表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/45

竜の話

「お前昨日その竜に精気を分けてもらっただろう?」


 フロレンツは首を傾げる。昨日の夜は女の話を聞いている途中で眠気がきて、眠ってしまっていたのだ。

 ルルから精気をもらった覚えはない。


「私は、昨日の夜は女性と会っていて、そのまま眠りについていてしまったので、ルルちゃんから何かもらったということはないと思います」


 フロレンツが目覚めると、自分が宿をとっていた部屋にいた。そして、隣にはルルがいつも通り眠っていたのだ。深く考えないようにしよう。


「竜の嬢ちゃん、傍から見たら竜が人を襲っているようにしか見えないから、あまり目立った行動はしない」


 考えないようにしていたことを、エルヴィンに言われてしまう。


『だって、あんな女の匂いがするところに一晩も泊まりたくなかったんだもん』


「んー。つまり本当は竜の形をしているルルちゃんが、僕のことを宿まで運んでくれたんだね? お利口さんなんだね。僕もあの部屋から早く出たかったから、ありがたいよ」


 フロレンツがルルの頭を撫で、ほめてあげていれば、エルヴィンにため息を吐かれてしまう。


「フロレンツ。お前はこの事態をきちんと考え直したほうがいい。お前には人間のルルに見えているかもしれないが、普通の人間にはこれが竜に見えているんだぞ? いいか。お前はほかの人間を巻き込まないように考えながら、この竜を育てあげなくてはならない」


 フロレンツは最近ではルルの事を竜だと思って行動するようにしているが、まだまだ配慮が足りないようだ。

 だが、昨日のことに関しては、あの嫌な想い出を掘り下げられた場所に居たくなかったため、ルルの事をほめてあげてもいいと思う。


「エルヴィン大佐ご教授いただいて、ありがとうございます。その、それで竜の匂いがするというのはどういう事なんでしょう?」


「すまぬ。脱線したな。それは自分のパートナーに確認したほうがいいだろう」


 エルヴィンがルルの事を見つめれば、ルルは何を言われているのか分からないのか小さい首を傾げている。


『エルヴィンいいわ。私が話すは……竜を持つものであれば、私の声が聞こえるかしら?』


 エルヴィンの懐からトカゲのような生き物が出てくる。


「エルヴィン大佐? ——それはまさか?」


「ああ。私の大事なパートナーさ」


 エルヴィンはトカゲの頭を撫でる。


『波長が合わないと、見た目はトカゲになってるかしら?』


「そら、残念だ。お前の美しい姿が見られないとは……」


『仕方がないわ。波長が合わないと姿はどうしても魔物の姿になってしまいますからね。それよりも、私はフロレンツというよりは、その竜に話があるわ』


 トカゲはエルヴィンの肩の上からルルを見つめた。


『あなた無意識に昨晩そのフロレンツと契約したわね?』


『契約……?』


『精気を分け与えるために、キスをしたでしょう?』


 ルルはうんうんと頷く。フロレンツは頭をかく。寝ている間にとんでもないことが起こっていたようだ。ルルとキスをするとは……。父親ならありかと考え直す。あくまで親子のスキンシップと考えることにした。


『頭に響いた声に、何と答えたの……』


『何もない。そばにいたい。悲しいのはいやって言ったはずだよ』


『どう思う? エルヴィン……』


 声を掛けられたエルヴィンは顎に手を当て考える。


「フロレンツ、お前確かナナちゃんに振られたんだったよな? 悲しかったか? 加齢臭がするって言われたんだろう?」


「ああ、なんだか悲しかった気もするのですが、今は怒りのほうが多いですね。決して、まだ加齢臭などしないはずなのです。まあ、向こうも商売人として私に接していたのでしょうね」


 エルヴィンたちは頷いた。今ままで聞いた話によると、匂いを気にして撃沈していたと、ロルフ少尉が言っていたのだ。明らかに何かの感情が欠如したことになる。


「フロレンツおそらくだが、お前は今回体の一部ではなく、感情の一部を糧にこの竜の嬢ちゃんと契約しているぞ……」


「……それはどういうことですか? この子も妖精の一種という事ですか?」


 エルヴィンは頭を掻くと、トカゲをチラリと見て口を開く。


「我々が勝手に妖精と呼んでいるだけで、本来の姿なんて分からないだろう? お前や俺のようにテイムしちまっている場合は正体も分かるが……」


『波長が合っている場合は、竜の姿ではなく人の姿に見えてしまうから、力を分け与える妖精なんて人に呼ばれてるのよ』


「そういう事だ。竜がその気になれば本来の姿も見せてもらえるぞ。ルイーゼお前の本来の姿を見せてやれ」


 そう言って、トカゲがエルヴィンの肩から降りると、大きな地竜へと姿を変えた。


『あなたの竜も姿を大小に変えれるわ。私は小さくなると羽がないからトカゲにしか見えないようだけど……』


「俺が懐に入れるサイズが良いって言ってるからな。竜の威厳がなくなってしまってすまない」


 エルヴィンがルイーゼの顎を撫でてやると、嬉しそうに目を細め、首を横に振る。


『——いいのよ。私はあなたと共に入れれば』


 エルヴィンが微笑めば、ルイーゼも微笑んでいるように見える。


「まあ、そういう事だ。嬢ちゃんの気が向くまではお前は竜の姿を見ることはできない」


 エルヴィンはニカッと歯を見せて笑い、フロレンツを見た。


「そうですか…。ルル僕には君の姿は見せてくれないの?」


『竜の姿だと怖いんでしょ? 皆攻撃しようとした。フロレンツも怖がったら私……』


 ルルの中で竜の姿はトラウマのようだ。なので、フロレンツにその姿を見せて恐れられるのが怖いようだ。


「大丈夫。無理にとは言えないよ。ただこれだけは分かって…。僕は君がどんな姿でも離れることはないし、きちんと大きくなるまで育ててあげるよ」


『おっきくなってもそばにいるの』


 ルルがフロレンツに抱きつき、フロレンツもそれに応える。

 エルヴィンはその様子を見ると、トカゲの姿に戻った竜を肩に乗せる。

 そして、フロレンツはルルを抱きながら、エルヴィンに問いかけた。


「一応お伺いしたいのですが、その欠如した感情をもとに戻すためには、どうしたら契約を解除できますか?」


 エルヴィンはニヤリと笑った。そして首に手を当てる。


「簡単さその竜を殺せばいい」


 フロレンツは唖然とすると、ルルを強く抱きしめて頷く。


「分かりました。欠如してしまった部分は分かりませんが、この子を殺す選択肢はありません」


「まあ、表立って不便することはないだろうから、頑張ってみろ」


 エルヴィンは元来た道を進みだすと、振り返り話忘れていた事を話し出す。


「あぶねえ。あぶねえ。匂いの話言ってなかったな。竜の精気を分け与えられると、女どもだって獣だ。強いフェロモンの匂いを嗅ぎつけて群がってくるから、いくらピンチでももらいすぎには注意だぞ?」


「分かりました。精気をもらうのに口づけが必要なのであれば、僕はもう自らもらうことはないでしょうから、問題ありませんよ」


『えーチュウしないの?』


 ルルが突拍子もないことを言い始めたため、フロレンツはむせた。そして呼吸を整えたところで、ルルに言って聞かせる。


「…あのねールルちゃん。チュウは好きな人のためにとっておかなきゃダメなの。せめて大人になってから……。そうだなあ……後10年は早いと思うよ」


『そんなの嫌だー!』


 ルルはジャンプして抱きつくとフロレンツの頬にキスをした。フロレンツは目を丸くするも、ぎゅっと抱きしめ返す。


「じゃあ、ほっぺたならいいよ!」


『やったー!』


 のけ者にされていたエルヴィンとルイーゼはその場を後にする。


「わしは忠告したからな……」


「はい、ありがとうございました」


 エルヴィンは手を挙げるとそのまま森の中へと消えていった。



「なあ、ルイーゼここに兵器が誕生している気がするんだが……」


『少し、私好みから外れてしまいましたね。契約の変更方法がないか探りますか?』


「ああ頼んだ」


『そういえば、パートナーを戦地に連れていくと、殺した人数だけ経験値が入ること伝えませんでしたね』


「ああ、それなら問題ない。感情が欠如した今、躊躇いなく人を殺せるようになってるだろうから、大量の経験値が得られるぞ」


 二人は恐ろしいことを話しながら、ブラントの町まで戻るのであった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ