誤解は怖い
遅くなりました
翌日、目が覚めると俺はベットの上にいた。
(えーっと、たしか昨日は⋅⋅⋅⋅⋅⋅。)
そうそう、ここは王宮の客間のはずだ。昨日のスタンピード退治が終わりルーンと合流した後、俺はオスペオさんのところに報告へ行った。
その後、本当はその日のうちに俺たちの町へと帰るつもりだったのだが、今回のことで話があるそうなので今日まで待ってほしいとのことだった。
⋅⋅⋅⋅⋅⋅国王として事後処理などもあるんだろう。
と言うわけで、もう一日王宮に泊まらせてもらうことになったのだが、
「わ、私、お店売っちゃったんですが、ど、どうしたら⋅⋅⋅⋅⋅⋅。」
と顔を青ざめて訴えるルーンに、オスペオさんが「それなら、一緒に泊まってくれれば良い。」とルーン、あと一緒にいたマリアも泊まれるように大部屋を用意してくれたのだ。
そして冒頭に戻るのだが、意識が覚醒してから、少しばかり違和感を感じていた。主に左腕の辺りに⋅⋅⋅⋅⋅⋅。
現時点での状況から判断して、最もあり得るのはナナが抱きついていることだろう。それはいつものことだし、そのためか最初は違和感があることに対しての疑問は湧かなかった。
ならなぜ疑問を持っているのか。それは、ナナがこのベットに居るはずがないからだ。
というのも、ナナには『せっかくだからルーンと一緒に寝てきたらどうだ?』と言ってあるからである。女の子どうし、二人で話したいこともあるだろう。
なので、昨夜俺は一人で寝たはずなのである。
となると次に考えられるのはマリアか?そういえば布団の中にいる何かもナナよりは大きい気がする⋅⋅⋅⋅⋅⋅。
確かマリアは同じ部屋の違うベットに寝たはずだ。
寝室は二部屋。俺とナナ、マリアとルーンの予定だったのがナナとマリアが交代したのである。
少し体を捻りマリアがいるはずのベットを見ると、案の定
「い、いない⋅⋅⋅⋅⋅⋅。」
即座に顔を戻し、ゆっくりと布団を捲ると⋅⋅⋅⋅⋅⋅
すー、すー、すー
これもまた、案の定可愛らしい寝息をたてているマリアがいた。
「っ⋅⋅⋅⋅⋅⋅!」
そして、そんなマリアの姿を見て⋅⋅⋅⋅⋅⋅不覚にも可愛いと思ってしまった。いや、誰から見てもマリアは美人なのだが、ナナという彼女がいる身でこんな感情を抱いてしまうのは、修行不足か?
─────あ、そもそも修行なんてしてないか。
さらに俺の心を揺さぶってくるのが、左腕に伝わる柔らかな感触である。
(あ、当たってるんだが⋅⋅⋅⋅⋅⋅。)
今まで特筆はしてこなかったが、マリアはアレが人並みにはある。
⋅⋅⋅⋅⋅⋅スイカではないにしろ、普通に意識してしまう。
これ以上は邪な感情が溢れかねないので、マリアの肩を揺すって起こす。
「おぃ、マリア。なにやってるんだ。」
「んっ、んん~⋅⋅⋅⋅⋅⋅」
マリアが嫌がって体を捩り、さらに強く俺の腕を抱きしめてきた。
(うっ、余計あの感覚が⋅⋅⋅⋅⋅⋅。)
と思ったその瞬間、何が不満だったのかもっと力を入れてきて、
「っ!い、痛い痛い痛い痛い!」
「んにぃ⋅⋅⋅⋅⋅⋅うるさいぃ~。」
「くぅぅっ~。」
さすがSランク冒険者。その細い腕からは考えられないほどの力で腕が捕まれている。もう『あの感覚が』なんて気持ちは微塵として残っていない。
さらに新事実、マリアは朝に弱いみたいで、これぐらいでは全く起きてくれないようだった。
(これは⋅⋅⋅⋅⋅⋅諦めるべきか?そうなのか?)
腕の一本や二本、失ったところで⋅⋅⋅⋅⋅⋅とはいかないが、探せばグレネードの中にも《回復弾》なるものがあるだろう。たぶん、うん⋅⋅⋅⋅⋅⋅。
そう思って俺の左腕の安全を諦めかけた、その時だった。
ガチャ
「んんー!シュウ、おはよ⋅⋅⋅⋅⋅⋅。」
「あ、ナナ。」
「ふにゃぁ?」
大きな伸びをしながら、ナナが部屋に入ってきた。
おかげでマリアが目を覚ましてくれたようで、腕の力が緩まった。
「ナナ!良いところに⋅⋅⋅⋅⋅⋅え?」
「シュ、シュウ⋅⋅⋅⋅⋅⋅?な、なんで」
見ると、ナナは顔が青ざめてわなわなと震えていた。
その直後、自分の置かれた状況の意味を理解した。
(これって、浮気がばれちゃったときの感じじゃないのか?)
ナナからしてみれば、起きて彼氏の部屋に行ってみれば、自分の友達がその彼氏に抱きついて寝ていた、ということになる。
この現状だけを見れば、浮気と考えられる可能性は⋅⋅⋅⋅⋅⋅ほぼ100%
「い、いつから、なの?」
「ナナ、違うんだ。これは誤解で⋅⋅⋅⋅⋅⋅」
「良いわけなんて聞いてないもん!いつからそんなことしてたの!」
ナナは震えたまま目にいっぱい涙を溜めていた。
「おい、マリア。ちゃんと説明しろ。」
「ん~、もうちょっとだけ、」
骨折は免れたものの、未だ俺の左腕にマリアは抱きついていた。
「ど、どうせ、私のことなんて飽きちゃったんだ!二人で隠れてあんなことやこんなことしてたんだぁ!」
「ま、待て!そう自暴自棄になるな!」
「うわぁぁーーん!」
そう言ってナナが部屋から走り去ろうとしたとき、部屋にルーンが入ってきた。そのせいで俯いたまま走っていたナナとぶつかってしまった。
「きゃぁ!」
「うぅ⋅⋅⋅⋅⋅⋅。ルーンちゃぁん、シュウがぁぁ⋅⋅⋅⋅⋅⋅。」
「ル、ルーン!これは違うんだ!」
ルーンにまで誤解されれば、俺は本当に最低浮気男になってしまう。必死に弁解しようとしたその時、ルーンから思いもよらぬ言葉が発せられた。
「マリアさん、またやってるんですか?」
「「え?」」
「また、ってどうゆうこと?」
「マリアさん、私が寝てたらベットに潜り込んできたから追い返したの。その時ナナちゃんはもう寝てたから気づかなかったんじゃないかな?」
「そ、そうなのか?マリア。」
「覚えてなぁ~い。」
まだダメそうだ。
「それで帰っていったから大丈夫だと思ったんですけど、今度はシュウくんのベットに潜り込んでたんですね。」
「じゃあ、シュウが私に飽きちゃったんじゃなくて、」
「マリアさんが潜り込んじゃっただけだね。それに、どう見ても鴛鴦夫婦なのに飽きるわけないじゃん。」
「シュウ、本当?」
「あぁ、本当だ!」
「飽きてない?」
「そんなわけないだろ?」
「うぅぅ、シュウぅ⋅⋅⋅⋅⋅⋅。」
再び目に涙をいっぱいに溜めたナナが俺の方へと走ってきた。
飛び付いてくるので、自由な右腕でしっかりと抱きしめる。
「シュウぅ~、大好きぃ~。」
「よしよし、俺も大好きだよ。」
頭を撫でながらそうやって呟きあっていると、後ろからこっちまで眠たくなってくるような声が聞こえてきた。
「あれ、ここわぁ、どこなのぉ?」
「お、マリア、気がついたか?」
「んん?⋅⋅⋅⋅⋅⋅っ!シュウくん!?なんで私のベットに!ま、まさか、私のことを襲おうと⋅⋅⋅⋅⋅⋅。」
俺を認識した瞬間、マリアは飛び起きてベットの隅にへたりこんだ。
今度はマリアからあらぬ疑いをかけられそうだったので、少し怒り気味に言った。
「待て待て、ちゃんと回りを見ろ!ここは俺のベットだ。」
「っ⋅⋅⋅⋅⋅⋅!そ、そうね。」
「つまり、潜り込んできたのは、マリア、お前の方だ。」
俺が事実を述べたその瞬間、彼女は耳まで赤く染めて布団に顔を埋めてしまった。
「はぁ~、昨日の夜のことは覚えているのか?」
「おぼえでないでずぅ~。」
布団で声がくもって聞こえてくる。自分が何をやったかどうかは覚えてないようだ。
「うぅぅ、許してぇ、なんでもするからぁ。」
「いや、大丈夫だから。とにかく何か対処する必要があるな。」
女の子座り+涙目で『何でもする』というのに邪な感情が出てきそうになったのを必死に押さえ込み、今後の対処について考えることにした。
結果としては、とりあえず鍵を閉めて他の部屋で寝るということになった。
─────にもかかわらず何度かマリアが潜り込んできたことは別の話だ。
朝からひどく疲れてしまったがその後朝食をとり、朝早くオスペオさんのもとへと向かった。
久しぶりにいちゃいちゃ回です。(朝の一場面だけです。)
いちゃいちゃ回をどれぐらいの頻度で出すべきか分からないので、教えていただければ嬉しいです。
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