでいない。貴公はひどく汚い言葉を使うな。ワタシはここはどこの国なのか尋ねたいだけだ」

「はあ?国って、マジでバカなのコイツ。もう放っておこうぜ」

「いやいや、ちょっと面白そうじゃん。ねえキミ、こんな時間に子供が出歩いてたら、ママに怒られるんじゃない?口止め料払ってくれたら黙っててあげるからさあ。ちょっと向こうで話そうか」





ヤバそうな会話が聞こえてくる。

いや、この場合のヤバそうというのは、絡まれていてヤバそうというのもそうだが、何か世界観が違うヤツがいてヤバそうというのもある。

私はチラッと世界観の違う声の主の姿を見た。



……うん。別に普通の男の子だ。

正確に言うと、高校の制服を着た男の子だ。ある意味、高校生が夜に悪い成人男性2人に絡まれているという状況は、まずいと思う。

警察に通報した方がいいのかな。でも正直、変に私も関わる事になったら嫌だし。

だれかが通報してくれないかな、なんて……。

なんて、そんな風に思うなんて、私はやっぱりダメな大人だ。





ふと、高校生と目が合ってしまった。

「……グレイス王女?貴女はグレイス王女ではありませんか?」

……ん?

「良かった!ようやく見知った方にお会い出来た」

い、いやいやいや!こっちみんな!話しかけんな!知り合いと思われるだろうが!

「何だあ?あんた、このガキの保護者か?」

「い、いえ!とんでもない!初めて見たガキです!でも……」

一旦、言葉を切り、私は呼吸を整えた。

「でも、この子は場所を尋ねただけだから、許してあげませんか?」

「……は?何?」

威圧的に男性二人が近づいてくる。

に、逃げねば。言って聞く相手じゃない。逃げるが勝ちだ。

咄嗟に私は高校生の手を掴み、一目散に走り抜けた。

自分にこんな脚力があったのかと感心する程に、それはもう韋駄天の如く速かった。







うまく撒けただろうか。

息を切らしながら、私は額の汗を拭き、後ろを振り返った。

男性2人の姿はない。

「……助かった」

「なんて……なんて素敵な走りなんだ。貴女にこのような魅力があったとは知らず、お恥ずかしい限りです」

ハッ!忘れた。成り行きで高校生を連れ回してしまった。

しかも、逃げる事に一生懸命だったから、いつの間にか自宅前に来ている。

これって、はたから見れば誘拐……?

吹き出す汗が冷たくなっていくのを感じた。

「ワタシも追いつくのに精一杯でしたよ」

あ、失礼しました、と高校生は片膝をつき、私の手を取った。

「フィル王国第一王子、エリオット・サファイアです。しばらくお会い出来ていませんでしたが、ワタシの事を覚えていらっしゃいますか。グレイス王女、貴女の婚約者です」

そういって、彼は私の手の甲に唇を落とした。







なにやってんだ。この高校生。頭湧いてんのか。

……てか、この状況まずいんじゃないか!?どうみても大人である私が高校生に性癖歪んだ事をさせてる図にしか見えない。

逮捕される……。きっと、誘拐罪とわいせつ罪の類で逮捕される……。





いや、待てよ?

明らかにおかしいのは、この高校生だ。

案外、警察に高校生の身柄を引き渡せば、簡単な事情聴取で終わるんじゃないか?

正常なのは私の方だという事は一目瞭然だし、私もこの子を守るために逃げてきた訳だ。



よし、警察に連絡だ。

私はスマホを取り出し、電源ボタンを押した。

ロック解除画面と一緒に、今のトップニュースの通知が表示される。

『16歳の男子高校生が行方不明。家族は捜索願を提出』

あ、ちょっと。ちょっと待ちなさいよ。ちょっと。

止まらない汗とともに、心臓がバクバクと大きな音を立てる。







このニュースって

完 全 に 一 致。







ヤバいヤバいヤバい。

これは警察も危険だ。

自分の家族に相談するか?

『未成年に手を出すなんて、頭湧いてんじゃないのか?』

そう言われる未来しか見えない。

これは特大ブーメランだわ。


警察もダメ。家族もダメ。あれもこれもダメ。

そしたら……そしたらどうすれば……?

「あと、えっと、えっと、あの、ウ、ウチ来る?」

なんて短い人生だったのでしょう。私はこれで終了のようです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ