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新しい竜

「君の言う通りだよ。その呼び名が付いたのは、ブラント城塞の陥落からだ。この子が竜と知ったのもまだ数日の前の事さ」


「そうだと思ったんだ。ブラント城塞にはリーヌスがいたと思うんだけど、やっぱりただ加護を与えるだけでは力が出ないようだね……」


『ふふ、それはそうよ。あなたから貰っているモノに比べれば、あいつなんて小指一本しかもらっていないのよ?』


 竜に取られた代償によって、そのモノに与えられる力も変わってくるようだ。

 白い竜は目を細めてルルを見る。


『こんな小娘の魔法、本当の竜の力を持つ私を溶かす事は出来ないでしょうね……』


「氷の竜か……まさか、ブラント城塞でいた魔兵はとも、契約していたのか?」


 フロレンツの声に竜は頷き、氷の分身体を出す。


『私が契約してもいい程度の者たちから、精気を奪って、尚且つ愛も貰ったわ』


『愛?』


『子供にはまだ早い話だわ。まあ、私以外には目を向けられないように、いただいたの。恋人がいようが関係なくね』


 氷竜は人の体の一部と愛しいという感情を代価に、魔法兵を作り出していたような言い草だ。


「——まさか、ディーメルで行われていた兵器の増産とは……」


「おじさん勘がいいね。そうだよ。ヘンネの加護を与えていたのさ」


「竜がヒトの言うことを聞いたという事か?」


『あら、勘違いしないで。私は愛で満たす空間を作りたかっただけで、人の利害とたまたま一致しただけよ。ね、ハンス?』


 エグナーベルは竜と契約して、竜の望む環境を作り、魔法兵を増産している。

 そんな事が可能なのか、後からエルヴィン確認を取らねばならない。


「ああ、その中で僕が一番に選ばれたのさ! 竜に選ばれるなんて光栄な事だろ?」


 その中でも、竜に狂気じみた愛を捧げるこのハンスと呼ばれる青年を、竜は選んだようだ。

 竜は基本、群れずに過ごす。そんな中この竜は一人である事に寂しさを覚えたのだろうか?単なる戯れなのだろうか?

 ヘンネは氷の分身体を放ち、ルル目掛けて飛んでくる。


『フロレンツごめん。降りて!』


 ルルが下降してフロレンツを振り落とした。


『こいつ強い! ——フロレンツを乗せたままだと動けないっ!』


 そういうと、分身体と相対し始めた。

 腰をつけたままのフロレンツが呆気にとられていると、ハンスに大きな声で笑われた。



「テイムしたてだからか? 普通なら主人の元から離れないだろう?」


『分身体も出せないような幼体だものしょうがないわ。くす、主人の方がガラ空きね……』


 二人はジリジリとフロレンツとの距離を詰めて、氷魔法を放つ。

 ルルは分身体に注意が向いていて、こちらに気づいていない。

 フロレンツは右腕を向けて火魔法を放つ。


『あら、よく見るとこの力。ウーヴェのじゃない。少しまずいわね……』


「ウーヴェ?」


 ハンスは首を傾げて、ヘンネの話を聞いている。


『ウーヴェは深淵の業火。嫉妬の竜ね。その人を恨む心は根強く、よく人と契約したわね……。何に惹かれたのかしら?』


 ヘンネが近づいてきて、フロレンツを検分し始める。

 フロレンツは下手な動きが出来ず、固まっていた。

 そこに声が聞こえ、辺りが霧に包まれ始めた。


『この力、嫌な竜が来るわ……』


 ヘンネが一歩、二歩とどんどん後退すると、フロレンツの隣にはカサンドラが現れる。


『嫌なのはこっちも一緒よ。逆ハーレム作って何がしたいんだか?』


『あら、幻で精気を集めているあなたに何も言われたくないわ!』


 二体が睨み合う中、フロレンツは後ろから手を惹かれた。


「何やってるの? 早くきなさい!」


 フロレンツには二人のカサンドラが見えている。


「私は物理攻撃は苦手なの。アイツらが騙されているうちに、戦線を崩してしまいましょう。そうすれば、奴らもあなたに構っていられないわ」


「ああ」


「特別今回は後払いでいいわ。これが終わったら精気をたっぷりといただくからそのつもりで!」


 カサンドラがに連れられて、フロレンツは戦場へと戻る。

 こちらの軍が押しており、そろそろ別働隊が入っても良さそうな場所まで来ている。


「別働隊を動かさねば……だが、今魔法を使えば、奴らが来るか……」


「その辺は魔法を使えば? 幻術だけど、通信手段としても有効よ。場所を思い浮かべて、伝える事を伝えて」


 フロレンツはカサンドラの通りに森の入り口の所に視線を移す。

 内部までは視界に入らないためそこから合図を送ることにした。


幻術(イリュージョン)


 森の入り口にも自分が現れて手を振り、合図を送る。

 エルヴィンも隊に加っているので、すぐにわかってくれるだろう。


「これは特別サービスよ!」


 カサンドラは竜の姿をあちらこちらに出して、隊列を乱して行った。

 そこに仲間の後方部隊がディーメル側から押していき、エグナーベル兵たちは逃げ場を失い、どんどんと追い込まれていった。


「撤退! 撤退だー! ハンス!」


 氷魔法が兵の薄い右翼に放たれ、道を作るとそこから兵たちは退いて行った。

 エグナーベル兵は退却し、死体と氷漬けになった味方をそのまま置いて消えて行った。



「よう、フロレンツ。いい働きっぷりじゃねえか? あの竜は?」


 撤退する隊の中で飛んでいる一体の白い竜を、エルヴィンは指差す。


 フロレンツは先ほど聞いた内容をエルヴィンに伝えると、エルヴィンも唖然としていた。


「本来、テイムした竜といえば、主人に従い他の人間と契約するわけがないのだが……」


「あら、あの竜はそんな事関係ないわよ」


「これはこれは、ブラントの飲み屋のお姉ちゃんじゃねえか。関係ないとはなんだ?」


 カサンドラの正体に気付いているだろうエルヴィンに、カサンドラはにこりとする。


「ルイーゼも知っていると思うけど、あの竜は普通の竜とは違うわ……。とりあえず人間のフロレンツが好きでね。気に入ったフロレンツたちを契約させて、自分に侍らせておくのが好きなのよ」


「お前と何が違うんだ?」


 フロレンツの声にカサンドラは憤慨する。


「私は精気はもらうけど、代償に愛しいという感情まで奪ったりしないわ! そんな事したらつまらないじゃない? 男と女は駆け引きがあってなんぼでしょ?」


 そういうと、フロレンツの胸に触れ顔をうずくめる。


「ピンチになったら、私の名前を読んでって言ったじゃない」


 上目遣いで見つめられれば、フロレンツはカサンドラの肩を抱く。


「貴女は秘密の多い女だ。信頼するにはまだ難しいのですよ。ですが、助けてくださってありがとうございます」


 すると、空から大きなルルの声がする。

 周囲の騎士たちは怯えた事から、なかなかの声量の咆哮があったのだろう。


『フロレンツー! 大丈夫だった?』


 フロレンツはさっとカサンドラを自分から離し、笑顔を向けた。


「大丈夫だったよ。ルルちゃんは怪我はない?」


『大丈夫! なんでその女がいるの! ムキー!』


 ルルがカサンドラ目掛けて降りてくるが、カサンドラは余裕の微笑みで、フロレンツの首に手をかける。


「今日働いた分もらうわね……」


「——待って! まだディーメル都市内の制圧が……」


 そのままカサンドラに口づけされたフロレンツは、意識を失うのであった。


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