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どちらさまですか?【1】

「昨日発売された異世界転生小説の新作読んだ?」

「読んだ読んだ!まだ途中だけど、めちゃくちゃ面白いよねー」



はしゃいでいるクラスメイトの会話が聞こえる。

教室の窓際の席に座っている私は、小さくため息をつき、窓の外を眺めた。

グラウンドでは、どこかのクラスが体育の授業の準備をしている。





学校に来ている間は、授業の事を考えたい。

もちろん、休憩時間は誰が何をしようと自由なのは確かだ。

私だって、友達と他愛のない会話をする事はたくさんある。





要するに、私は異世界モノの話が嫌いなのだ。

学校では周囲が異世界モノの話をし、ネットを開けば異世界モノの作品紹介の広告が掲載され、深夜にテレビをつけても異世界モノのアニメが流れている。

もう、うんざりだ。





うんざり。

うんざり。

そう、うんざりするほどに私は異世界モノの小説や漫画やアニメを既に網羅していた。



クラスメイトが話している異世界転生小説?

何を今更、フラゲで情報収集はとっくの昔に済んでいる。

さらに私は小説も読破済みだ。



私は常に人の一歩先を行く。

にわか勢には分からないでしょうね。この私のプライドが。

心の中で嘲笑しながら、私は次の授業の教科書をめくって軽く予習をした。







――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――







異世界モノは、本当にもう、うんざりだ。

社会に揉まれて早3年、25歳となった私は仕事に生きる人間と化していた。





大人は面倒だ。

お客様の対応、クレーム処理、イライラする。

職場での上下関係、気遣い、面倒臭い。

疲れやストレスばかりが溜まり、正直、朝の準備で化粧をするのも面倒と感じる。

職場は、きちんと週休2日制ではあるが、休みの日に何かしようと思う気持ちが湧かなかった。

ただひたすらに寝て過ごしている。

彼氏と会う時間さえも惜しいと感じるが、相手の事を考えるとそうもいかないので、たまに彼氏の家に夜泊まりに行くような付き合いしかしていない。

それを付き合っているというかどうかは、もはや分からない。



高校時代や大学生時代には、遊びや時間の余裕があったから趣味に勤しんでいたけど、今はそんな心の余裕もない。

異世界モノという言葉を聞くだけで、そんな事にうつつを抜かして等と思い、何だか憎らしく感じてしまう。

それが積み重なって、異世界モノを毛嫌いしてしまうようになった。







ある日、高校時代の友達の琴美からメールが来た。

『玲奈、久しぶりに会わない?この前偶然、香織に会ってさ。みんなでご飯食べに行かない?っていう話になって』

高校時代の友達、か。

たまに連絡は取っていたが、直接会うのは高校卒業以来かもしれない。

せっかくだ、休みの日に寝て過ごす生活ばかりというのも良くないだろう。

『うん。私もみんなに会いたい』

琴美に返信し、今度の土曜日にランチをする事になった。







琴美と香織とは、よく遊んでいた。

もちろん、異世界モノの小説や漫画の貸し借りもする程の仲だった。

土曜日のランチで会った時も、自身の近況報告だけでなく、高校時代の話も挙がり、必然的に異世界モノにも触れる事になった。

「ホント仕事が大変でさー、ふっざけんなって感じよ。精神的にも疲れるっての」

「まさか玲奈がここまでストレス溜まっていたとはね。高校生の頃は異世界モノの情報屋と呼ばれていたのに。一番社会に揉まれてる」

「香織。異世界モノは禁句だから。その言葉を聞くとイライラするのよ。そんなのに時間を割く余裕があるなら社会に貢献しろって感じ」

「いやいや、当時は高校生じゃん……。私は今でも異世界モノの小説読んでるけどなあ」

「香織も読んでるんだ。私も読んでるよ。最近アニメ化が決定した作品で……」

「ちょっと、琴美も止めてよ。話題についていけないしさー」

「あらら、ゴメンね。まあ、これからもこうして時々会おうよ。ストレス発散も兼ねてさ。何かあったらお互い相談し合える関係って事で」

琴美がうまく場を宥めて、ランチはお開きになった。







久しぶりに会った友人は、見た目はさほど変わっていないが、環境が変わっていた。

香織は結婚して1児の母になっており、可愛い女の子を連れて来ていた。雰囲気や表情は母親というものになっていた。

琴美は独身だが、仕事をうまくこなしながら、休日は趣味である旅行に頻繁に行っており、活発で生き生きとしていた。

なんて、羨ましい。

それに比べて、私はどうだ。

仕事はきちんとしているが、それに追われて自分を潰すような生活。彼氏はいるが、何とも言えない関係を続けている。かつて大好きだった趣味を今では毛嫌いするような天邪鬼。

なんて、惨めだ。

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