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スタンピード対抗戦3《終結》

西門前に戻ると、さっきまでとは打って変わって冒険者、騎士が整然と並んでいた。


予測だとスタンピードが来るまで後5分。堀の近くには魔法や弓を使う人たちが、堀の先とデルフィニさんのアドバイスで作った堀の中心にある隙間の所には剣士など接近戦を主とした人たちが整列している。


これからの戦闘に備えての配置だろう。


「すっごいピリピリしてるね。」


「さっきまでとは比べ物にならないな。」


この雰囲気をそのままスタンピードにぶつけでもすれば勝てたりしないだろうか。


⋅⋅⋅⋅⋅⋅そんなことを考えてるところからして、俺も平常心ではないのだろう。


理由はご存じの通りスタンピードへの緊張のせいなのだが、それに拍車をかけているのが、


「それにしても、暑いっすねぇ~。」


「そうね。毎年この時期は暑いけど、今年は異常ね。」


この暑さである。さっきまでは回りに人があまりおらず、且つ堀作りに集中していたので気にならなかった。その条件が無くなった今、この体に纏わり付くような暑さを意識せざるをえない状況であった。


「うぅ、暑いよぉ。日影行こうよぉ。」


「ナナは戦う訳じゃないし、影に行っとくか?」


「シュウは?」


「俺はここに居ないとな。」


「そうだよね⋅⋅⋅⋅⋅⋅。が、我慢するぅ。」


「大丈夫なのか?」


「う、うん⋅⋅⋅⋅⋅⋅。」


俺が堀を作っている間ナナたちは日影にいたようで、外に出た瞬間この有り様だ。


回りを見てみると、ピリピリとしてはいるものの多くの人が汗を流していた。それはブレーキさんも同じで、あとマリアも⋅⋅⋅⋅⋅⋅ってあれ?


「マリアは、暑くないのか?」


「そうね、今は暑くないわ。」


「でもマリアさん、さっきは汗かいてたっすよ?」


「そうなのか?」


「えぇ、さすがに暑すぎてね。今は私の回りの空気を魔法で冷やして(・・・・)いるの。」


「なっ!ず、ずるいよぉ!」


「そっか、マリアは魔法剣士だしな。魔法も使えるわけか。」


だが、正直ずるいよなぁ。


「そうっすね。ずるいと思うっす。」


「仕方ないでしょ?暑いんだもの。」


「「むぅー!」」


ナナとブレーキさんが口を尖らせている。ナナはいいけど、ブレーキさん⋅⋅⋅⋅⋅⋅。一応隊長なんだよな?


「はぁ、仕方ないわね。これで文句は無いかしら?」


そう言ったと思ったら、突然マリアから膨大な量の魔力が流れ出た。


「凍結せよ《フリーズフィールド》!」


その瞬間、回りの気温が一気に低下した。といっても寒いわけではなく、ちょうどいいところをキープしている。


他の冒険者や騎士達も、不思議がってキョロキョロとしていた。


「「おぉー!」」


「これはすごいっす。莫大な量の魔力っすね。」


「涼しいねー!」


他の人たちのいる場所を含めたら──半径100メートルはあるか?こんな範囲を一気に冷やすとは⋅⋅⋅⋅⋅⋅


「これはすごいな。」


「《フリーズフィールド》空間ごと凍結させる高位魔法っすね。」


「そう。威力を下げて範囲を広げたのよ。気温を下げるだけだからね。」


気温が下がったお陰か、少しばかりボーッとしていた頭がすっとした。


「ありがとな。マリア。」


「べ、別に!これぐらい朝飯前よ!」


だろうなぁ。Sランクだし。


そんなことを思っていると、堀の方から声が聞こえてきた。これは⋅⋅⋅⋅⋅⋅デルフィニさんだな。


「来たぞ!スタンピードだ!」


「ほんとっすね~。」


ブレーキさんが遠くを見ているので、同じように目を凝らして見ていると、何やら土煙のようなものが見えた。


「来てるわね。」


「す、すごい量⋅⋅⋅⋅⋅⋅。」


規模的に、数万はいるかもしれんな。


直に見ると少し恐怖を覚える。だが、少し不適切ではあるが相反して興奮のような感情も生まれた。


─────決して戦闘狂とかではない。


「さて、始めるか。」


まずはスキャナーに《魔法・統一》メダルと《加速弾》メダルをセットする。


そして、土魔法Ⅴと加速弾Ⅴを合成。

出来上がったのは、《魔法加速弾・土Ⅴ》


基本的に加速弾を合成すれば、投擲速度と飛距離を伸ばせるようだ。


これを一気に4つ作り、スタンピードの少し手前に投げる。


ブォゥ!


一気に加速し、スタンピードの左右に二つずつ飛んでいく。そして、


「な、なんだあれは!」


誰かの声を皮切りに、みんながざわざわとし始める。その視線の先にあったのは、土でできた高い壁であった。


「シュ、シュウくん。あれは、何をしたのかしら?」


「《魔法加速弾・土Ⅴ》これを使って土の壁を作った。斜めに設置してあるから、ぶつかった魔物達が中央の穴に集まるようになっている。」


これで、西門以外の方向に行かれる可能性を減らしたのと、纏めて倒しやすいようにしたのだ。


「いやぁ、壮観っすね~。」


「そんなこと言ってる場合!?あんなの町に落とされでもしたら⋅⋅⋅⋅⋅⋅。」


「半壊どころか、普通に壊滅するっすね。」


俺も想定外だったが、レベルⅤは思ったより威力があるようだった。


「良く考えたら、シュウの《魔法弾・氷》で気温下げられるんじゃないかな。」


「それもそうだな。」


「くっ!うぅぅ⋅⋅⋅⋅⋅⋅。」


「まぁまぁ、仕方ないっすよ。マリアさん」


「し、仕方なくないわよ!ほんと、なんなのよこのひとぉ⋅⋅⋅⋅⋅⋅。」


後ろ何やらもめているみたいだが、今は次の段階に移らなくては。


スキャナーから《魔法弾・統一》メダルを外し、今度は《粘着手榴弾》と《衝撃弾》をセットする。


「つ、次は何をするのかしら?」


マリアがなぜか顔をひきつらせながら俺の手元を覗いてくる。


「まぁ見てたら分かる。」


「ちゃんと説明して。じゃないと心の準備が⋅⋅⋅⋅⋅⋅。」


「わ、わかったよ。まず、《粘着手榴弾Ⅴ》と《加速弾Ⅴ》を合成する。」


「「「ほぅほぅ。」」」


いつのまにか他の二人も覗きに来ていたようだ。


「できた《粘着加速手榴弾Ⅴ》に《衝撃弾Ⅴ》をくっつける。」


粘着性のある手榴弾なので、回りに他のものをくっつけられる。


「最後に衝撃の方向を下向き、範囲は広めになるようにすれば、」


効果は見てもらったほうが早いか。ちょうどスタンピードの軍勢も土の壁に立ち往生しているところだ。


俺は《粘着加速手榴弾Ⅴ+衝撃弾Ⅴ》を土壁の奥に向かって放り投げた。


それはぐんぐん加速していき、ちょうどスタンピード軍勢の真上にきたその瞬間、


ドゴォォン!


耳をつんざくような音と、これだけ離れていても多少の爆風が届いてくるほどの爆発が起きる。そして、そのエネルギーは衝撃弾によって真下へと放出され、さながら神の鉄槌のごとく土の壁ごと魔物達を襲った。


「くぅっ、な、なんだあれは!」


「この世のものとは思えない。か、神の力か!?」


回りからも聞こえてくる通り、爆破によって空が一瞬赤く染まったことで、この世とは思えない空間を作り出していた。回りの冒険者や騎士達は驚きを隠せないといった表情で、中には手を組んで祈りを捧げるものまでいる始末だ。


「ちょっとやりすぎたか?」


「あれは⋅⋅⋅⋅⋅⋅ちょっととかゆう次元じゃないっすね。」


「な、なんなのよあれ⋅⋅⋅⋅⋅⋅。」


「一応、《グレネード》だが?」


「「そうゆうことじゃない(わ!)」」

           (っす!)


「お、おぅ⋅⋅⋅⋅⋅⋅。」


足元に違和感を感じ見てみると、腰が抜けたのかナナが座り込んだまま涙目で俺のズボンの裾を引っ張っていた。


「シュ、シュウぅ⋅⋅⋅⋅⋅⋅。」


「す、すまん、ナナ。」


足元のナナを抱きかかえると、余程怖かったのか俺の胸に顔を押し当てて泣いてしまった。


ナナの頭を撫でてあやしていると、前の方からデルフィニさんが走ってくるのが見えた。


「な、なんなんだあれは!」


さっきの爆発の場所を指差しながら、デルフィニさんはそう叫んだ。


「す、すいません。あれ、俺がやりました。」


「なっ!?あ、あんなの一人の人間が持てる戦力じゃないぞ!それこそ、国直属の魔道師500人が全魔力を出しきってやっと出せるぐらいの⋅⋅⋅⋅⋅⋅って聞いてるのか!」


「シュウぅ~、怖かったよぉ。」


「よしよし、ごめんなぁ、ナナ。」


「お、おまえぇ!」


あ、何やら怒っていると思ったら、まだ話の続きだったようだ。


でも、仕方ないよな?だってナナが涙を流しているんだから、そっちのほうが優先するべきだ。


「デルフィニ、シュウくんは彼女であるナナさんを慰めているんっすよ?そこに文句を言うのは男としてどうなんっすかねぇ。」


「ブ、ブレーキ!けど、お前こそ『リア充なんて末永く爆発しろ』って⋅⋅⋅⋅⋅うぐっ。」


「で、その先はなんすか?」


「く、くぅぅ!」


デルフィニさんは、何やら言い切る前にブレーキさんに背後から口を押さえられ悔しそうにしている。


お陰で気兼ねなくナナをあやすことができ、ナナもやっと落ち着いたようだ。


「わ、私、影が薄いのかしら⋅⋅⋅⋅⋅⋅Sランクなのに。」


今度はマリアが何か嘆いているようだが、さすがに俺にはどうにもできないな。


「と、とにかくシュウくんとナナさん!あとそこの隊長さん達も!現状を考えてよね!」


「現状っすか?」


「今、スタンピードが来てるのよ!?ほら、あれ⋅⋅⋅⋅⋅⋅って、え?」


スタンピードの方向を指差したマリアは、その先の光景を見て呆けていた。


まぁ無理もないだろう。なんてったって、そこにいたはずのスタンピードの魔物達がほとんど跡形もなく消え去っていたからだ。


俺が作った土の壁もきれいに無くなっており、残っていたのはごくわずかな魔物の生き残りと所々が溶岩と化している大きなクレーターだけだ。


その様子を見て、デルフィニさんが説明してくれた。


「スタンピードなら、さっきの常識はずれの一撃のせいでほぼ壊滅したぞ。生き残りのほうも騎士や冒険者に指示して倒しに行かせている。完全に倒し終わるのも時間の問題だな。」


「規模数万のスタンピードを一撃、ね⋅⋅⋅⋅⋅⋅ふふっ、ふふふ、あははははは⋅⋅⋅⋅⋅⋅。」


「ま、マリアさん?大丈夫?」


その説明に、突然笑いだしたマリア。顔はいつものクールさの面影も無いほどひきつっていた。


「どのみち危機は去ったってことっすね。」


「ブレーキ、考えが軽すぎるぞ。」


「深刻に考えることでもないっすよ。スタンピードが退治できて万々歳っす。」


「けど、こんな力が世間に知れたら、シュウくんの身が危ないんじゃないかしら?」


「えっ!シュ、シュウ、悪い人に捕まっちゃうの?」


「ないことは、ないな。」


これほどまでの力とは、土の壁に続いて想定外だった。確かに知られるのは不味いかもな。


「それについてはたぶん大丈夫っすよ。王様に言っとけばどうにかしてくれるっす。」


「ほ、ほんと?シュウ襲われない?」


「大丈夫っすよ。」


「よかったぁ!」


ナナがとても喜んでいたが、もしそうなったとしても易々と捕まる気は無いがな。でもそうならないのが一番だろう。


「じゃあ、あっしは王様にこのこの伝えてくるっす。早いほうがいいっすからね。」


「そうだな。お願いするよ。」


「了解っす。」


「俺は生き残りを倒しにでも行ってくるか。お前らはもう戻っていてもいいぞ。俺がいれば十分だからな。」


そういって、デルフィニさんは向こうへと走っていってしまった。


俺達を休ませてあげようと言う、彼なりの気遣いなのかもしれないな。


「じゃ、俺たちは王宮の方へと戻るか。」


「そうね。」


「わかった。」


そして、俺たちは西門から王宮へと戻っていったのだった。


「⋅⋅⋅⋅⋅⋅あぁっ‼」


「な、ナナ!?急にどうしたんだ?」


「そういや、ルーンちゃんと王宮の近くで会おうって約束してたの忘れてた!」


「っ!ま、不味い、急ぐぞ!」


「うん!」


結果的にルーンは避難施設に行っていたようで、その後合流することができた。


「⋅⋅⋅⋅⋅⋅ルーンって、誰?」


マリアのその呟きが誰かの耳に届くことはなかった。

スタンピードを一撃で、同じレベルⅤなのに土の壁と威力がけた違い?


合成したり同時使用することで多少威力が上がっている、とお考えください。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ブレーキ隊長が今度はお笑い担当としてしっかり活躍wアドバイザーになったり解説役になったり、戦闘・日常・お笑い。一人で様々こなせるいいキャラにしていただけたようで。 [気になる点] 「土壁は…
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