家の購入手続きにて
─────コンコンッ
「⋅⋅⋅⋅⋅⋅はーい。どなたですか?」
受付嬢⋅⋅⋅⋅⋅⋅さっき確認したら、ポトスさんと言うらしい、に連れられて入ったのは、ギルドの『不動産スペース』だ。
中に入ると幾つかの扉がならんでおり、客と不動産関係の話をするための部屋と言うことらしい。プライバシーがしっかり守られているあたり、さすがギルドである。
話は今に戻り、ちょうどポトスさんがそのうちの一つをノックしたところだ。少し間があって返事がある。マリアではないが、やや高めでハキハキと良く通る声質からギルドの職員だと思われる。
「ポトスです。お客さまのお知り合いという方をお連れしました。」
ポトスさんの返答の後、また少し間が空いて扉が開いていく。
中は質素で必要最低限の椅子や机などがあるぐらい。軽く見て分かったのはそれぐらいで、目の前には肩まで伸ばした薄ら緑の艶やかな髪に水色の丸っこい目と、ポトスさんと同じような容姿だがやや大人びた様子の女性が、そして、その奥には椅子に座って難しい顔で書類とにらめっこをしているマリアがいた。
「こちらの方々?」
「はい、姉様。」
姉様?ということは二人は姉妹なのか。
似た容姿に、受付以外ではおどおどとした話し方になるポトスさんがすらすらと話しているところから見て納得できる。
それはさておき、誰かが来たことが分かっているであろうにも関わらず未だに書類とにらめっこしているマリアは彼女らしいなと感じる。が、流石に『知り合い』というワードがはっきり聞こえたからなのか、書類から目を離してこっちを見た。
「⋅⋅⋅⋅⋅⋅シュウくんにナナさん。どうしたのかしら?」
「マリアさん。いいお家見つかった?」
「まぁ、こう言うわけでな。確認に来たんだ。」
マリアの問いかけに、真っ先にナナが反応する。それに続けて、俺は合わせるようにして答えた。
「お知り合いの方で、よろしいですか?」
「えぇ、あの二人も一緒に座ってもらってもいいかしら?」
「それでしたら、大丈夫ですよ。ポトス、後は私が対応するから、仕事に戻りなさい。」
「わかりました。では、私はこれで」
ポトスさんのお姉さんの指示で、ポトスさんが部屋から出て扉が閉まる。
「それでは、こちらにお座りください。」
優しげな口調である促され、俺とナナはちょうどマリアを挟むようにして空いていた椅子に座る。
「話を再開する前に、改めて自己紹介させていただきます。私はミリオンといいます。ギルドの中でも不動産関係を主に任されていて⋅⋅⋅⋅⋅⋅さっきのやり取りからもわかる通り、ポトスの姉です。」
ギルドの一区画を任されるぐらい、ポトスと比べてキャリアは長いのだろう。話し方も落ち着いている。
「ご丁寧にありがとう。」
「では、話を戻しますね。マリア様、記入の方はお済みになられましたか?」
物件購入に関する書類だろう。ミリオンさんの確認に対して、マリアは再びじっくりと書類を確認した後、顔を上げた。
「⋅⋅⋅⋅⋅⋅えぇ、記入漏れ、記入ミスも無いわ。」
「ご確認ありがとうございます。」
そう言って、ミリオンさんがマリアから書類を受けとる。さっと目を通した後、纏めて机の上に置く。
記入漏れやミスがあっても、後でギルドの方が確認してくれるため心配はない。が、その分の書類を書き直さないといけなくなるなど面倒なことになる。
ミリオンさんが確認したところ、そういった所は見当たらなかったようだ。
「これで購入手続きは終了です。後日、こちらから住宅証を渡しに行きますが、家の方は今日から使っていただいて構いません。」
「分かったわ。ありがとう。」
住宅証とはその家の持ち主に配布されるカードであり、二枚で対になっているうちの一枚をギルドで管理することによって家の所有者を把握している。
詳しい所は良くわからないからな。知りたいならギルドに聞いてくれ。
それはそうとして、『今日から』とはどうゆうことだ?
「なぁ、マリア?」
「なにかしら?」
「今日から使っていいって、昨日の夜はどうしたんだ?」
「えっ!マリアさん、昨日お家で寝てないの!?」
「えぇ、まぁ⋅⋅⋅⋅⋅⋅」
聞くと、冒険者という仕事柄一ヶ所に滞在することがなく、基本宿で済ましていたせいで家の購入手続きに戸惑ってしまったとのこと。
昨日はとりあえず町の宿に泊まったらしいが、そうゆうことならうちに来ればよかったのに。
「いくらパーティーペアでも、あまり迷惑はかけられないわ⋅⋅⋅⋅⋅⋅特に、寝るときとか、その⋅⋅⋅⋅⋅⋅。」
「あ、あぁ⋅⋅⋅⋅⋅⋅」
理解した。まぁ、王都では色々あったしな。特に、寝るときとか、寝るときとか⋅⋅⋅⋅⋅⋅。
単純に宿に止まってもらって正解だったと思う。
俺とマリアが少しぎこちない雰囲気になっているのを感じたのか、ナナが首を傾げる。何が原因でぎこちなくなっているのかには気づいてないらしい。
「で、では、そろそろ私も職務に戻りますので、この辺でよろしいでしょうか?」
「わ、分かったわ。」
「突然お邪魔してすまなかった。」
「私も、すいませんでした。」
その後、軽い別れの挨拶をして不動産スペースを後にする。
「マリアはこれから家に行くのか?」
「えぇ、そうだけど、シュウくんとナナさんも来るのかしら?」
「いや、直ぐに行くつもりはないぞ。」
家が買えたかどうかを確認したかっただけだしな。それに、買ってすぐは色々と忙しいだろう。手伝いはするが、あまりお邪魔するのは良くない。
「じゃあ、また落ち着いたら連絡するわ。」
そういう俺の意図を悟ってか、マリアはここで別れて新居へと帰っていった。
することのなくなった俺たちは、特になんの意味もなく自宅へと帰っていた。
「あっと言う間に暇になっちまったな。」
「だね。帰ってなにする?」
ブレーキさんの部屋の方も確認に行くが、それは今ではない。まだ昼にもなっていないが、今日の間は暇になりそうだ。
何か出来ることはと思考を巡らせていると、ひとつの案が浮かんだ。
「⋅⋅⋅⋅⋅⋅あっ、そういや、フジダマの種を植えようって話をしてたよな。」
「あー!そうだったね。デルフィニさんがくれたやつ。」
そう、あのキラキラ貴族風隊長のデルフィニさんである。言動は少し変わっているが、言うことは案外しっかりしている、たしか⋅⋅⋅⋅⋅⋅そうそう、第一重攻撃隊隊長だ。よく思い出した、俺。
「帰ったらすることもないし、植えてみるか?」
「うん!そうしよ!」
やることが決まったからか、余程あのフジダマと言うのが好きなのか、ナナはまだある回りからの視線さえ気にせず俺の手を引いて走り出した。
遅くなりました。
あと次のフジダマの話が終わったぐらいで一気に時を飛ばして戦闘に移行したいと思います。
新しいグレネードやアイテム(!?)に関しては、その戦闘の中でお披露目していきたいと思います。
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