第7話 既視感
「ーー遅い」
その一言に俺はまるで心臓を鷲掴みにしたかの様な錯覚を覚えて身動きが取れなくなる。
呼吸が浅くなっていき、思考が空回りしてしまうのが分かる。
「どうしたの?何も言わないの?ーーってあら?」
眼をぱちくりさせた後深呼吸を一呼吸あけて居住まいを正すと、先程までの威圧感が嘘のように消えた。
「ゴメンなさいね?先程のは貴方達に言った訳じゃないのよ、少しイライラしてしまって……ね?」
そう言うと感情の抜け落ちた瞳でこちらを見てくる、少しだけ指輪が震えたような気がした。
「所でココに来る予定は1人のはずだけどどうして2人居るのかしら?」
そう問われると、俺はまりんの店についてからの一連の流れを説明した。
「そう、無事転移出来てよかったわね、あら?貴女怪我してるわね?ダメよー女の子が擦り傷とはいえ肌を傷つけるなんて、治しておきましょう、【ヒール】」
そう唱えるとまりんの傷が治ってゆく、擦り傷とはいえ、見た所何の端末もなしに魔法を行使したように見えた。
「さて、来て頂いたことだし、この世界の状況を説明しとくわね」
その後この世界について大まかな事を教えてもらった。
まず、この世界の名前はシュトラーセと言うらしい。
曰く、モンスターがいて、魔王やら勇者やがいたらしい、そいでもってここは魔法や剣の世界だそうだ。
何やかんやあって2人が消滅した時の影響で空間が歪んで地球に繋がったんだと……それで200年くらい前から地上では地球の代表と対話している?協定がある?最近動きが不穏?いやいやいやそんな事言われても知らんがな。
「それで?私達を助けて頂いたのは感謝していますが、それを聞いてどうしろと言うんですか?」
「んっふっふ~聞いちゃう?それ聞いちゃう?」
「あ、やっぱいいです」
「ごめんて!話をさせて!久しぶりの会話で空気が読めないのよーKYって奴?許して!ねっ?」
なんだコイツ最初は冷たい雰囲気だったくせにただの構ってちゃんになってやがる、かと言って怒らせるのは怖いので素直に話を聞くことにした。
「どーもねー私の予想だと近々何か動きがある気がしてさ、助っ人が欲しい訳、それでもって魔法に秀でた奴探してたの、そしたらあんた達が来たってわけ、と言っても何も知らない世界の為に働けってのも酷だからしばらくこの世界で遊んで行ってよ」
「そんな事よりも私達を帰してもらえませんか?私は明日も仕事なんですよ……家もあんな事になったので泊まる場所を探す必要もあるんです」
「あら、泊まる場所なら私はの家に来ればいいじゃない、店はあんなだけど家は近くにあるんだし」
その様子にノエル様思わずと言ったように笑い出す。
「……なんで、笑うんですか」
「だって2人とも現実が見えてないんだもの、あーおかしい」
そう言うと目じりの涙をぬぐう、そんなに面白かったか?
「あのねぇ、爆発してすぐ死亡記事流れてるのよ?ガチガチに命狙われてるじゃない、しかも店の中にまで来たんでしょ?まりんも戻ったら命狙われるんじゃない?」
俺達はノエル様の言葉に絶句するしかなかった、確かに言われるまで考えもしなかった、いや薄々は気づいていたんだろうが考えないようにしていた事をズバリ言われてしまった。
「ね?だからなこの世界を遊んで行ってよ、あ、でもまりんはここでお留守番ね?」
「なんで私だけお留守番なんですか?」
「貴女本当の意味での魔法使えないじゃない?ここでなら貴女にもそのチャンスがあると思うけど、それとも一緒降りて足でまといになって2人でのたれ死ぬ?」
「……分かりました、その代わり必ず魔法を使えるようにしてください」
「はい!いい返事出来ましたね!それじゃぁ早速弱いモンスターのいる地域の村まで飛ばすわね?路銀とかはこの袋に入ってるから、この世界を見て強くなりなさい」
突然拳大の袋が目の前に現れたので手に取るとその瞬間にチャンス、ノエル様が杖をつき足元に魔法陣が現れ輝く。
【テレポート アレイシス】
「え?ちょっとまって!その名前…………」
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強烈な光と共に俺は眼をつぶるとガードするように腕を組む、やがて光がおさまり眼を開くと、そこは村外れの寂れた祠のようだった。
どこか見覚えのある祠を出ると昔の記憶を頼りに歩くとすぐに村の入口へとついた。
「……まじかよ、まさかとは思ったが、なんでこんな所が実在するんだよ……MCWの始まり村のじゃねぇか」
そう呟くと俺はフルダイブしていた時の感覚を思い出し、楽しそうな、それでいて獰猛な笑顔を一瞬だけ覗かせ、不安な心を年甲斐もなくドキドキし始めた胸の高鳴りが塗りつぶした。
作者初投稿作品の為未熟な部分があると思いますが見てくれてありがとうございます。
アドバイスや感想があればお願いします。
次回更新予定 翌日19時~19時30分
しばらく予約以外の投稿を試させて下さい。